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俺は次のステップへ向けて準備に取り掛かる。


 激動の一日(言い過ぎか)を終えて本日は日曜日だ。当初の予定では早朝からルーティンワークを熟して、昼前には出立して実家に真那伽を送って行くだけの筈だったんだが。

 ダンジョンを発見してしまった事を探索者協会に連絡をしなければならない。後市役所にもだが、此方は公的機関なので土日祝祭日は休みだから、明日に回す事になる。なので取り敢えず今は。


 「しかし、よく朝っぱらからそんなに食えるもんだな」


 昨日のダンジョンで(タマコと恭平が)斃したホーンラビットのドロップアイテムである肉の塊を、ガツガツと胃袋の中に収めて行く二頭のワイルドな食事風景に俺は自分の分の和食メニューの朝食を摂りつつ、ボヤく様に話し掛ける。


 『ふが、ふが、ぐが・・』


 『うが、うが、ぶが!』


 「そ、そうかよ。分かった。まぁ、タップリ食えよ」


 二頭の言う事を直訳すると『美味いんだからいっぱい食べたいんだよ』との事だった。

 うん。まあ、本人が胃もたれとかしないんだったら、これ以上俺から言う事は無い。美味いものを美味しく食べられるって事は人生の喜びだからな。

 因みに俺も久しぶりに美味なる朝食に舌鼓を打ち、美味い朝食に胸を熱くしている。ばあちゃんがこの家を離れてからは、大抵朝食はパンとヨーグルトや牛乳で済ますんだが、今日は昨夜に続き真那伽が作ってくれた久し振りの和食メニューだ。


 「美味いよ真那伽、また腕を上げたな。ホントにばあちゃんの味に近づいたな」


 ばあちゃんと暮らしていた一年間は毎日ばあちゃんが作ってくれて、俺も手伝いながら次いでに料理を教わっていたが、あまり上達しなかった。まぁ、それでも及第点くらいは付けれもらえたけど。

 

 「えへへ、でしょ!毎日おばあちゃんに教わってるからね」


 今は農業を引退し俺の実家で暮らすばあちゃんだが、料理くらいならまだ十分に熟せるだけの体力はある。と言うかある程度は動かないと本当に寝たきり老人になってしまうから、軽い運動は今でも続けているとの事で、俺としてもばあちゃんを実家に送り出してホッとしている。  

 孫としてはばあちゃんには長く元気で居て欲しいものだ。


 「そうか、ばあちゃんの料理は美味いからな。これからもたくさん学ぶといいさ」


 「うん!お母さんも、毎日おばあちゃんと一緒で楽しそうだよ」


 そうだな。真那伽も母ちゃんも、ばあちゃんと一緒に暮らせて充実した毎日を送っているんだよな。家族が穏やかに暮らしている事が俺は何よりも嬉しい。


 「ねえ、弾兄ちゃん。昨夜から思ってたんだけど、弾兄ちゃんとタマコ達って普通に会話してるよね。もしかしてタマコ達の言葉を理解してるの?」


 「あっ!そう言えば、確かに」


 口に含んでいた卵焼きを嚥下し終えた真那伽からの問い掛けに、俺は今更ながらにその事に思いが至った。何故かは知らんけど、俺はその事を何の疑問も抱かずに極自然に受け入れていた。


 「ねぇ!それって、スキルに目覚めたって事じゃない!?」


 ズイっ、テーブルから身を乗り出して俺の眼前に迫りながら、ニコニコと好奇心全開にして、自身の考えを開陳する真那伽に、たじっと身を引く俺。まだ食事を終えた訳じゃ無いのに、行儀が悪いです事よ。


 「ま、まぁ普通に考えてそうなんだろうけどな」


 味噌汁で喉を潤わせて、真那伽の推論に同意する。思い返してみると、昨日ダンジョンでタマコと恭平に触れた瞬間に脳内に響いた神的な何か(運営さん)の声のアナウンスで、二頭との間に命脈(パス)が通ったとか何か言っていたよな。おそらく原因はソレだろうと思われる。

 アレからだよな。ダンジョンでの帰り道でも普通にタマコと恭平が言ってる事が分かってたし。


 「うわぁ〜っ!!良いなぁ、タマコと恭平とお話し出来るって、スゴい羨ましい。私も話せたら良いのになぁ〜」


 目をウルウルとさせて羨ましがる真那伽に俺は少しだけ優越感を抱く。実際のところ生き物を飼われている人なら一度は自分のところのペットの言葉を知りたいと思う飼い主も多いだろう。俺は図らずもそれを可能にした訳だ。

 まぁ、真那伽の場合は、そんな夢想的な思いと同じ位にラノベ作家志望として、作品のネタとしてもそのスキルを欲しているのかも知れないが。


 「ふふん!そうだろう、そうだろう!もっと俺を崇めても良いんだぞ」


 羨ましがる真那伽に俺は得意気な態度で北叟笑みつつ、そんなアホな戯れ言をほざく。


 「うわっ、弾兄ちゃんがスッゴい天狗になってる!」


 「バッカお前な、現代社会で天狗になれるのは空手の極限を極めた者だけなんだぞ」


 小気味良く返ってくる真那伽の突っ込みに、往年のゲームネタで返す俺。最近は殆どゲームに触れてないんだが、ネットで拾った情報だと三人目の天狗面も登場してるんだよな。


 

 家族団らんの賑やかな朝食を終えて時刻は午前七時を過ぎ、俺は二枚の小皿にトマトと売り物では無い家庭菜園からブロッコリーとカリフラワーを乗せて、家の母屋から十メートルほど離れた植え込みの生け垣の側に置いておく。


 「ねぇ弾兄ちゃん、本当に来るの?」


 その野菜を用意している俺を見咎めた真那伽に、何事かと問われたので掻い摘んで説明すると、好奇心いっぱいにして真那伽はそれを見たいと俺に同行してきた。


 「ああ、見てると良い」


 その二枚の小皿を置いて、俺は真那伽にその場から離れるように促して、二人で家の方へ向かう。

 そうして縁側に腰を下ろして四〜五分ほどが経った頃、生け垣の隙間から小さな生き物が二頭姿を現した。それは綺麗な金色の毛色と白い毛色の二頭の子狐だ。


 「わっ!ホントだ。弾兄ちゃんホントにキツネの子供だよ。スッゴイ可愛いねぇ!」


 腰掛けていた縁側から立ち上がり身を乗り出して、真那伽は二頭の子狐の姿に大興奮である。街場に居ては滅多にお目にかかれないキツネで、しかも二頭共が幻想的なまでに綺麗な毛色をしているのだから、真那伽の興奮もさもありなん。


 「ああ、可愛いだろう」


 この狐の兄弟、或いは兄妹か姉弟なのか姉妹なのかは分からないが、この二頭と出会ったのは二週間ほど前の事。その日も早朝の恭平の散歩へ出掛けようと玄関から家を出て直ぐの事だった。

 何やら内の家庭菜園の方から物音と聴き慣れない動物の声が聴こえ、すわ何事かと恭平とタマコと共に向かってみれば、菜園の四方を囲む防獣ネットの網に二頭の内の白い方の子狐が絡まっていた。

 まぁ、状況的に菜園の野菜を狙って侵入を試みたんだろうが、キツネにネット等の侵入防止柵の事など理解出来る筈もなく、敢え無くネットに絡まってしまったと言う訳だろう。

 ネットに絡まった白い兄弟?の事を案じてか右往左往する金色の子狐。俺は周囲を見渡し、この子達の親狐は居ないのかと見渡してみたが、どうやら親狐は居無さそうだった。これはどうした物かと思案するが、さすがに藻掻いている小さな生命を見捨てるのも後味が悪い。俺は家に引き返して裁ち鋏を持って菜園に向かい、ネットを切って白い子狐を解放した。

 その作業中、二頭とも俺を威嚇していたが、金色の子狐を恭平がブロックしてくれ、タマコが白い子狐の側に寄り添い、その作業はスムーズに終える事が出来た。


 「あの子達の毛色って、自然界だとすっげぇ目立つからな。もしかしたらそれで親に捨てられたのかも知れないな」


 そんな事があり、俺達に害意や敵意が無い事を理解したのか、あの二頭はどうやらこの近くを住処に定めたのか、頻繁に我が家に訪れる様になった。

 今、言った様に目立つ毛色の子供なんて、親狐からすると自然界で生きるにはウィークポイントになりかねない、野良の親猫なんかでも自分が産んだ子供の中から、取捨選択して見込のない子供を切り捨てるし。十分にあり得る話だし、ばあちゃんは言わないがタマコもそんな親に捨てられた子猫だったのかも知れない。


 「そうなんだ。可哀想だね、私あの子達抱きしめてあげたい!」


 「気持ちは分からんでも無いが止めておけよ」


 そう、可哀想なんだよな。俺達文明社会に生きる人間の価値観から見ると。だが、それでも手を差し伸べてしまうのが、俺の甘さなんだろう。


 「うん。やっぱ、自然の生き物とはある程度の距離を保って付き合わなきゃなんだよね」


 「だな。本当なら俺も、野菜なんか分けてやるべきじゃ無いんだろうが、一度救った生命だからこれくらいはと、まぁ、少し偽善的だけどな」


 そう、唯の偽善だ。自分の知る者が不幸になるのを見るのが忍びない、なんてのは自己満足の極みって奴だ。ガツガツと野菜を食べる二頭の子狐を真那伽と見守りながらそんな感慨に耽る。


 「うん。それに確かキツネって寄生虫がいるんだよね、何だっけかな・・・」


 「そだ!確か、イノキズゴックだった!」


 「おいコラ、来年受験生!それを言うならエキノコックスだ。たく、一体何処のアントニオさん専用の水陸両用機だよ」


 そんな俺の感慨も台無しにしてくれる妹よ。大丈夫なのか、来年は高三の受験生だってのに、お兄ちゃんはお前が心配で夜しか眠れんぞ。


 


 午前九時を回り、俺は早速探索者協会K奈川支部に電話を掛けてみる。


 『お電話有難うございます。此方探索者協会K奈川支部オペレーター、大宮でございます』


 如何にもな感じの女性オペレーターの声がスマートフォンから流れ、俺は簡潔に用件を告げる。


 『そうでしたか、承知いたしました。早速ですが藤原様、明日ご都合の良い時間帯は御座いますでしょうか』


 「ああ、ウチは自営の農家ですから、基本的には何時でも大丈夫ですよ。まぁ、早朝とか深夜とか常識外れな時間でなければですけど」


 『ふふふ、失礼しました。その様な事は御座いませんので、ご安心下さい。これよりダンジョン査察班に報告を上げますので、後程改めて御連絡を差し上げる事となりますが、明日には間違いなく藤原様宅に査察班がお伺い致しますので御安心下さい』


 「そうですか。じゃあ、それでお願いします」


 『はい、承りました。では後ほど詳細が決まり次第、折り返しお電話致します。本日は担当大宮がお受付致しました、御電話有難うございました』


 「いえ、こちらこそありがとうございます、では失礼します」


 『はい。失礼致します』


 如何にもマニュアル然とした受け答えであったが、簡潔に要件を取りまとめてくれて、通話は手早く終えた。まぁ、明日査察が来るそうだが詳細は後で決まり次第連絡をしてくれるって事で、取り敢えずこの件は後に持ち越しだ。

 この後は、麓の洋食屋から依頼のあった分のトマトを収穫して届け、その足で序でに真那伽を実家まで送り届けるだけだ。土産にタマコと恭平が了承してくれたのでホーンラビットの肉を持って行く。久し振りに家族と会えるのは、まぁ嬉しい事だな。タマコと恭平も一緒に行くので、二頭もばあちゃんに会える事を喜んでいる。


 

 

 一夜明けて月曜日。本日は急ぎの業務も無く、午前中にハウスのトマトの手入れを済ませ、午後からは探索者協会からの査察を受け入れる予定である。

 そうして午前中の仕事を終え、昼食を済ませ休憩を取っていると探索者協会から電話連絡があり、その後間もなくして査察担当者が到着した。


 「此方です」


 挨拶も早々に俺は査察担当者をクヌギの木の方へと案内する。担当者は四十代くらいと二十代くらいの見た目の二人の男性だ。

 

 「なるほど、確かにダンジョンゲートですね。よし早速検査するぞ」


 「はい」


 四十代くらいの年嵩の男がゲートを確認し指示を出すと、若い男が持参した器具を準備と調整し始める。

 大きなアタッシュケースの様な物から取り出した、よく分からない機材を若い男が操作している。その機材にはモニターとキーボードが付いており、何かのプログラムを打ち込んでいる。

 その操作はさしたる時間も掛からずに終了し、若い男が顔を上げて年嵩の男に告げる。


 「準備完了しました」


 「了解した。では私が行こう」


 そう言って、年嵩の男は機材を受け取るとダンジョンへと入場していった。

  

 「ダンジョンの調査と検測自体はそれほど時間は掛からないと思いますので、しばらくお待ちください」


 こちらに残った若い男が、頭を下げながらそう伝えてくれて、俺もこの場で終わるのを待つことにする。そのついでに若い男にいくつかダンジョン関係の質問をしておこう。


 「はい。ところで、あの機材でどんな事が調べられるんですか」


 「そうですね。先ずはダンジョンから放出されている魔素量を検測します。そしてそこから導き出し大まかなダンジョンの総階層などが推測出来るんですよ。その精度はおおよそ九割六分と言ったところですね」


 若い男は俺の質問に簡潔に答えてくれた。今の俺の質問は、別段協会の極秘事項とかでは無いのだろう。


「へぇ、今はそんな事も調べられるんですね」


 「はい。ダンジョンの発生から十三年、その間にダンジョンから産出される資源やアイテムの恩恵で、科学技術も一段と高度に進化しましたからね」


 「ああ、確かにそうですよね」


 あの挫折からダンジョン関係の情報を敢えて知ろうとしなかった為に、やはり俺はある種の浦島太郎状態になっていたんだな。と言うか、現在巷に溢れている普段使いの機材や機器にも、ダンジョン由来の技術が用いられていても何ら不思議では無いんだろうな。


 「ところで藤原さん。このダンジョンに入ってはいませんよね」


 「えっ、ああ・・それがですね、実はこの二匹がこのダンジョンへ入り込んでしまったので、連れ戻す為に一昨日入っていったんですよ。一応、十年前に探索者ライセンスを取得していますので」


 ダンジョン由来の技術に感心していると、若い男が俺にそう尋ねてくる。何故そんな事を確認するのだろうかと訝しく思いつつも、俺は正直に自身の行動を話した。


 「そうなんですか。ですが、ダンジョン探索者の規約が六年前に変更されましてね。おそらく藤原さんの資格は失効、もしくは停止扱いになっていると思われますので、もし今後このダンジョンを管理探索をされるのであれば、更新もしくは再取得の手続きを行わなければならないんですよ」


 「えっ本当ですか、じゃあ俺は法的に罰せられるんですかね?」


 男から齎された、知られざる情報。と言うか、単に浦島な俺が知らなかっただけなんだろうが、今はそんな事になっていたのか。

 不味いな、免許失効状態で車やバイクを運転すれば、法的に罰せられるんだから、それを当てはめて考えれば、俺も罰則を課せられるのだろうか。そんな不安が脳裏に擡げる。


 「まあ今回はお飼いになられている、その子たちの為と言う事もありましたでしょうし、規約の変更などもご存知無かった様ですし、私達の方からも上にその様に報告しますので特に罰則は適用されませんので、ご安心ください」


 「そうですか、良かった、ありがとうございます」


 しかし、男が言うには今回の件は情状酌量が適用されお咎めなしになるとの事、助かったと俺は心底安堵する。


 「但し、今後ダンジョン探索を行うつもりなら、先ほども言いましたけど、ライセンスの更新を行ってくださいね」


 「はい。そうします」


 今後はライセンスの更新無しでの入場は認められないと釘を差される。それは致し方無しだな。

 今後、このダンジョンに入るにはライセンスの更新が必要か、タマコと恭平の事を考えると、それは必要になるな。後で今週の予定を調整して、近々に更新をしに行こう。

 確かO田原街地に支部があったはずだから、其処で更新とか講習とかやってるだろう。


 若い男性にダンジョン関係の話を聞きつつ調査の終わりを待つ。それから十分も経たずに調査は終わった様で、年嵩の男がダンジョンから戻り結果を伝えられた。

 

 「結論から申し上げますと、検測の結果このダンジョンはおそらく三もしくは四階層からなる、低ランクのダンジョンであるとの結果が出ました。ですので個人で所有されるにしても、それ程の資産価値は無いと思われます。これから調査結果のデータファイルを作成しますので、そのコピーを後ほどお渡し致します。それを後日市役所にご提出ください。まあ失礼な言い方になるかも知れませんが、こんな地方の山間の小規模なダンジョンですし、固定資産税も五桁に収まる程度だと思いますよ」

 と言う事で、俺はその結果に安堵した。もしその結果このダンジョンが大規模な物で資源が豊富に採れるとなったら、探索者に開放しなければならなくなる可能性があった。そうなればこの静かな山間の暮らしの邪魔になっていただろう。

 小規模なダンジョンなら、たまに仕事の合間にでも探索して魔物の魔核やホーンラビットのドロップアイテム目当てに潜れば、それなりの稼ぎと美味い肉が定期的に食える様になる。俺達家族にはそれで十分だ。


 「そうですか、分かりました。今日はわざわざありがとうございました」


「いえ、お気になさらずに。此方も仕事としてお邪魔いたしましたので」


「ところで質問なんですが、どうやら十年前に取得した俺の探索者ライセンスが失効か停止になっているらしいんですけど、更新や再発行はO田原の支部でも受け付けてくれるんですかね?」


 ただ、それを行うにはライセンスが必要となる。だからその辺りの事は、知っておかなければならない。


 「そうですね。基本O田原の支部では魔物素材やダンジョンで採掘された資源の買い取りと、探索者へのアイテム販売が主な業務で、後は今回の様にダンジョン発生の報があった場合の対応くらいですかね。ですので新規の登録や更新再発行等は各都道府県の県庁所在地の支部での受け付けになっておりますので、K奈川県ならY浜のK奈川総合支部での受け付けになりますね」


 「そうなんですか。ちょっとY浜まで出るのは面倒ですね」


 年嵩のおっちゃんは、俺の質問に親切に答えてくれたのだが、Y浜まで出るのはやはり億劫だ。

 Y浜支部(正式にはK奈川の総合支部らしい)はH白楽駅から徒歩十数分くらいのK麻生線沿いにあるんだよな。十年前に取得試験と講習に行ったっきりだが。


 「ハハハッ。確かにそうですね。ですが運転免許証の新規取得試験や再発行を行うならF俣川迄行かねばならないでしょう。それと同じですよ」


 「ああ、そう言われてしまうとそうですね」


 おっちゃんの話に半ば納得する俺だが、しかし運転免許の更新とかなら居住地の最寄りの警察署でも受けてくれるんだから、その辺りは運転免許証の制度と同じ様な扱いにしてくれても良いんではなかろうかと個人的には思う。


 


 探索者協会の査察官二人も任務を終えて我が家を去り、俺も頂いた資料を持って市役所へと赴く事にした。出発の前に一応タマコと恭平に、俺の現在の状況を説明する。人間社会ってのは色々面倒な手続きってのがあって、ライセンスの更新を行わないとダンジョンへ入れないって事を。


 「だから何日間かは、お前達ふたりだけで行ってもらう事になるんだが、大丈夫か?」


 『にゃッ、にゃ(大丈夫よ、)にゃ〜にゃ(そんなに)にゃにゃにゃ〜にゃ(心配しなくても)』


 『わふっ、わうわっ(うんうん大丈夫)』


 俺の心配も何のその、二頭はお気楽な調子で答える。確かにあの時見た二頭の力ならこのダンジョンくらい平気なんだろうが、此方としてはそれでも心配なんだよ。


 「そうか、そう言うならお前達の判断に任すけど、コレだけは約束してくれ」


 『にゃにゃ(何よ)?』


 『わぅッ(なになに)?』


 「ダンジョンに潜るのはお前達に必要な量の魔核(コア)を確保するまでだ。それだけ手に入れたらダンジョンを出るんだぞ」


 だから条件を出して二頭に言い聞かせる。努めて真剣な表情を作って二頭と向かい合う。


 『にゃ〜ッ(分かったわ)』


 『わん(うん)!』


 やはり返ってくるのはお気楽な調子の返事だった。まぁ、もう良いけどな。


 


 市役所にてダンジョン所有の手続きを終えて帰宅し、夕飯も入浴も済ませて一息吐く。

 俺は梅酒を飲みながら今後の計画を練る。探索者協会の営業開始時間は午前は九時。受け付けはそれと同時に開始、午後は一時からの受け付けとなっている。俺のスケジュール的には明後日、水曜日が道の駅へのトマトの出荷があるから、その脚でY浜へ直行すれば午後の受け付けには間に合うだろう。


 「タマコ、恭平。俺、明後日探索者協会に行ってくるわ」


 リビングで寛いている二頭に声を掛けると、欠伸をしながらタマコと恭平は俺の方に顔を向けた。


 『にゃ、にゃ〜にゃ(そ、分かったわ)』


 『わう!(は〜い!)』


 答えながら、再びリラックスモードに戻って行く二頭に、俺はジト目を向ける。全くコイツらは昼間と言い今と言い。


 「何だよ、適当だなお前達」


 スキルに目覚めて、二頭との意思疎通が出来る様になったは良いが、コイツらって大体こんな適当な感じな態度だったんだな。


 


 明けて水曜日である。早朝からトマトを依頼分収穫し道の駅に卸し、その脚でO田原駅の駐車場に軽トラを停めて、電車でH白楽駅へ向かう。途中Y浜駅でT急T横線、各駅停車に乗り換えて到着したら、徒歩十分程で辿り着いたのは『探索者協会K奈川総合支部』

 建物自体は五階建てと、それほど高いビルでは無いがその敷地面積は実技講習等も行う関係上、ちょっとした体育館付きの学校くらいの広さがある。

 自動ドアをくぐり、ビル内に入ると広いエントランス兼待合室に総合案内があり、女性職員が来訪者に説明をしている。

 まるで役所と同じ様な構成である。まぁ、それだけ役所の構成が理に適っているって事だろう。

 俺も先ずは総合案内所に向かい、受付嬢にライセンス再発行は何処に行けば良いのか質問する。


 「ライセンスの再発行ならびに再登録は三階にて受け付けております。三階へはあちらのエレベーターもしくは階段を使ってお上りください」


 「そうですか、ありがとうございます」


 美人な制服の似合う受付嬢に謝辞を述べて、俺は言われた通りにエレベーターで3階へ直行する。

 三階でエレベーターを下りると直ぐに受け付けがあり、俺は来訪の目的を告げ要請に応じてライセンスカードを提出した。


 「確かにお預かりしました。只今確認いたします。確認にはしばらくお時間が掛かりますので、そちらの椅子でお寛ぎになってお待ち下さい」


 深く腰を折り、慇懃な態度で対応してくれる受け付けの女性職員に返礼して、俺は言われた通りに長椅子に腰掛けてしばし待つ。


 「藤原弾正様お待たせ致しました。現在藤原様のライセンスは停止処置となっております。本日のご依頼は、藤原様の探索業の再開に当たってのライセンス再登録で間違いありませんか」


 「はい。間違いありません」


 「はい。分かりました、ではあちらの再登録受付課第一室へ、御足労ですがお向かいください」


 と言ったやり取りの後、言われた通りに向かった再登録受付課第一室。其処にはやはり、お役所的なパソコンと筆記用具が設置されたデスクと、ちょっとだけお高そうな来客用の椅子が二脚用意されており、その対面には妙齢の女性職員が起立状態で俺の入室を待っていた。


 「あの、ライセンスの再発行の手続きに来ました、藤原弾正ですけど」


 「はい。承知しております、藤原様。どうぞそちらの椅子にお掛けください」


 係員の女性に来訪目的を告げると、彼女は感じの良い微笑みを浮かべた表情で答えてくれて、着席を促してくれた。その言葉に従い俺は彼女の対面の椅子に遠慮なく腰掛ける。


 「はじめまして藤原様。本日藤原様の担当致します探索者協会K奈川総合支部職員『赤崎千尋』と申します」


 「あっ、はい。藤原弾正です、よろしくお願いします」


 互いに向かい合い、挨拶を交わす。赤崎さんと名乗った女性職員は、しっとりと落ち着いた雰囲気のショートボブ?とか言う髪型の綺麗な女性だった。俺はデザイン的なセンスとかはよく分からないんだが、ダンジョン探索者協会の制服を纏ったその姿は清楚感があって、美しく感じるし彼女にとても良く似合っている。

 そんな綺麗な人が相手なので、若干以上に緊張してしまい、俺は少し固くなっている自覚がある。生まれてこの方、女性と親密になった経験があまり無いので、恥ずかしながら俺には経験値が足りないのだ。

 俺の戸惑いなどつゆ知らず、赤崎さんは俺とPCのモニターと、協会が用意した紙の書類とをチェックしながら、俺に向き直る。


 「十年前に取得された藤原様のライセンスですが、それは七年前に停止措置を取られました」


 「七年前、ですか」


 七年前か、そんなに前から俺のライセンスは凍結状態になっていたんだな。


 「はい。失礼ながら、藤原様の探索者としての活動の記録を拝見致しましたところ、十年前におよそ半年間の活動記録が残っておりました」


 「はい。魔核やドロップアイテムの持ち込み、買い取ってもらいましたからね」


 まぁ、その半年しか活動して無いし、活動記録ってもそれ以の上残り様が無いわな。


 「ええ、ですがその後の記録は存在しません。藤原様は、その半年間の活動以後、探索者としての活動を辞めていたのではありませんか」


 「そうですね、その通りです」


 其処でズバリと赤崎さんは言い当てる、と言うより記録から読み取ればそう結論付けられるのは当然だな。


 「やはりそうだったのですね。藤原様、もしかしてですが、藤原様が探索者としての活動を辞めたのは、いくら魔物を討伐してもレベルアップしなかったからではありませんか?」


 「っ、それは・・・はい。そうっすね間違い無いです」


 そうして、俺の当時のコンプレックスであり挫折の理由を言い当てられる。それを第三者から指摘される。コイツは結構ハートにズシリと来るものだったんだな。


 「やはりそうだったのですね」


 だが、赤崎さんは今『やはり』と言った。しかも赤崎さんには何の落ち度も無いってのに、彼女は俺に対して申し訳無さそうな表情をしている。だがそれよりもだ。


 「あの、赤崎さん。もしかしてその質問から察するに、当時俺以外にもレベルアップが出来ずに探索者の道を断念した人が結構居るって事ですか」


 俺の問いに赤崎さんは静かに頷きながら『はい』とひと言返事を返した。そして何故当時そんな人間が多かったのかを、赤崎さんは説明してくれた。


 何故当時、どんなに頑張って活動を続けてもレベルアップが出来ない探索者が大勢存在したのか。それは、俺もつい先日神的な何か(運営さん)の声を聴いて知った、適正職と言う言葉が関係していたと言う事だ。

 例えば、ダンジョン探索にあたって所持する武器がある。剣や槍や斧とか弓と言った武器を用いて戦う者たち(当時の俺は短剣を使って戦っていた)その使用する武器に依って戦士だとか、槍士だとか、弓士と言ったジョブが発現するのだと言う。


 「そうなんですね。確か当時はそんな区分とか聞いたこと無いですね」


 「はい。それが周知されたのは六年前になります」


 探索者がダンジョンから持ち帰った資源により、新たな技術のブレイクスルーが起こり、且つ発見されたアイテムに依って当時は分からなかった事実が、周知される様になったのだ。


 「此方にあります、鑑定水晶もそのダンジョンに於いて発見されたアイテムの一つです」


「鑑定水晶ですか。名前からすると文字通りって感じですけど」


 「はい。これに手を触れることで、その方の持ったレベルやジョブが読み取れます」


 「なるほど、要はその水晶があるお陰で、今は探索者デビュー前の素人にでも、その人に適したジョブを示してくれる。そう言う訳ですか」


 「ええ、それにより探索者の方達は昔の様にレベルアップが出来ないと言った事態を回避出来る様になりました。ただ一つの欠点として、自分自身でジョブの選択が出来なんですけど」


 確かに職業選択の自由が無いのは欠点と言えるだろうが、予め自分に適した道を示してくれると言うのは、無駄な努力を排する事が出来ると言う側面もある訳だし、決して欠点だけでは無いって事だよな。

 当時の仲間が言っていたから俺も、レベルアップって概念も神的な何かの声が聴こえてくるって話は知っていたが、その声は当時の俺には、ついぞ聴こえてくる事は無かった。


 「それは、どちらかと言うと良い事だと俺は思いますけどね」


 その結果、いつまで経っても能力の向上が為されない俺は、引き止めてくれた皆と袂を分かって探索者稼業から身を引いた。まぁ、所詮高校生の活動だったから探索者としてどっぷりとダンジョンアタックを毎日行なっていた訳では無いが。


 「そうてますね。その恩恵で当時は分からなかった魔法使いや治癒術師と言った直接の近接戦闘技能とは違う、ジョブの発見にも繋がりましたし」


 そう言って赤崎さんはその顔に苦そうな笑みを浮かべる。こんなにもこの人は相手の思いに寄り添ってくれるのか。本当に出来た人だな。


 「と言う事はこれからはそれに触れて、自分のジョブを登録すればライセンスの凍結が解かれるって事なんですね」


 これに触れれば俺のジョブかどんなモノかも判るし、ライセンスも停止処分も解かれるのだろう。


 「はい。その通りです」


 「分かりました。何方にしろ今の時代は、それをしなけりゃいけないんでしょうし、やらなければ自分の事も知りようが無いって事なんですね」


 だったら、チョチョイっとその水晶に触りましょう。内心どころか俺は自分のジョブ、職種に大いに興味がある。

 

「はい」


 「それじゃあ、早速お願いしても良いですかね」


 赤崎さんは、それの質問を肯定してくれて、鑑定水晶を俺の前に差し出してくれた。その水晶の上に、俺は赤崎さんに説明を受けた通りに右手を翳した。さて、俺のジョブってどんなモンなんだろうか。ワクワクと、今俺の好奇心が少しばかり刺激されている。

 

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