いきなり見せられた変な夢は俺に何をさせようと言うのか今の俺には理解出来ないし、したくもない!
オリジナル作品に初めて挑戦してみます。三文小説ですがお付き合いいただければ幸いです。
ああ、これは夢だな、うん。目の前で展開されている光景を前に俺はそう断言する。実際俺は、午後十時にはベッドに潜り込んで横になり照明も消し、その後にトイレなどで起きた記憶は無い。
だもんでそうだと判断した訳なんだが、しかしこれはアレか、夢を見ながらにして、それを夢だと自覚する。まさにこれは噂に名高い明晰夢ってヤツなのだろうか。
少し前に明晰夢に付いて調べた事があるんだが、それによると明晰夢ってのは自分の意志でストーリーをコントロール出来ると記されてたんだが、今実際経験してみて確信した。そんな器用な真似、俺には出来ないと。やっぱAIさんってば肝心な所で当てになりませんな。結論、AIは嘘を吐く、AI任せ良く無い。
しかし、端から見て今の俺はどんな顔をしているんだろうか。生憎と夢の中だから鏡で自分の顔を見る事も出来ないが、思うにきっと口の端をピクピクと引き攣らせて、酷く乾いていて微妙に笑った様な複雑な表情を浮かべているに違い無かろうかと思う次第だ。
それほどに俺の眼前に於いて展開されている光景は、普通の日常生活を送っていては御目にかかれない。まず持って、あり得ないシチュエーションだ。
少なくとも十数年前までの、アレがこの世界に出現する前の時代迄との但し書きが付くが。と言うのも、その十数年前にアレがこの世界に顕れて以降の現在の状況下ならば、もしかすると何処かでお目にかかれる可能性も無きにしもあらず、なのが現代社会である。
だがしかし、それを鑑みてもごく一般的な暮らしを営んでいる“はず”の今の俺が、そんなモノと出くわす事など“絶対にあるはず無い”と断言したいし、その筋の仕事を生業としている者達にしても早々には、御目にかかれるモノでは無い光景だと思うのだが。
それ程に今の俺の眼に映る光景と、二人の登場人物とが異様なのだ。特に、その登場人物の一人が有り体に言ってコミケやコスプレイベント会場でしか見れない様な、超絶的に美麗で美しくゴージャスなルックスと大胆にして扇情的な衣装を纏っているのだから、そうとしか思えない。
さて、どうしたものかと思案するも何も浮かばないこの状況。誰が企図したかは分からんけど、ならばと諦めて最後までこの茶番に付き合ってみようか。
であれば、俺と共に読者諸氏にも暫しの間、この茶番(?)に付き合ってもらいたい。まぁ、その為には少しばかりこのあり得ない映像について説明してみなければならないだろうな。ってか何だよ読者諸氏って!すっげぇメタい事言ってんな俺。とセルフなツッコミを入れてみる。
そこはどうやら巨大な石造りの壮麗な建造物の中の光景の様だ。その見た目の荘厳さから、おそらくは何処かの国の王城だと思われる、十中八九そうに違いない。
それは現代に於いては、海外の有名どころの居城にでも観光に行かなければお目にかかる事の叶わない石造りの、日本には無い建築様式だ。
ただ、その外観がどうなっているのかはそのカットが映像に現れないから分からない。現在進行系(と言えるのか?)で俺が見ている光景は、その王城の中の広々とした大きな広間だ。
ぱっと見て、五百人くらいは収容出来そうな大広間。その広間の最奥の中央部には煌びやかなパール掛かった白色に、豪奢な金色に彩られた流れる様な流麗な意匠のレリーフが美しく映える椅子。そんなゴージャスな椅子に座るのはごく限られた存在だろう。例えば、その国の王とか皇帝とか悪の秘密結社の首魁とかもワンチャン?
まぁ、悪の秘密結社は多分この場合は違うな。コレは王や皇帝が座する、所謂玉座ってやつだろうな高確率で。
その玉座は大広間の中で階段三段分高い場所に設えられており、如何にも強大な権力とカリスマを併せ持っ王者が鎮座するに相応しいモノだと、素人目にも思わせる荘厳さだ。
それから、白亜の大理石っぽい鉱石で造られた、玉座に描かれているデザインに似た華麗な意匠が掘り込まれている、一メートルを超える太さの円柱状の柱が、要所要所に立てられ中段付近には水平に、天井にはアーチ状になった梁と共に八メートルを雄に超える馬鹿高い天井を支えている。
壁面は、床から五メートルほどの高さの位置に採光用の透明な硝子の様な板と、幾重もの色を散りばめた幾何学的なデザインのステンドグラス。広間の外周には等間隔で配されている、明かりを灯している事から照明器具だろう。松明とか蝋燭では無い事から、もしかするとこの世界の技術とは系統の違う技術が使われているのだろうか、であればこの光景は違う世界と言う事なんだろうか。
違う世界、言うなれば異世界って事か。それは十数年前なら、オタクの妄想だと一笑に付されていた空想だった。だがその空想も今だとそんな風に切って捨てられるものでも無くなったのが、何とも言えない時代の変化ってやつだな。
とまぁ、舞台の説明はこんなモンで宜しかろう。ならば、お次は登場人物に付いての説明をするとしようか。
その王城の大広間、謁見の間とかそんな感じの広間に居るのは二人の男女だ。だだっ広い空間に二人しか居ないってのは、かなり違和感があるんだが、まぁ俺には関係が無い事だから深く考えるのはよしておこう。
先ずは一人目の登場人物。男、終わり・・・とは行かないな。ぶっちゃけ俺にはソチラの趣味は無いから、適当に済ませたいんだがそれでは片手落ちと謗られてしまうだろうし、仕方無しか。
あまり手入れが行き届いているとは言い難い無造作に伸びたボサボサの野暮ったい黒い頭髪。三白眼に小さな黒眼が何処か撚ていそうで、俺も人の事は言えないが目付きが悪い印象を与え、他者から(特に異性から)好意を抱かれる事は少ないのではなかろうか。その辺はちょっとばかり俺と近しいモノがあるな。
その頬や顎や口元には頭髪と同様に、しばらくの間手入れをしていない事を窺わせる無精髭が伸びているて、これまた野暮ったい。
加えて、口の端が皮肉げに曲がり如何にもなシニカルさを感じさせ、他者からの印象を悪くしている様におもわれる。
俺には生憎とファッションセンスが皆無だからよく分からんが、この男、案外髪を整えて髭をきちんと処理してしまえば顔の造形自体は悪くは無さそうに思える。
それに髭の無い部分を見れば顔には深い皺など見受けられず、意外と年若い青年なのかも知れんな。だから身なりを整えればいくらかマシに見えると思うんだが。
さて顔の造形に付いてはこのくらいにして、お次はその出で立ちに付いて触れようか。
元はそれなりに洒落た意匠が凝らされていたのだろうが、如何にも幾多の戦いをくぐり抜けて来た感のある、幾つもの小さな傷や汚れが付着して、その施されていた意匠もきちんと見て取れなくなっている。
きっと幾多の戦場を駆け巡り戦って来たのではと推察される、灰色か或いは白銀色の軽装の鎧を身に纏っている。その防御面積は星座の闘士に例えると白銀クラスくらいか。黄金ほど重装でも無ければ、初期の青銅ほどアッサリでスカスカな軽装でも無い。良い塩梅と言えるんじゃなかろうか。
肘辺りまである小手、左腕の方が若干大きく厚みがと長さがあり手の甲までカバーしている。もしかすると盾の役割を担っているのだろうか。受けるのでは無く受け流す的な使い方で。
脚も膝下から脚首の少し上まで覆い、その下は脚の甲を護るプロテクター状になっているが足首の可動範囲を妨げていある様には見えない。行動するに際して足腰の動きは重要だしその可動域をきちんと確保し、更に装着者の使用感も考慮して造られた良い品物なんだろう、本当の所はは知らんが。
それから腰部は金属では無い革製品なのだろうか、柔らかさを感じさせる素材の幅広のベルトを着装し、その左側に鞘に収まった少し幅のある剣を吊るしてある。鞘の内側の剣の意匠は今の時点で知りようは無いが、剣の柄にも鞘にも鎧と同じ様に洒落た意匠が施されていたっぽい。まぁコレも鎧と同じく傷や汚れで元がどんなだったか分からないが、もしかするとこう言うののお約束な勇者の装備とかだったりするんだろうか。
さて、男についての記述は此の位で良いだろう、お次はもう一人の人物に移らせてもらう。そう、件のゴージャスさんに。
甲冑姿の男と相対するのは玉座に座る女性だ。先にも述べたが、この女性がひと言で言って尋常じゃない存在感を放っている。
先ず触れるのはその女性の頭髪から、おそらくは腰の辺りまで伸ひている長く、そして光を受けて煌びやかに輝く美しい銀髪。ステンドグラスや照明の光の色を受けて、銀色が様々な色を映して輝き彩りを現す様は、有り体に言ってすっげぇ神秘的だ。
その頭部には王冠やサークレットと言った装飾品を身に着けている訳でもないのに、キューティクルが神秘的な輝きのラインを描いていて寧ろそんな装飾品で飾り立ない方が美しいとさえ思わせる。
サラリと流れる髪の隙間から覗く両の耳は、異世界モノでお馴染みのエルフ程極端に長くは無いが、先端が少し尖っており彼女が人為らざる存在だと言う事を主張している。
更に切れ長の目は髪の色と同色の流れる様な美しいラインを描いた睫毛が、左右で色の違う瞳に彩りを添えている。
見ているだけで、その身を一瞬にして凍り付かされてしまうのではないかとの錯覚を覚えさせる、怜悧な光を放つ蒼い左眼と、その身を塵一つ残さず焼き尽くされてしまうのではと思わせる、烈火のごとく燃える炎の輝きを宿す、紅い右眼。その双眼が妖しく輝く様は、銀河の英雄譚で有名な金銀妖瞳、オッドアイってヤツだ。
肩が大胆に開いた黒い絹の様な光沢を放つ、扇状的にも感じられる大胆なワンピースのドレス(何かよく知らんがオフショルダーとか言うんだろうか)は金糸と銀糸の刺繍が施され、太ももの付け根辺りからサイドは大胆な切り込みが入っており、辛抱堪らなく成りそうにエロスた。
胸部は豊潤なる実りを湛えいるが、その肉体は胸部とは裏腹にほっそりとしていて、身体のラインに極端とも見事とも言える曲線を描いていて非常に目の保養、もとい、目の毒だ。
そんな扇情的なドレスを身に纏った女性だが、他にはこれと言った豪華な装飾品は身に付けていないのだが、一つだけ左手首に不思議な紋様が描かれ、楕円形の翡翠色の宝石な様な物が付いた白金のブレスレットを着装している。何かしらのアイテムだろうか。まぁ、その存在自体が人知を超えた芸術品の様な美しさを体現しているのだから、過度に着飾る必要も無いのだろうが。
長々とこの夢の舞台と登場人物に付いて解説さてしまったが、そろそろ本題に入ろうと思うのだがよろしいか?
まぁ、聞いたところで答えが返ってくる訳無いと解っているので勝手にやらせてもらう。
両開きの巨大な扉を開いて、男は泰然とした態度で大広間へと入室して来た。カツカツと響く靴音と、鎧を始めとする彼が身に着けている金属製品が擦れる音とを伴って。
先にも述べたが、その表情は何ともやる気を感じさせない皮肉げな色を露わにしていて、この男がこの場に何のために訪れたのか、皆目見当もつかない。
玉座に腰を掛ける絶世の美女を前にしても、何ら表情を変えることも無く、一歩、二歩と急ぐでも無くゆったりと歩みながら男は玉座へと向かい歩いていく。
対して玉座に座る美女は気怠げに肘掛けに右肘を着いて、その手は顎下に添え、足は右足を上にして組んでおり、大胆にカットされているスリットから見せ付ける様に、白皙の太ももが露わになっていて非常にヤバい。俺だったらきっと誤魔化しながら其処をチラ見しているに違い無い。
しかし男は、そんな妖艶な誘惑も何のその、まるでそれが眼中に入っていないかの様にスルーして美女の元へと歩を進めている。そうして、玉座へと登る上階段の五メートル程前で歩みを止める。
互いに見つめ合う二人、ニヤリと嗤う美女と溜め息を吐いて頭をボリボリと掻く男。暫しの無言の時が過ぎて、男がジトッとした眼を美女に向けて口を開いた。
『•••■■■■■■』
ハッキリ言おう、何を言っているのかちっとも解からん。いやマジで!普通こう言うのって上手い具合に理解出来る言語、この場合は日本語に翻訳されるのがお約束じゃないのかよ。
『■■■■■■■■■』
男の言葉に返事を返す美女だが、これまたサッパリ解らん。全く、何でこんな夢を見ているのかさえ理解出来ないってのに、だったらせめて言語の翻訳くらいサービスしてくれても構わないんじゃないんですかね。夢の運営さん!
『ふぅ・・・はぁ〜っ■■■■■■■■』
『プッ、フフフッ■■■■■■■■■■』
あっ、今何かちょっとだけ二人の言葉が聴き取れた。と言っても溜め息とか、失笑とかの言語と言えない声だったから言葉とは言えないか。
閑話休題。男の溜め息交じりの言葉に美女が微笑み、そして二人はお互いに見つめ合う。そこから男はもう一度ボサボサの髪を右手で搔いて、その手を降ろす。
『■■■■■■■■■■■■』
なんだか、投げやり気味な感じで男が美女に声を掛ける。やろうぜとかそう言う事を言ったのだろうか、それに応える様に美女が表情を引き締めドレスのスカートを華麗に翻し、流れる様な所作で玉座から立ち上がった。
『■■■■■■■■■■■■■■■』
つい十数秒前までの嗤いを消した、美女は真剣な眼差しを男に向けて男に応えているのだろう。男はそれの言葉に無言で頷き、左手を鞘に添えて右手を剣の柄に掛けて、微かな擦過音を立ててその剣は鞘から引き抜かれた。
『■■■■■■■■!』
剣を取り構えた男を美女は見据える。そしてスッと左手を前方へと掲げる、すると彼女がその手首に装着してるブレスレットの宝石が淡い光を放み始める。そして、まるでその宝石の中から浮かび上がる様に一振りの剣が現れ、その場に固定された様に宙に浮かぶ。
なるほどな、どうやらあのブレスレットはある種の次元収納とかそんな類いの物だったのか。
剣の柄を上にして宙に浮かぶ細身の剣。それを出し終えた美女はゆるりと左手を下ろし、代わって右手を前方へと向けてあげる。すると細身の剣は静かに美女が差し出した掌へと向かって、まるでわが身を差し出すかの様に柄が彼女の掌に収まった。
手にした剣を美女は左上方から右下方へと斜めに振り下ろし、そのまま構えも取らず自然体で男と向き合う。
対する男はゆっくりと剣を上段に構える。一体、二人の間にどんな経緯があるのか俺には分からないが、状況から見て二人はこれから間違いなく戦いを始めるのだろう。
何とも言えない張り詰めた感覚が大広間に充満する。その対峙する二人を端から見ている無関係の俺の方が、何だか妙に緊張してくる。そして。
『・・・・・・!』
『・・・・・!』
二人が互いに向かって超速で突進して行く。二人の間に何があるのか、何の意義や理由があるのか俺には皆目見当もつかないが、今二人の戦いが始まった。
戦いが始まった、それは分かるのだが、二人がどんな戦いを繰り広げているのか、俺にはそれがまるで見えない。要するに二人のスピードが速すぎて、俺の目では超速で戦う二人の姿を捉える事が出来ないんだよ。
イヤ本当に、長々と状況説明を入れておきながら、肝心のシーンを語る事が出来ないって、もしこれが興行だったら『なんじゃそりゃ、バカ言ってんじゃねぇぞ、金返せ!』コールが巻き起こる事間違い無しだと、俺だって客の立場ならそう思うよ。でも見えないんだからしょうが無いだろう。
まぁ、たまに戦う二人の残像的なモノが目に付いたりはするんだが。戦いの推移とかは、ほぼ見えない。
以前読んだラノベで戦闘シーンをほとんど描写せず、キンキンカンカンドカンドカンと擬音だけで表現する作品を何だかなと微妙な気持ちで読んだけど、結局途中でリタイアした。
だが、今の俺がこの二人の戦いを表現するならば、まんまそんな表現になってしまいそだ。だがそれはなるべく避けたい所存。だから出来るだけ頑張って俺の感知出来ている部分だけでも表現してみよう。
二人の常人には見えない高いステージで繰り広げている戦いの中で、甲高く或いは重低音で響く剣戟の音。それは、互いに攻守を交代しながら剣を振り上げ、振り下ろし、突き、相手の剣による斬撃を自らの剣シールドで受けて、或いは受け流して防いでいるのだろうか。
そんな中で剣戟とは違う別の音が響く。良くは分からないが魔法的な何のエネルギー的な光とか、炎とか衝撃波とかが放たれているのだろうか。炎や氷のように可視できるモノもあれば、鎌鼬的な不可視の何かによる超音波的な響きの後に、ビュォーッといった感じの風切り音が響いてくる。しかも複数の音がほぼ同時に、幾重にも重なって何の音なのか判断が付かなくなってくる。
その音が響く毎にこの大広間を構成する壁や床や天井や柱や梁の一部が破壊され構、造材が飛び散り大小の破片がバラバラと落下して床にばら撒かれた様に散乱し、そのせいで大広間はどエラい事になっている。確実に二人が放つエネルギーの迸りが周囲に甚大な被害を与えているのだ。
まるで、二人ともこの城がぶっ壊れようと構わないとばかりに全力で戦っているみたいだ。いや改めて、マジに飛び散る破片の量とか炎の残滓とか各所に刻まれた傷痕とか見てると、他人事ながら心配になる。
ある意味で、クロックアップによる戦闘でも行っているのかの如く、見えない速度で戦い続ける二人。その時間はまだ十分にも満たないのだが、その間休む事無く剣を魔法を使って戦い続けているんだ、二人ともかなりの体力や精神力を消耗してしまっているのじゃなかろうか。なら案外決着の時は次の瞬間に突然やって来ても可怪しく無いのかもな。
俺のその予想は、どうやら的外れでは無かった様だ。それまで超速で戦い続けていた二人が、動きを止め互いに数メートルの距離を空けて、対峙していた。
その身に着けている鎧にも傷が着いており、また同様にドレスにも処々に斬撃によって破れていたり、裂けていたりしている。
しかし、どちらもその身には傷の一つも負っていない。素人目にも大したものだと思う。だが俺の予想していた通りに、二人には少しだけ疲労の様子が見て取れる。と言って何度か呼吸をして息を整えると、その疲労も感じさせないほどに平然とした態度を見せる。
『■■■、■■■■■■■■、■■■■■■■■』
『■■■■■、■■■■■■■■■■、■■■■■■■■』
息を整えて、二人は何気ない感じに言葉を交わしている。しかも少し笑みを浮かべて、日常会話でもしているみたいに。まぁ、それでも二人は互いに武器を手にしているんだから、平和的な話をしてるって訳じゃないんだろうが。
二、三のやり取りの後二人は笑みを消し真剣な面持ちで向かい合い、再び戦う態勢をとる。俺には二人の言葉を理解出来ないから、あの会話にどんな意味があったのかは知らんけど、もしかすると『そろそろ決着をつけようぜ』的な会話がなされたのかもと、推測してみる。
暫しの間構えたまま互いを見据えている二人。二人の胸中がどんなものなのか、今も俺には解らない。だがただならぬ雰囲気に、ただ見ているだけなのに緊張感が半端ない。
最後のアタックとばかりに、二人は力をため込んでいるのだろうか。それも分からないが、その時は訪れる。二人の間に流れている雰囲気が、空気が変わった。それが俺にも解った。
『シッ!!』
『ハァッ!!』
裂帛の呼気を吐いて、二人は再び超速の突撃を敢行する。そしてまた二人の姿が俺の目の前から消え、斬撃の音だけが響く。一撃決着で終わるのかと予想していた俺だが、そうはならなかった。それだけ二人の実力が拮抗していると言う事なのだろうか。
だが、終わりの時は訪れる。
一際甲高い剣戟の音が響くと、衝撃波が発生して近接戦闘を行なっていたと思われる二人の身体が弾けて、離れた場所に体勢を崩した状態で姿を現す。
二人は素早い動作で体勢を立て直して、再度のアタックを敢行する。互いに向かって駆ける。
超速の突進は、しかし男の方は発動しなかった。どうした事だと俺は疑問に思う。何故ならば俺の目に映る男の顔は焦りの色が浮かんでは居ないから。
むしろその顔には安堵感、満足感が見て取れたから。
それは一瞬の事だったのだろうが、俺にはそれがスロー再生されている様に見えた。超速のスピードで男へと向かい攻撃を繰り出そうとしている美女が、男の様子に慌てて超速を止めようとする。しかし車は急に止まれない。ましてや人目に付かぬ領域のスピードなら尚の事。
ブレーキで多少の減速が出来たとしても、接触までに完全停止は叶わない。
だから。
美女が振り抜いた右からの横一閃は、男の鎧に覆われていない腹部を切り裂いた。
美女の貌が驚愕の色に染まる。まるでこの結末が、信じられないとばかりに。己の行いが、自身の望まぬ結末となった事が意外とばかりに。
男の斬り裂かれた腹部から、間をおいて鮮血が迸る。それからやや置いてその口からも血が滴り落ちる。
その顔には後悔の色も無念さも感じさせない。やり遂げた者の表情があった。顔色を悪くして己を見つめる美女に、男は気にするなと語り掛けるかの様な穏やかな顔を見せる。だが美女の貌は変わらずである。
『しょうがないな』とでも思っているのか、変わらぬ様子の美女に男の顔が少し崩れる。しかしその表情も消えやがて、男の身体は静かに崩れ倒れゆく。
倒れゆく男を前に、悲壮な表情で彼を見ていた美女は慌てて、自らが手にしていた、男に致命傷を与えた己の武器を捨て去り、男の体を支えようと両手を広げて進み出る。
男が倒れ落ちる前に間に合い、両手で男を抱き止める美女は優しく男を抱き留めて共にゆっくりとその場に腰を下ろし、男の身体を静かに優しく横たえさせ、己の膝に男の頭を優しく置いた。
『・・・・■■■■・・・■■■■・・・』
途切れ途切れに、苦しそうに、男は美女に話し掛ける。相変わらずその言葉は理解出来ないが、何となく雰囲気は伝わる。己の死を受け入れて、自分を殺めた彼女に気にするなとかスマンとか、そんな事を言ってるんだろう。
『■■■■■■■、■■■■■■■■・・・・■■■■』
美女はそんな男に、つよい口調で反論しているだろうか。強い眼差しで男を見つめる。そして、その手を男の、自らが斬り裂いた腹部に翳す。
そして、翳したその掌から淡い光が溢れ出て、男の傷を塞ぎ始める。これは回復魔法と言うやつだろう。
『■■■・・・・■■■■■ッ
・・・ハァ、ハァ、ハァ・・・』
それにより男の息が少しだけ穏やかになって行くが、しかし男は既に多くの血を流している。俺の目にも、それは気休め程度にしかなっていないと察しが付く。
『■■■■■・・・・■■■、■■■■■・■■■■』
美女の方もそれは解っているのだと思われる。また美人はその貌に悲壮さを現し、男に静かに語り掛ける。最期の別れの挨拶なのだろうか、その言葉に男は小さく頷くと、掠れ途切れ途切れの言葉を紡ぎ出す。
『■■■・・・■■■・・■■■・・・・・■■・・・』
その言葉は何なのか、やはり俺には聞き取れないが、別れの言葉だとは理解出来た。だがその言葉が最後まで紡がれて彼女に伝わったのかは解らない。
男は息絶え、男の瞼は静かに閉じられ、その肉体から力は失われ動かなくなってしまった。
美女は骸になった男の髪を優しく撫で、悲しみと労りとを合わせたような表情で男を見つめている。
彼女の胸に今去来しているのは、どんな思いなのだろうか。単にこのワンシーンを見せられただけの俺に知る由もない。それに、俺の精神が次第に薄れ始め、二人の姿がゆっくりと離れ、薄れ始めているからだ。何者が見せたのかは知らんが、どうやらこの映像の終わりが近付いているのだろう。
其処に何の感慨もないとは言えないが、これは何だったのか、サッパリ以て分からないのだから、考えるのはある意味で無意味だ。
体感にしてほんの数十分の映像に登場してきた二人に、何を言えようか。それも悲劇的な物語の結末っぽいシーンに。
薄れゆく意識の中俺は遠くに消え去っていく二人の姿にもう一度だけ目を向ける。いまだ男の髪を撫でている美女。その口が静かに開かれ彼女は、物言わぬ男に語り掛ける。
『ええ、きっと、また、逢えますわ。刻を越えて世界を越えて、何時かまた・・・』
オイオイ!最後の最後に美女の言葉が聴き取れたよ。夢の運営さん翻訳機能を付けるのが遅すぎるんじゃないですかね。
まぁ、一応最後まで頑張って仕事してくれてたのかも知れんけども、今更感がハンパネェ。
静かに薄れていく俺の意識、今が午前が午後かは分からないが、せめて目覚まし時計がこの眠りの園から強制的に退場勧告を告げるまでは、どうか静かに眠らせて、く・・ださいオナ・・・シャ・・ス・・
お付き合いありがとうございました。




