最終話 光の気配
「たださ……これって俺達を監視してるってことだよな」
直哉が言った。
「そうなるな」
高木が腕を組む。
「これ、全員で引っ越し説か?」
「濃厚でしょう」
詩織が真面目な顔で頷いた。
「私がストーカーされてるからだよね」
「ごめんなさい。皆に迷惑かけて」
美咲が申し訳なさそうに言った。
「美咲さんのせいじゃないから」
高木はすぐに否定した。
「本当に美咲のせいじゃないよ」
詩織も続ける。
「する方が悪いんだから」
「それに……美咲だけが狙われてるとも限らない」
「え?」
「お兄ちゃんも尾行されてたかもしれないし」
「私達を仲間割れさせようとしてる可能性もある」
「だったら、狙われてるのは誰か一人じゃないよ」
「竹中であっても、和田であっても、別人であっても対策はしないとな」
高木が言った。
「どうする?」
「俺と美咲はあそこには住めない」
直哉が即答した。
「さすがに部屋に仕込まれてたからな」
「終わってるな」
高木が顔をしかめる。
「だから、俺と美咲は引っ越す」
「仕事も変えようと思ってる」
「まずはリモート申請してみるけど」
直哉が言った。
「でもさ」
高木が少し考える。
「一人になる時があったらまずくないか?」
「ああ」
「そこなんだよな」
直哉は小さく息を吐いた。
「俺も詩織と暮らす予定だから、引っ越そうと思ってる」
「ただ、仕事がな」
高木もため息をついた。
「だからと言って、四人で同じところに住むのも微妙なんだよな」
直哉が言った。
「ある意味、分散できてないだろ」
「居場所が一か所にまとまる」
「もし見つかったら、一気に全員だ」
「それな」
高木が頷く。
「すぐに駆けつけられないのは不安だけど」
「近すぎるのも考えものか」
「徒歩圏内じゃなくて、車ですぐ行けるくらい?」
詩織が言った。
「その辺が落としどころかもな」
「隣の市くらいにした方がいいな」
高木が地図を見ながら言った。
「通勤もあるしな」
「俺達ならこの辺りか?」
直哉が候補の地域を指差す。
「職場まで一時間以内なら何とかなる」
「私はそれくらいなら平気」
美咲が頷いた。
「もしリモートが通るなら?」
詩織が聞く。
「その場合はもっと田舎でもいいかもな」
直哉が地図をずらした。
「この辺とか」
「だいぶ離れるな」
高木が言う。
「でも人は少ない」
「確かに」
「監視されにくそうではある」
「田舎の方が、ある意味周りの目はあるんじゃない?」
美咲が言った。
「ああ」
高木が頷く。
「知らない車とか結構目立つしな」
「都会みたいに人混みに紛れられない」
「確かに」
詩織も納得したように言う。
「見慣れない人がいたらすぐわかるかも」
「逆に監視されやすいって考え方もあるけどな」
直哉が言った。
「でも今の状況なら、その方が安全かもしれない」
俺は会社にリモート勤務の申請を出した。
幸い、今回の件は事情を説明すると理解してもらえた。
盗聴器のこともある。
安全面を考慮してくれたのだろう。
そして――申請は通った。
俺達は話し合った結果、少し離れた田舎へ移ることにした。
都会より不便かもしれない。
でも、その方が安心できる気がした。
見知らぬ人は目立つ。
何かあれば、すぐにわかる。
そういう場所だった。
新しい家で、今度こそ穏やかに暮らしたい。
そんな願いを胸に、俺達は引っ越しの準備を始めた。
だから、まだ住所を言えないでいる。
犯人は捕まっていない。
本当のことも、まだわからない。
***
詩織はスマホを見ていた。
画面には、美咲の写真が映っている。
やっぱりかわいいわ。
詩織は小さく呟いた。
そして、そっと画面を閉じた。
***
直哉は美咲に言った。
「絶対に詩織に住所を教えるな」
「ダミーも用意したからな」
「会うのはこっちだ」
***
まだ、何も終わっていない。
義妹は、私のことを好きだった。
完
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
『義妹は、私だけを見ていた。』はこれにて完結です。
最後まで読んでくださった皆様のおかげで、無事に物語を終えることができました。
この作品は、人との距離感や信頼、そして「好き」という感情について考えながら書いていました。
読んだ方それぞれで、色々な受け取り方がある作品になったのではないかと思います。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




