第16話 ヒマワリの向き
週末になって陽菜が来た。
美咲が焼いてくれたクッキーを俺達は食べていた。
「なあ、陽菜。お前、彼氏作らないのか?」
「作らないけど」
「モテるんじゃないのか?」
「いないなら紹介してやるぞ」
「陽菜、いい人だったら紹介してもらったら?」
美咲も言う。
「高木とかいいんじゃないか?」
「イケメンだし、性格もいいぞ。それに、結構稼いでる」
「この前、紹介してって言われたんだけど」
「高木さんとか、ありよね……」
美咲が言った。
「だろう? あ……お前は駄目だぞ」
「お兄ちゃん、私――紹介いらないから」
少しだけ、間があく。
「それに――美咲がいるから、十分よ」
「変なところで時間使っても、面白くもなんともないわ」
陽菜は少しだけ考えた。
「あのさ……高木さんって」
「専業主婦になってもいい人なのかしら」
「え? お前、働きたくないの?」
陽菜が、美咲をちらっと見る。
「専業主婦になれるなら、悪くないかなって」
「美咲と一緒にお買い物して」
「美咲と一緒に、アレンジメント教室に通えるなら――ありね」
「陽菜が専業主婦なら、私もお昼に一人でいなくて済むわね」
美咲が、無邪気に言った。
「平日は――美咲と二人きりか」
「いいねー」
「お前、どういう思考してるんだよ」
「週末は高木さん連れて、遊びに来るっていうのもありだし」
「いや、そこは二人で楽しめよ」
「百歩譲って、週末は二人で過ごしたとしても……」
「平日は、二人きり」
「……ありね」
「お兄ちゃん、専業主婦OKなら、紹介して」
「じゃあ、今から電話してみる」
直哉は、その場でスマホを取り出した。
「もしもし、高木?」
「あのさ……彼女紹介の件」
「妹が、紹介してほしそうなんだけど」
少し間。
「ちなみに……専業主婦になりたいらしい」
また、少し間。
「……ああ、全然かまわない?」
「むしろ、専業主婦になってくれ?」
直哉は、ちらっと陽菜を見た。
「今、暇?」
「……うん」
「じゃあ、これからうち来てよ」
「妹いるから」
「……ああ、じゃあ後でな」
電話を切った。
「高木、今から来るってさ」
そういえば――
高木って、昔から陽菜のこと好きだったよな……。
何回も――
「陽菜ちゃん、紹介してくれ」って言われてたよな。
あのときは、軽く流してたけど。
……そういうことか。
高木が来た。
「こんにちは」
「こんにちは」
「どうぞ、あがって」
「お邪魔します」
「あの、これ……来る途中で買ってきたんだ。よかったら」
紙袋を差し出す。
「っていうか――変わらないな」
「相変わらず、三人で集まってるの?」
高木は、陽菜を見た。
……少し、頬が赤い。
「陽菜ちゃん」
「これ、来る途中で買ってきたんだ」
「よかったらどうぞ」
「チョコだけど……苦手じゃなければ」
「えっと……陽菜ちゃん」
「俺のことは、知ってるよね」
「高木勇太です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「直哉とは仲良くしてて、な?」
「ああ」
「よかったら――付き合ってほしいなって思ってます」
「直哉に聞いたけど、専業主婦は歓迎です」
「遊びとかじゃなくて……」
「ちゃんと付き合って、お互いに良ければ――って感じで」
「……そんな感じで、良ければ」
見る限り――
高木は、陽菜のことが大好きです、って顔をしていた。
「とりあえず……付き合ってみましょうか」
「でも、私……美咲と仲良しで」
「美咲との時間も、取りたいんです」
「それでも、大丈夫ですか?」
「大切な友達との時間ですからね」
「俺……家事は、あまり得意じゃなくて」
「私もです」
「構いません」
「でも、専業主婦なら……ある程度は、お願いしたいです」
「頑張れる範囲で良ければ」
「……陽菜ちゃんなら、大丈夫だと思ってます」
「もし、専業主婦になったら――」
「平日、美咲と遊んでも構いませんか?」
「問題ないです」
「やることをやっていただけるなら、自由にしてください」
「完璧は、全然求めていません」
「陽菜ちゃんが、できる範囲で」
「俺は、土日祝日が休みで――」
「陽菜ちゃんと、一緒にゆったり過ごしたいです」
「基本的に……二人ともが気楽でいられたらいいなって」
「いいですね」
「私、美咲が大好きなので」
「たまに、四人で遊ぶとか……ありです?」
「もちろんです」
「高木……陽菜のこと、好きなんだな」
「もちろんだよ」
「ずっと好きだったし」
話はまとまった。
これで――陽菜と高木は付き合った。
週末は、邪魔されない。
よし。
「高木、週末のデート楽しみだな」
「ああ」
「高木さん」
「今度の週末、最初だし……少し不安で」
「四人で会いません?」
「問題ないよ」
「……嬉しい」
ふふ。
「陽菜ちゃんが不安だって言ってるから……」
「申し訳ないけど、四人でお願いできるか?」
「美咲さんも、悪いけど」
「いいですよ」
「最初は、不安ですもの」
美咲が言った。
「最初だしな……」
俺は――
諦めたように言った。
「そういえば――このヒマワリ、綺麗だな」
「美咲さんが、飾ってるの?」
「こういうの、いいよな」
「……羨ましい」
高木が、部屋を見回した。
ヒマワリの方に、少しだけ視線が止まった。




