ざまぁの始まりと偽物の錬金術師
――その頃、Sランクパーティー「暁の剣閃」は、深い苛立ちに包まれていた。
リーダーである私、リディア・フォン・ヴァインベルグは、目の前のオークキングに舌打ちをする。かつては取るに足らない相手だったはずだ。それが今や、こちらの攻撃はことごとく浅く、仲間たちは皆、息を切らしている。
「くそっ、剣の切れ味が悪い!」
「ポーションがもう尽きたぞ! 安物はこれだからダメなんだ!」
仲間たちの不満が、私の耳に突き刺さる。
分かっている。全ての質が落ちていることなど。カイ……あの役立たずを追放してから、何もかもが上手くいかなくなっていた。だが、プライドがそれを認めることを許さない。私の判断は、常に正しくなければならないのだ。
「ぐずぐずするな! 私に続け!」
私は魔剣に魔力を込め、強引にオークキングをねじ伏せた。しかし、その勝利には、かつてのような圧倒的な爽快感はなかった。ただ、疲労と焦燥感だけが残る。
辛くもダンジョンを攻略した後、案の定、パーティー内で口論が勃発した。
「ちくしょう! カイの野郎が作ってたポーションなら、一瞬で全快したってのによ!」
盾役のゴードンが、ついにその名を口にした。他のメンバーも、気まずそうに同意の目を向けている。
そして、誰かがぽつりと呟いた。
「……カイがいれば、こんなことには」
その言葉が、私の心の逆鱗に触れた。
「黙れッ!」
私の怒声に、全員がびくりと体を震わせる。
「あの役立たずの話を、私の前で二度とするな! あいつがいなくなったから弱くなったのではない! お前たちの気合が足りんだけだ!」
私は一方的に怒りをぶちまけ、最悪の雰囲気のまま、王都のギルドへと帰還した。
ギルドで荒れたように酒を飲んでいると、一人の男が、ぬるりとした笑みを浮かべて私のテーブルに近づいてきた。
「いやはや、かの有名な『暁の剣閃』の皆様。近頃は、少々お疲れのご様子とお見受けします」
胡散臭い、と第一印象でそう思った。男は自らを一流の錬金術師だと名乗り、甘い言葉を囁いてくる。
「もし、あなた方がお使いのアイテムの質に不満がおありでしたら……この私めが、至高の逸品を錬成して差し上げますよ。以前いたという役立たずとは、比べ物にもならないほどのね」
その言葉は、悪魔の囁きだった。
私の判断は間違っていなかった。カイなど、やはり三流の役立たずだったのだ。目の前のこの男こそが、私たちのパーティーに相応しい。そう信じたかった。
「……契約しよう」
仲間の微かな制止の声を無視し、私はその場で、男と高額な専属契約を結んだ。
契約書を手に、私は満足げに口の端を吊り上げた。これで、パーティーは再び最強へと返り咲く。
偽物の錬金術師が、ほくそ笑みながら去っていく。
それが、さらなる破滅へと続く道だということに、この時の私は、まだ気づいていなかった。




