第83話 「輝く姿」
挨拶が終わると全員が後ろを向く。そして曲が流れ始めた。
頭は今でも混乱している。だって明日試合があるから参加しないって聞いていたし……。
「ね、ねえ瑞人君。先輩って明日試合があるんじゃ?」
「やっぱ聞いてなかったんだ。姉ちゃん試合中止になったんだとさ」
「そ、そうなの!?」
中止になってたんだ……。だから学園祭に参加できたんだね。そんな話は聞いていなかった。けどそこに対しては気にならない。だって……。
ステージの上ではダンスがスタートしている。踊っている先輩を僕はただじっと見ていた。
……いや、違う。見惚れていたんだ。目を離すことなんてできっこない、まばたきすら忘れてしまいそうになるほど。胸もドキドキと高鳴っていく。
かっこいいとか凄いとか、そんな簡単な言葉で表せるほど軽い気持ちではない。けど確実にあるんだ、僕の中に。
何者をも引き込んでしまうような魅力が今の先輩にはあった。その笑顔が、その動きが、その光景が、何から何まで僕を釘付けにしてくる。
「なんだよ一和、ずっとニヤついてんじゃん」
「え、そう、そうだった?」
視線は逸らさぬまま口元を覆い隠す。一瞬でも気を抜いたらきっと同じ表情になってしまうと思う。
「先輩……」
ステージには今三十五人くらいの人がいるかな? けどそれでも僕は先輩から視線を動かせない。
今まで見たことのない先輩のその姿は、僕には誰よりも光り輝いて見えたんだ。
◇
ステージで実際に踊っていると客席を見渡す余裕なんてない。だからこの場に彼が来ているのか、私には確認しようがないんだ。
でも私の意志は揺るがない。彼に私の姿を見せるんだ!
それと忘れてはいけない、常に笑顔! 笑顔でかっこよく、これを常に念頭に置いておく。私に今できることはそれだけだ。そうすれば彼だって受け入れてくれると信じよう。
そうして最初のサビ部分に入った。よし、ちゃんと覚えられている。回数にだけ気をつけて……。
よし、まず最初のサビはOKだ! 大丈夫、ちゃんとできている。
こうしてしつこいくらいに自分に言い聞かせている。そうでもしなければ途端に不安が襲い掛かってくるんだ。練習はしてきたがそれはわずか数日だけ、大きなミスもなく終われたが本番ではそこにプレッシャーがのしかかる。一瞬の油断が命取りになるんだ。そう考えたら試合と何も変わらないのかもしれないな。
曲は既に二番に入っている。ここまでは大丈夫――――。
「あ――」
……何とか続行することはできた。ギリギリで踏みとどまったため変にバランスを崩したりもすることなく踊り続けている。
だが……最悪だ、足が……! 痛みがズキズキと襲ってくる。挫いたか? 骨には異常がないと思うが……。最悪の場合悪化するかもしれない。
冷や汗なのか脂汗か、一気に額がびしょ濡れになってしまう。しかもまだ曲は二番の途中、あと二分近くは残っている。
まさに絶望というやつか。
……けれども私の中にリタイアする選択肢は浮かばなかった。
『足が痛いのでやめます』
そんなこと死んだって言えない、言えるわけがない。
何より、言いたくない!!
「――――♪」
忘れるな、常に笑顔! 痛かろうが何だろうが笑顔でいないとな。
「――――♪」
痛みに耐えながら踊り続けて約二分、いよいよその時がきた。
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