第81話 「学園祭騒動!?」
「ただいまより――」
アナウンスが流れお客さん達が入ってくる。今日はいよいよ一般開放日。つまり学外からお客さんがたくさん訪れるということ。
学園祭が始まるんだ……!
「よおし、目指すは売り上げナンバーワン! 気合入れていくぞお!」
「「「おおお!!」」」
みんなから昨日よりいっそう強い気合いを感じる。今日は本番だから当然のことなんだけど、それを差し引いても気合いで漲っていた。僕はそういう流れがあまり得意ではないけど……。
「うう、緊張する……」
「何を固くなってるんだいっちー、昨日はちゃんとできてたじゃん!」
「そ、そうですか?」
ちゃんとできていただなんて、自分ではそんな風に思っていなかった。緊張――というよりもメイド服の恥ずかしさにずっとそわそわとしてたんだ。
「うんうん! ただ仕事をするだけでなく羞恥に顔を赤くするその姿は萌えポイントを――」
そこから先は到底僕の語彙力では追いつかなかった。けれど昨日のままでいいみたい。一般のお客さんに相手にどうなるのか不安はあるけど……。
「おーい、そろそろ開店するぞ!」
落ち着こう、遅かれ早かれこの日は来るんだ。少なくとも三年生のダンスのある十四時までは接客に集中しよう。
なんとか息を落ち着かせる。
「いらっしゃいませー!」
ぱらぱらとお客さんが尋ねてくる。当然僕もお客さんの接客へ。
何人かのお客さんから声をかけられたけど、僕はやっぱりまともにお話しできなくて……。元々の人見知り性な上にこの格好、まともな接客をするのは僕には到底ハードルが高くて。
けどお客さん達は小声で僕を見て話している。
「カワい~!」
「ショタメイド……!!」
「女装なのか!?」
「これはいい……!」
これは好意的に捉えられているのかな? ……うん、違うとしてもそうだと思い込もう。でないと耐えられないよ……。
他にも写真をお願いされることもあった。それも何回も。一応ルールでは許可されているので断るわけにもいかず僕としては応じる他ない。男性客女性客問わず何回も一緒に写真を撮られたんだ。
そんなこんなで学園祭の四分の一だけで僕は大忙しだった。それでも休憩時間はまだまだ先で……。
「「お姉ちゃん!」」
「ん?」
客足も多くなってくるピーク帯のお昼近くになった頃、小さな男女の子供二人が教室に入ってきた。するとその子達は真っ先に宇藤さんのところへ駆けていく。
「おー来たねチビ達」
「比奈、この子達って」
「うん、双子の弟妹ってわけ」
双子の弟と妹かあ。すごく懐いているその光景はまるで昔の僕と蓮ちゃんを見ているようだった。僕はあそこまで元気な子ではなかったけど。
そうしていると犬飼さんが子供達に話しかける。
「あ、姫お姉ちゃん!」
「うっす、お久ちびっ子達!」
「姫お姉ちゃんかっこいい~!」
「ふふ、あざまる!」
どうやら二人と前に会ったことがあるみたいで犬飼さんは二人と親しげに話している。小さい子供の扱いが非常にうまくかなり慕われているようだった。年下には中々年上として扱ってもらえない僕とは大違いで、同時に凄く羨ましかった。
「ねえねえ、なんでそんなかっこしてるの?」
「男は女の、女は男の格好してるのが私達の出し物なんだよ」
確かに何も知らない子供からすれば不思議だよね……。
「じゃああのお姉ちゃんは?」
そう言って二人は僕を指差す。こういう風に思われるのは何度も経験してるし小さい子の言う事だから気にならない。
けれど二人は興味津々な目で僕に近寄る。
「ねえねえ! お姉ちゃんも男の子なの!?」
「あの、えっと……」
「その人は男の子なんだよ~」
「え~」
「うそだ~」
「は、はは……」
犬飼さんが説明してくれるけど二人はこれっぽっちも信じていないようだった。この顔にこんな格好だもの、信じてもらえないのも当然だよね……。子供だから面と向かって言われるのはちょっとあれだけど。
肝心の僕は子供との接し方が分からず困惑している。年下の知り合い自体蓮ちゃんと瑞人君ぐらいしかいないし。
「えっと、ぼ、僕は一応男で……」
「じゃあ確かめよ!」
「うん!」
「確かめる? 確かめるって――」
「「それ!」」
◇
「高校の学園祭なんて久しぶりね」
「ボクのクラスはどうでした?」
「うん、美味しかったよ」
今は休憩時間のボクはこの間から連絡を取っていた安里さんを学園祭に案内していた。無事就職先も決まり大学もほぼ休みになったことで最近はちょくちょく会ったりしている。昔よくお世話になってたからこっちへ帰ってきたら会いたかったうちの一人だった。
「あ、あったあった。あそこがいっくんのクラスで――」
「いやあああ!」
「い、今の声って……!」
「一和?」
間違いない、今のはいっくんの声だった。まるで叫び声のようだったけど、何があったんだろう? ま、まさかいっくんの身に何か起きたのかな? 例えばそう、他校からやって来た不良にナンパされた挙句に痴漢を受けているとか……。普通ならそんなバカなって思うけどなんせいっくんだもん、絶対ないとは言い切れない。
ボク達は駆け足で教室へ行き中を見てみる。
「いっく――」
「いち――」
「ははは!」
「おもしろ~い!」
「や、やめてええ!!」
たどり着いた教室の中ではカオス極まりない光景が広がっていた。小さな子供二人が女装したいっくんのミニスカートをめくっていていっくんは必死にスカートの裾を抑えている。けれど二人相手にするのは中々難しいようでスカートの下は見えてしまっていた……。
それとその近くでギャル先輩が鼻血を出しながら蹲っている。大方興奮の余り鼻血を出してしまったってとこかな。まさかそんな漫画みたいなことしてるだなんて……。
「だ、大丈夫姫!?」
「だいじょばない……」
「こ、こらチビ達! やめなさい!」
「ほんとだー!」
「おとこのこだー!」
「だ、だめえ! めくっちゃだめええ!!」
「「……ナニコレ?」」
この状況がまったく飲み込めず無表情で見ていたボク達だったけど、気がつけば無言でスマホを取り出した。
「面白いから撮っておこ」
「可愛いから撮っておこ」
ボク達二人ともカメラを連写していた。だっていっくんがあまりにも可愛いんだもの……。
ようやく子供達は引き離される。同時にいっくんは腰が抜けたようにその場に座り込んだ。
「ご、ごめんいっちー!」
「うう……」
ボク達も真っ赤な顔で涙目になっているいっくんのもとへ。
「やっほーいっくん」
「いやーいいもん見せてもらったわ」
「れ、蓮ちゃん! お姉ちゃんまで!!」
「はいこれ差し入れ! うちのクラスのホットドッグ!」
「あ、ありがとう……あ、お金……」
「いいよいいよ! お代はもう見せてもらったし!」
「見せて……?」
最初は何のことか分かっていないようだったけどすぐに理解したようでプルプルと悶えだす。こんないっくんが可愛くて仕方ない。
いっくんは真っ赤な顔で放心状態になっている。そしてその後ろではギャル先輩が別室へ運ばれていた。
学園祭って面白いんだなあ。
◇
「はあ、はあ……! ど、どうかな?」
「いい……いい! 凄くよかったよ!」
最後の個人練習が終了した。何とかミスなく終わることができた、どころか今までで一番出来がよかったと思う。この調子でいけば本番も大丈夫だろう。
決して慢心しているわけではないがこの数日間ずっと練習してきたんだ。少なからず自分を信じてもいいだろう。
「じゃあ颯さん、本番までは体を休めよう」
「ああ、ありがとう。付き合ってくれて」
最後の最後まで林さんは私の練習に付き合ってくれた。きっと踊れず悔しい気持ちでいっぱいなのにだ。彼女には感謝してもしきれない。
「じゃあ颯さん、最後にこれだけ教えておくね」
「ん?」
「踊ってるときは常に笑顔! これは忘れちゃダメ!」
「笑顔……」
「うん! それが私が教えられる最後のレッスン!」
笑顔か……。考えてみれば私はどんな表情で踊っていたのだろう。深く意識したことがなかった。
けどそうだ、堅苦しい表情で踊っていても見ている人は楽しくないだろう。それは彼にも……。
「分かった、ありがとう!」
常に笑顔、これを忘れない。
とびきりの笑顔を見せるんだ、そうすれば彼も!
必ず来てくれる、私はそう信じている。ならば私は踊るだけだ。
だから、だから見ていてくれ一ノ瀬君。私の最後の学園祭、その姿を。
閲覧ありがとうございます!
個人的に結構お気に入り回です。メイド+男の娘となればスカートめくりは外せないでしょう笑
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