第66話 「アメリカへ!」
「Please show me the passport(パスポートを見せてもらえますか)」
「Right here (これです)」
審査官にパスポートを見せる。ああ、緊張するなあ。マジヤバなんですけど!
「What’s the purpose of your visit?(入国の目的はなんですか?)」
目的ねえ。旅行……ともちょっと違うかな?
「I'm here to visit my parents(両親に会いに)」
「Ok.How long will you be in the country?(分かりました。滞在期間はどの程度でしょうか?)」
「Three weeks(三週間です)」
ああ、勉強してきた成果をここまで発揮できるなんて。生まれて初めて勉強っていいなって思えたような気がする!
その後もいくつか簡単な質疑応答を済ませてパスポートにハンコを押す。
「Have a nice trip!!(よい旅を!!)」
「Thank you!!」
ああ、いよいよアメリカイン!
――と意気込んだのもつかの間、あまりにも広すぎてどこをどう行けばいいのよ……。このロスの空港って確か世界でもトップクラスに利用客多いのよね。それじゃあこんだけデカいのも当然か。
はあ、アメリカ入国初っ端から迷子だなんて……。一応パパが空港の入口まで迎えに来てくれるって言ってたけど……。
「あ~もう! どこ行けばいいのよ!」
「ハーイ、かわいこちゃん」
突如後ろから抱き着かれた。ヤバ、痴漢!?
……ってこの声、この感じ!!
「何してんのよパパ」
「冷たいな、久しぶりに会ったのに」
「もう! はあ……久しぶりパパ」
実際に顔を合わせてみると自然と笑顔になる。そっか、一年ぶりだもんね。遠い異国の地でパパもママも頑張ってる、だから会えなくても仕方ない。それに恥ずくて言えないけど、あたしはそんな二人の姿が好きだから。
そのまま案内され外の車に乗り込む。窓の外の流れていく景色をただ眺めているだけでドキドキする。もうここは日本じゃないんだ……!
「時差ボケは大丈夫か?」
「まあ飛行機で爆睡こいてたし」
「そうだな。まあアシュレイの講義は四日後だし、しばらくゆっくりして体を慣らすといい」
「うん」
車の種類から交通表示まで、全てが目新しくて感激してしまう。海外自体は初めてではないけど感じるものは断トツ。だって、憧れてた国だから。
「ん? お前ピアスなんて開けたのか?」
「まあね。別にいいっしょ?」
「ま、若い奴の特権だな」
うちは基本その辺りはうるさく言われない。だから髪を染めようがピアス開けようが特に何も言われることはない。
それにもし外せと言われてもあたしは全力で拒否ったとおもう。だってこれは大切な贈り物なんだから。
そうこうしているうちにホテルに到着。
「は~疲れた。ママは?」
「今日は夜の二十一時まで仕事だ。終わったらまっしぐらで帰ってくるってさ」
「そっか」
どうやら仕事の都合でホテルに寝泊まりしているとのこと。あたしの体験講義が終わったらニューヨークの自宅へ行く予定。
ベッドの上でくつろいでいると急激に眠くなってきた。そっか、時差ボケとか長時間のフライトの疲れとか……色々……。
◇
「う~ん……」
「――め! ――きろ!」
「ん……なに……?」
パパの声で目が覚める。あ、いつの間にかあたし寝てたんだ……。
寝起きで重い体を動かしぼやけた目を擦る。はっきりと焦点が合うまで数秒、まだ頭がシャキッとしないけど。
そんな状態のあたしの目に飛び込んできたのは――。
「起きたか、夕飯に行こう」
「おはよ……ママ!?」
「おはよ」
そっか、仕事終わったんだ! ママの姿を見た瞬間一気に頭がスッキリしたようになる。約一年ぶりの再会にバイブスが一気にアゲ状態。
「ママ!」
「姫、ようこそアメリカへ」
それから色んなことを話した。日本でのこと、ファッション業界のこと、昔の家族の思い出。パパもママもそれを嬉しそうに聞いていた。
家族水入らずの時間をこんなに楽しく感じることができるあたしはきっと幸せなんだと思う。
そして帰りのタクシーでのこと。
「姫」
「なに?」
「日本でなにか良いことでもあった?」
「どういうこと?」
「いや、なんだかいっそう明るくなったなあって」
「そ、そうかな?」
自分ではそんな感じはしないけど、もしそうなのだとしたらそれはきっと……。
「もしかして、彼氏でもできた?」
「い~や、全然。……けどさ」
「ん?」
「彼氏はできてないけど……好きな人はいるかな?」
「へえ……いずれ紹介しなさいよ。修学旅行アメリカなんでしょ?」
「え、嫌よ!」
な~んて……いずれは本当に紹介できたらいいな。その時はきっと、自信持って紹介したい。あたしの彼氏ですってね!
「そのうち紹介してあげられるかもね!」
「もう、意地悪ね」
「へへへ!」
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