第65話 「初アルバイト」
「ふう……よおし!」
緊張しながら店内へ足を踏み入れる。
「お、おはようございます!」
ここはコンビニエンスストア。実は僕は今日からここでアルバイトを始めることになった。
きっかけはここ最近お金の消費が多くなってきたから。これまでは毎月のお小遣いをほとんど使わなかったし今でもそれなりに蓄えはあるんだけど、やっぱり蓄えが多い方が困ることはない。それに社会勉強にもなるしね。
まあ中々高校生と信じてもらえなくて大変だったけど……。
何はともあれ、めでたくこのお店の一員として働くことになった。頑張らないと!
緊張しながらスタッフ控え室の扉を開け中へ入る。
「お、おはようござい――」
「おはよ――」
中で鉢合わせしたのは同じクラスで犬飼さんのお友達の龍崎さん。まさかの遭遇にお互い鳩が豆鉄砲をくらったような顔になる。
「い、一ノ瀬!? まさか今日から入るバイトって……」
「あ、はい、僕です……」
「そ、そうだったんだ」
こんな偶然あるんだ……。と思ったけど、ここ最近はそんな偶然ばかりだったっけ。
「へえ、知り合いだったんだ」
「あ、店長。こ、高校のクラスメイトで……」
奥から店長が顔を出す。会うのは今日で二回目だけど気の優しそうな人で凄く好感が持てた。初めてのアルバイト先の店長さんが良い人そうなのは凄くありがたいや。
で、僕達がクラスメイトだということを知った店長はというと。
「じゃあ、彼の指導をお願いしようか」
「ええ? 私にですか?」
「うん。もう一年も働いてるし、見たところそれなりに交友はあるんでしょ?」
「まあいいですけど……」
こうして僕の人生初アルバイトが始まった。
初日ということもあって今日教えてもらうことは少なく、簡単な作業だけ。主には在庫商品を売り場へ出す品出しと商品を袋に入れる袋詰めの二つ。
甘く見てるわけではないけど初歩の初歩だからこれくれいはキッチリこなしてみせないと! 僕はいつになく意気込んでいた。
◇
まさかこんなことになるなんてねえ……。バイト先がおんなじだなんて、姫が知ったらどう思うだろう?
いや、これはたまたまだったんだし仕方ない。それに別に一ノ瀬のことなんてどうとも思ってないし!!
……まあ良いやつなのは認めるけど。けど背が低いからって品出しで一番上の棚に届かないなんてある!?
「ふぬ~……!」
「はあ……これ使いなさい」
私は台に使われているビール瓶ケースを渡す。
「あ、ありがとうございます!」
「い、いいわよ。終わったらレジ行くから」
そのままレジで袋詰めを教える。こっちならそうそうミスすることもないでしょ。案の定それなりにうまくこなしてるしね。
気が付けばもう十時近く。このまま何もなく退勤できそうね。
「まあ、今日のとこはこんな感じだけどどうだった?」
「はい、色々覚えないといけないことが多くて……」
「まあ最初はそうよね」
もうあと少しで退勤時間。特に教えることもないしどうしよっかな。
「あ、お箸とスプーン取ってきてくれる?」
「はい」
いつの間にかお箸とスプーンが少なくなっていた。こうなると当然補充しなければならない。こういう細かいことも教えておく必要があるのよね。
「あ、いらっしゃいませ」
一ノ瀬に取らせている間にお客さんが来てしまった。っと、この客……。
一瞬嫌な顔をしてしまいそうになったとこを必死で抑え込む。この人はこのくらいの時間に既に酔っているような人で、正直私はできる限り相手にはしたくない。ま、相手にしなきゃいけないのがコンビニの面倒なとこなんだけどね。この人に限らず面倒くさい人なんて何人も相手にしてきたし。
「八百七十六円になります」
「ほれ」
ほれじゃないわよバカ……! 落ち着かなきゃ、こんなのにいちいち腹立ててたらキリがないし。
できる限り冷静を保ちながら対応する。
「百二十四円とレシートのお返しです」
「あ、ポイントカード」
ヤバ、イラついてたからポイントカード聞くの忘れてた……!! 会計済ませたし今からじゃポイント付けれない、どう説明しよう!!
「あ、あのお客様申し訳ございません。お会計をしてしまったのでポイントの方は――」
「は? お前さっき俺に聞かなかったよな?」
「はい、誠に申し訳ございません」
ヤッバ、やっぱガチギレしてる……。どうしよ、この人マジで面倒なのよね。いや、私が怒られるだけなら別にいい。ただ店にクレームがくるとなるともう私だけの問題ではない。
チラッと横を見ると戻ってきた一ノ瀬が困惑していた。私は来るなというように首を振る。
「ったくよ……ふざけんなよ……」
何がふざけんなよ……こっちの台詞よそんなの! こういう面倒な奴の相手なんてしたくもない。けど店長は今事務所で仕事中だし他の店員は反対側のレジでお客様対応をしている真っ最中。ここは私で何とかするしかない。
「本当に悪いと思ってんのか?」
「は、はい」
「ならもっと謝り方ってもんがあるよな?」
な……!? カスハラじゃないこんなの!!
はあ、もう嫌……。なんでここまで……!
「あ、あの!」
◇
「ふう」
退勤時間になり控え室でお茶を口にしていた。初出勤でまさかあんなことが起こるなんて。
一息ついていると作業の関係で数分だけ残業していた龍崎さんが入ってくる。
「あ、お疲れ様で――」
「あんたねえ!」
いきなり大きな声を出してきたからビクッとしてしまう。お、怒ってる……よね……。
「あ、あの……」
「なんであんな奴の言うこときくわけ!?」
「えっと……」
あのお客さんはあの後、なんと龍崎さんに『土下座してでも謝れ』と言ってきた。だから僕は……龍崎さんの代わりにお客さんの前に出て土下座しようとしたんだ。まあ気づいた店長のおかげで事なきを得たんだけど。
当然僕だってしたくてしたことではない。でもあのままじゃあきっと……。
「す、すいません」
「あたしが頭下げればそれで済んだのに。写真撮られたりしてsnsに出回ったりしたらどうするのよ! なんであんなこと……!? 男でしょあんた!」
「あ、あのままじゃ……」
「なに?」
これは言い訳でも責任転嫁でもない。そう聞こえるかもしれないけど、自分の意志なんだ。
「あのままじゃきっと龍崎さんが土下座させられると思って……。そんなのさせるわけにいかないですし……」
「じゃ、じゃあ……」
「そ、そんな扱いさせられる方が嫌だったから……」
「い、一ノ瀬……あんた――」
「あ、一ノ瀬君」
店長から書類等の説明のため事務所へ呼び出されたためそこから先は何を言おうとしていたのかは分からない。戻ってきた時にはもう帰っていたし。
店長によればあのお客さんはカスタマーハラスメントとして報告するとのこと。僕は気にしてないとは言えないけど、結果的に龍崎さんにあんなことをさせてしまわず済んでよかった。
けど疲れたな……。
◇
「お疲れ」
「あ、お疲れ様でした」
店から出てきた一ノ瀬を外で待ち受ける。あんなことがあったのにぺこりと頭を下げてきた。
そんな一ノ瀬にジュースを差し出す。
「はい」
「え?」
「奢り」
「あ、ありがとうございます」
まあこのくらいはね。だって、私を助けてくれたんだもん。
あの時は何でこんな簡単に土下座するんだって思った。なんで姫があそこまで好いているのかも分からなくなった。
けど、それは私の間違い。褒められたことではないかもだけど、一ノ瀬は確かにかわいさだけじゃないヤツだったみたい。
「一ノ瀬」
「はい?」
「あんたあんまりホイホイ頭下げるのはやめな。男が下がるわよ」
「は、はい……」
もちろんあんな簡単に頭を下げていいとは思わない。こんなんでも男なんだから、おいそれと土下座なんてしちゃだめよ。
けど……。
「まあでも……ありがと」
「い、いえ」
今日の話を姫が聞いたらなんて言うだろう。きっとあの客に大激怒するだろうな。
でもそれ以上に一ノ瀬に惚れ直したりするのかもね。
「それと一ノ瀬さ」
「なんですか?」
「さっきはあんなこと言ってごめん。あたしあんたのこと見直したよ」
「いや、そんな。僕はなんにも……」
「じゃあね」
そう言い残し去っていく。
男気あんじゃん一ノ瀬。姫が惚れるのも分かるかも。……まあ、確かにあんだけ可愛いしね……。
って、私は別に! 親友が好きな相手、ただそれだけだし!
「はあ……あいつ結構な天然タラシなのかもね……」
遠い空の下にいる姫のことを想いながらあたしは帰路へついた。
閲覧ありがとうございます!
今回はコンビニバイト歴4年の自分の思いをぶち込みました笑
感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!
次回もよろしくお願いします!




