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第55話 「突然の電話」

 中間テスト前日。あたしは家で勉強……しているわけがなく、保湿液を塗りながらTATSUYAで借りた戦隊ものを見ていた。前に気になって見てから他のも結構ハマっちゃった。

 一応言っておくけど別にテストを諦めたわけではない。だって英語は元々得意だし、ノートはわんこに見せてもらったし。

 

「って、もうこんな時間じゃん!」

 

 気付けばもう零時近く。さすがにもう寝ようかな。

 二日間のテストを乗り切れば後はもう夏休み。ああ、マジ楽しみだなあ。夏休みは毎年バイブス上がるけど、今年は今までとは段違い。そりゃそうだよね。

 

「……寝よう」

 

 ちょうど借りてきた分も見終わったし、明日に備えて寝よう。ベッドへ向かおうとした瞬間、あたしのスマホに着信がきた。誰よこんな時間に?

 

「誰だろ……ママ……?」

 

 画面に表示されていた相手はママだった。電話は忙しいのか最近していなかったし、ちょっと驚いてしまう。

 

「もしもし?」

『もしもし。久しぶり』

 

 数か月程度しか経っていないのに久しぶりと言うほど懐かしく感じる。最後に顔を合わせたのは去年の夏休みだっけ。そっか、もう一年近く会ってないんだ。

 ネットで活躍はチェックしてるし最近ではシアトルで個展を開いてたのも知ってる。それだけ忙しい上に時差もあるんだから電話もできなくてもまあ無理はないよね。あたしだってもう高校生なんだし。

 あっ、ちょっと待って。一年近くって……そっか、もう七月じゃん! だからあたしに電話してきたのかな。

 

「どうしたのママ?」

『なにね、あんたもうすぐ夏休みでしょ?』

「うん。再来週が最後だけど?」

『なら話があるんだけど』

「話って?」

 

 なんの話だろう? 緊張感を感じごくりと生唾を飲み込む。悪い話じゃないんだろうけど久しぶりに会話してこれだから、変にドキドキしちゃう。

 そうしてママの口から出た言葉は――。

 

 

『アメリカに来てみない?』

「え!?」

 

 アメリカに……! 確かに一度は行きたいと思ってたし、将来的には留学もしたいと思ってるけど……。でも何でアメリカに誘ってきたんだろ?

 

『実はあたしの友達に専門学校の講師がいるんだけどね。そいつが八月にロサンゼルスで体験講義をするのよ。せっかくの夏休みなんだしアメリカへ来て学んでみないかしら? パパも会いたがってるわよ』

「アメリカかあ……」

 

 行きたい、行ってみたい! けどせっかくの夏休みなのにみんなと過ごす時間が減っちゃう……。明確に予定は立ててないけど色々考えてたのに……。

 ……でもせっかくの機会だし、これはあたしの夢にとって間違いなくいい経験になる。考えるだけで気持ちが熱くなっていく。

 迷っている暇なんてない……!

 

 

「……行きたい! その講義受けたい!」

『そう言うと思ってたわ』

 

 笑い交じりでママはそう言う。

 

『姫、当然この一年間勉強は続けてたのよね?』

「もちろん!」

『そう。なら見せてもらおうかしら。あなたがどれだけデザイナーに近づけたのかを』

 

 ママはあたしの夢を知っている。だから今まで色々教えてきてくれた。あたしにとっては師匠のような存在でもある。

 だからこの一年の間にあたしが考えたアイディアをすべて見せるつもり。現役バリバリのママに色々叩き込まれるのは他の人にはない利点だから。

 とはいってもやっぱり……考えただけで冷や汗が出てきた。

 

『じゃあ詳しい日付はメールで送るわ。パスポートはまだ期限大丈夫よね?』

「うん、まだ五年経ってないから」

『オッケー。じゃあ詳しい話はまた電話するわね』

「うん、ありがとママ!」

『いいのよ。それと……』

 

 ママは少し口ごもる。何かを言おうとしているのだとは分かるけど。ほんの数秒だけ間をおき、ママは話し始める。

 

 

『少し早いけど……Happy Birthday My dear daughter(誕生日おめでとう、愛しき娘よ)』

 

 流暢な英語で祝福される。やっぱりママはカッコいいな。ようし、それならあたしも……。

 

「Thank you! I love you Mom!(ありがとう! 愛してるわママ!)」

 

 この一年間英語を勉強してきた成果を見せつけるかのように答える。電話越しだけど、少しは上達したことを聞いて欲しかった。

 

『じゃあね』

 

 そう言い残しママは電話を切った。

 アメリカかあ……! 現地で直々に教えを受けれるなんて、これはとんでもなく大きなチャンスだ。確かに一瞬迷ってしまった、何も一か月ずっと向こうにいるわけでもない。

 それにママとパパに久しぶりに会えるんだ。きっとあたしにとってはいいことだらけになるはず。

 

「……」

 

 でも、どうしても不安が頭から離れないの……。そんなんじゃダメだって自分でも分かってるはずなのに……!! なのに浮かんでしまう、この不安を拭い去る案を。

 絶対無理なのは自分でも分かってるのに……。

 

 

「は~終わった~!」

「ようやく部活できる~!」

「お疲れ」

 

 煮え切らないまま時間は過ぎていきテスト最終日。みんなテストが終わった解放感に包まれちょっとしたパーティー状態。

 一方のあたしは乗り気にはなれずにいる。胸の中にあるこの変な感情はなんていうのかな。あいにくそれが分かるほどあたしは自分を理解できてないっぽい。

 

「姫?」

「え?」

 

 ボーっとしてたせいかあやと比奈の呼びかけに全く気が付いていなかった。

 

「どうしたの?」

「ああ、ごめん! ちょっとトリップしてた。で、なに?」

「いや、テストも終わったし帰らない?」

「あ、ああ。そうね」

「おっし、帰んべ帰んべ」

 

 だめだ、完全に頭が回ってない……。

 今うだうだ悩んでも仕方ない、ここはきっちり切り替えて明日にでも!

 

「うし! じゃあ久々にオケろうか!」

「いいわね!」

「うむ」

 

 逃げてるように思われても無理ないけど今日のところはいったん置いておこう。明日以降でも遅くはないよね。

 どう考えても無理なのは分かってるけど……それでも! あたしにはやっぱり必要なんだ!

閲覧ありがとうございます!


ファッション関係の知識0なので何か間違いがあっても大目に見てくださいm(__)m


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次回もよろしくお願いします!

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