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第51話 「決戦?体育祭!」

「それではこれより――」

 

 開会式が終了し生徒が一斉にわいわいと自分の席へと戻っていく。

 今日は年に一度の体育祭。

 

「はあ」

 

 体力のない僕にとっては全くもって楽しみではない。もちろん参加する競技には全力で取り組むけど、乗り気にはなれそうもないや。

 

「いけー!」

「いいぞ!」

 

 生徒達はみんな自分のチームを応援している。ちなみに僕と犬飼さんは赤組で蓮ちゃんと先輩は白組になったみたい。仕方ないことだけど二人とは別の組かあ。せっかくならみんな一緒の組だったならよかったのに。

 

「ただいまより、五十メートル走を始めます!」

 

 五十メートル走かあ。僕には到底無理だろうな。

 そんな悲観的に考えていた頃、出場者の待機列にはよおく見知ったメンバーが三人。話を聞いたときはまさかと思ったけど、本当にこんな偶然が起こるなんて……。

 


 

「まさかこんなことになるなんてね」

 

 柔軟運動をしながら二人にそう言うと、同じような反応が返ってきた。

 

「ああ」

「本当にね」

「まさかあたし達三人が同じレースになるなんて」

 

 まさかまさか、体育祭の競技が一緒になったうえレースまで一緒という超奇跡。一レースで五人、その内三人を占めるだなんて。

 だけどこれは俄然やる気が出てきた。一位じゃなくてもいい。ここで二人より上に行ければカッコいいとこ見せられるじゃん!

 ……まあ、そんな簡単にいかないのは分かってるけど……。なんせ先輩がいるからなあ。

 

「ねえ先輩達。せっかくなら勝負しようよ」

「勝負?」

 

 蓮の一言にあたしも先輩もピクリと反応してみせる。負けん気の強さは同じくらいなのかも。

 三人で固まりひそひそ話で勝負の内容を話し合う。

 

「どうせならボク達の中で一番早くゴールした人がいっくんをデートに誘えるってのは? 月曜日は振替でお休みでしょ?」

「た、確かにそうだが」

「いいじゃん! 乗った!」

 

 何の自信もないくせに勝負と聞いて受けずにはいられなかった。こういう性格治さないとなあ。

 その後先輩も渋々了承し、あたし達三人による争奪戦レースが決定した。ここはなんとしても勝ちたいところ。そのためには……!

 

「次の組、準備して!」

 

 いよいよ次はあたし達の番。いざ始まるってなったら胸が超ドキドキしてきたんですけど!

 この戦いに勝つためにはまず越えなければならない壁がある。それをどう乗り越えるかが鍵になるはず。となれば……。

 

「蓮」

 

 ボソッとした声で蓮に合図を送る。声に出すとバレてしまうのでアイコンタクトでこっそりメッセを送った。

 それを受け取った蓮は察した顔で頷く。どうやら伝わったみたいね。なら準備はおけまる!

 

「位置について、よ~い……」

 

 スターターがピストルを鳴らす。その瞬間、あたしと蓮は一斉に間のレーンにいた先輩の両足に組み付いた。当然バランスを崩し前方に倒れこむ。

 

「おわ!!」

「うっし! 作戦成功!!」

「みたか先輩!!」

 

 そう、この戦いはまず先輩を潰すことが最優先。ゴールを目指すのはその後でいいってわけ。蓮が察しのいい奴でマジ助かったわ!

 

「こ、この!」

「へへ~ん! これで優勝はあたしらの――」

「させるかあ!!」

 

 なんとすぐに先輩は立ち上がりあたし達二人を捕まえる。ちょ、なんなのこの人!

 

「この卑怯者め!」

「く、マズった!」

「ど、どうするのさ先輩!」

 

 先輩、これもしかして激おこな感じ……? あたし達を掴む力が尋常じゃないんですけど……。

 だけどこのままじゃ負けちゃう、何とか策を練らないと!

 

「く……蓮! ここは二人で……」

「う、うん!」

「ほう?」

 

 蓮はなんとか先輩から脱出した。だけどこの力、全然抵抗してもビクともしないんですけど! どんだけなのよ!

 

「蓮!」

「分かった!」

「何をする気だ?」

 

 そういうと蓮はこっちへ向かってくる。そう、そのまま先輩を――。

 

「はあっ!」

「……は?」

「……え?」

 

 蓮が取った行動、それはあたしの背中を踏み台にして先輩ごと飛び越えるというものだった。こいつもこいつでなんつージャンプ力してんのよ!

 

「おっ先~!」

「しまった!」

「させるかあ!」

 

 咄嗟にあたしは蓮を掴もうとする。だけどあたしが辛うじて掴めたのは――――蓮の下の体操着だけ。そのまま掴まれたズボンはするりと抜け落ちていく。

 

「「……!?」」

 

 前転しながら着地した蓮はなんとパンツが露わになっていた……! さすがにこれは……あたしやらかした!?

 と思っていたその矢先、何と蓮は気にも留めずそのままゴールへ向かって走り出した。

 

「ちょ、蓮!!」

「蓮君! き、君下着が!」

「そんなの知ったことじゃないよ~だ!」

「ま、待ちなさいよ!」

 

 ダッシュで追いかけるけど距離は埋まらない。あ、あいつあんなに足早かったの!?

 そのまま一直線にゴールインした蓮は指定の場所へ行かずに客席の方へ向かっていった。あいつ、何をする気?

 

「な、何を考えてんのよ?」

「あのクラスって……まさか!?」

 

 先輩の嫌な予感は見事に的中してしまった。蓮が下着丸出しのまま向かったのはあろうことかうちのクラスの席。そこにいるのはもちろん――。

 

「いっくうううん!!」

「あ、あいつ……!」

 

 そう、蓮は下のズボンを履いていない状態でわんこに抱き着きにいっていた……。なんつーメンタルなのよ……。

 

「やったよ! ボクが一番だよ!」

「れ、れ……」

 

 一方のわんこは……頭から湯気を出して口をパクパクさせていた。ああ、きゃわたん……じゃなかった!

 

「いっくん?」

「蓮!」

 

 そのまま真っ赤な顔で倒れてしまう。ああ、刺激強すぎたか……。

 

「いっくん!」

「れ、蓮! とりまこれ履きなさい!」

「そ、そうだ! はしたないぞ!」

「その前に」

 

 ポンと肩に手を置かれる。何よ、こんな時……に……。

 あたし達の後ろにいたのはうちの教師。あ、これやっちゃったかも。

 

「三人とも、一緒に来てもらおうか?」

「せ、先生……」

「む~何でボクまで~」

「……てへぺろ!」

 

 

「うん……眩しいなあ……」

 

 瞼越しに光が伝わってくる。そっと目を開けるとここは……保健室……だよね? 何で僕保健室に? 確か僕は体育祭をしてたはずなのに。

 あ、そうだ。蓮ちゃんが……あんな格好で抱き着いてくるから……。

  

「あ、目覚めた?」

 

 カーテンが開かれ蓮ちゃんが姿を現す。今はちゃんとズボンを履いている。

 けど僕の目にはさっきの姿が焼き付いていた。ああ、思い出すだけで熱が……。

 

「れ、蓮ちゃん……」

「いや~先生にこっぴどく怒られちゃった」

「そ、それはそうだよ……」

 

 なんせルール違反な行動を繰り返した上にあ、あんなはしたない恰好で……!

 

「で、いっくん。目覚めてすぐに言うのもなんだけどさ、月曜日って用事あったりするかな……?」

「月曜日? いや、ないけど」

「本当!? じゃあさ、ボクと――」

 

 

「「ストオオオップ!!」」

 

 カーテンの奥から犬飼さんと先輩が勢いよく出てくる。あまりにもいきなりだったからびっくりしてしまう。

 

「あれはなし!」

「え~! ボクが一番最初にゴールしたじゃないか!」

「い、いや、結局三人とも失格になっただろう!」

「し、失格!?」

 

 後から聞いた話によれば三人とも妨害行為で失格扱いにされてしまったとのこと。その上先生にこってり絞られてしまったみたいで……。

 それを知った僕はただただ苦笑いしかできなかった。

 

「てかあんた、よくもまあ下着姿晒せたわね……」

「そんなのボクにとってはどうでもいいもん」

「な、なんて強メンタリティ……」

「そういえば昔からそうだったね……」

 

 昔から蓮ちゃんは羞恥心なんてものはなかったっけ……。

 

「けどいっくん、ボクのパンツで興奮しちゃうなんてエッチだな~」

「だ、だって……」

「く~……! 少しは恥じらいをだな……」

「わ、わんこ! れ、蓮のお子様パンツなんかよりあたしの方が!」

 

 そう言って犬飼さんはなんと体操着のズボンをチラリと下げてきた。その下から赤い繊維で構成された何かが顔を出す……。ああ、これはもうだめ……。

 

「ば、馬鹿者! なんて破廉恥なことを!」

「や、やっぱビッチギャルじゃん!!」

「にしし、あたしの方があんたより色気ヤバみだもんね!」

「も、もうやめてえ…」

 

 再び顔が熱くなりベッドへ倒れこむ。

 こうしてハチャメチャな体育祭は終わりを告げた。結局僕は競技に出場する暇もなく保健室送りになってしまったのでした……。

閲覧ありがとうございます!


今回はラブコメのコメ強めにしてみました。

あとどんな意見も受け入れる覚悟はある…とは言えませんが笑感想お待ちしてます!


感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!

次回もよろしくお願いします!

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