第46話 「夢の国 織姫編2」
「よおし……」
犬飼さんはライフルを手に狙いを定め……。
「いけ!」
引き金を引き銃声が鳴る。とはいってももちろん作り物のライフル銃だけど。
僕達が今いる場所はウエスタンエリア・シューティングギャラリー。いわゆる射撃ゲームで、西部劇の時代を舞台にしたアトラクション。
ちなみに僕は十発中たったの二発しか当てられなかった。蓮ちゃんとバブ・ライトイヤーのアストロドライバーに乗った時もそうだったけど、僕はこういうゲームは本当にからっきしなんだ。
では犬飼さんはどうなのかというと――。
「お、十発全部じゃん!」
「ええ、全部当たったんですか!?」
出されたスコアカードには十発中十発の文字が描かれていた。その下にはラッキーの文字。このラッキーというのは何だろう?
スタッフの方に見せにいく。
「おめでとうございま~す! こちら金と銀のバッジ両方をプレゼントです!」
「マジですか!」
そうか、ラッキーが出るとバッジが二種類もらえるんだ。それを引き当てるのがさすがだと思う。
「へえ、こんなのもらえるんだ」
「ここは初めてなんですか?」
「うん。今日が初めて」
初めてなのに十発全部的中させるなんて。
金と銀のバッジを見ている犬飼さんを僕は尊敬の眼差しで見ていた。そんな中犬飼さんが僕にバッジを一つ差し出してくる。
「じゃあ……はい」
「え?」
「いや、せっかく二個ゲットできたなら一個あげるよ」
「い、いいんですか? ゲットしたのは僕じゃないのに」
「いいよいいよ! どうせなら同じの二個だったらおそろだったんだけどね~」
「あ、ありがとうございます……」
僕は戸惑いながらも銀色のバッジを受け取る。ある意味初めてのプレゼントなのかな。
「よし、じゃあ次のとこ行こうか」
そうして僕達が次に訪れたのは……。
「こ、ここって……!」
目の前には白雪姫と七人の妖精。名前だけ聞くと白雪姫の愉快なアトラクションに聞こえるかもしれないけれど、その中身は怖い魔女を中心としたお化け屋敷のような内容なんだ……。
小さいころに一度乗ってずっとお姉ちゃんに泣きついてたっけ……。
「な、なんでここに?」
「いやあ、実はさ……」
話を聞いたところ、蓮ちゃんのファストチケット取得を手伝った代わりに情報を教えてもらったみたい。別に僕がホラー系が苦手なのは知られても構わないけど、なぜここへ?
「あ、どうしても嫌なら別にいいよ? あたし無理矢理乗せたりはしないから」
「あ、いえ! だ、大丈夫です……」
怖いけど……断るという選択肢は僕にはなかった。相手が誰であってもそう、ここで怖いから乗らないというのは失礼だから。
「連れてきてこんなこというのはあれだけど、全然無理しなくていいよ?」
「いえ! 無理なんて!」
待ち時間はあまり長くなく、十分程度で乗ることができた。トロッコ型のライドに乗り込む時点でちょっと怖さがある。
「ではいってらっしゃ~い!」
スタッフの方の元気な声を合図にライドが動き出す。
最初は白雪姫の楽しそうな歌声が聞こえてくる。ここまではいいんだけど、そのすぐ後にお城へ入ってからがこのアトラクションの本番。お城へ入ると暗い上にいきなり魔女が出てくるんだ。
こ、怖い……!
「うう……」
「大丈夫?」
「は、はい……」
怖いけど、そんなの見せるのはあまりにも情けない。今更かもしれないけど情けない姿を見せるのは……。
頭ではそう思っていてもどうしても怖さを抑えられないでいた。そんな時、横から温かく柔らかな感触に包まれる。こ、これは……。
「い……犬飼……さん?」
「大丈夫。あたしがこうしててあげるから」
そう、隣の席から犬飼さんが僕を抱きしめていた。確かに怖さは和らいでいる。これまでに何度も抱き着かれてきたからか、段々恐怖は消えていった。
その代わり耳まで熱くなってきたけど……。だっていい匂いがするし……お、お胸が……。こ、こんなの逆に耐えられないよ……。
「ごめんごめん! あんなに怖がるなんて思わなかったからさ~」
「い、いえ……僕は……」
「はい、お詫びにチュロス奢ってあげるから!」
アトラクションが終わって小休止としてベンチに腰掛けている。
正直に言ってしまうと僕はもう怖さとかそんなものは全くなかった。やたらと疲弊しているのは……言うまでもないよね……。
「あ、もう時間が少ないや」
「そうですね」
気が付けば残りの時間が少なくなっていた。もうこんなに時間が経っていたんだ。
そういうことで僕達が最後に訪れていたのはシンデレラのフェアリーテイル・ツアー。有名なシンデレラの映画の世界に入れるツアーで、ガラスの靴やドレスを自由に見て回れるというもの。数年前にできたから僕も今日が初めての体験だった。
中には様々な展示があり、細部まできっちりと作りこまれている。本当に映画の中の世界に入ったように感じるくらい。
そんな中、犬飼さんはある展示をじっと見ていた。
「どうしたんですか?」
「ああ、ちょっとこれをね」
その視線の先にはシンデレラが身に着けていたドレスがあった。それは物凄く綺麗で男の僕でも目を奪われてしまう。
「綺麗ですね」
「うん。こういうの作ってみたくてさ」
「え?」
「あれ、言ってなかったけ」
何のことか分からずに首をふいと傾げる。
「あたしファッションデザイナーになりたいんだ」
「そうなんですか?」
「うん!」
確かにこれは初めて聞いた。
ファッションデザイナーかあ、僕は知識がないからあまりどうこうは言えない。けれどきっと素晴らしい職業なんだろうな。
「あ、てことは知らないか」
「何がですか?」
「あたしのママがファッションデザイナーってこと」
「ええ!?」
「今ニューヨークで個人事務所構えて活動してて、パパはママのマネージャー。自分の母親をこういうのもなんだけどそこそこ有名なんだよ?」
そっか、だからあんなに立派なマンションに住んでたんだ。ということは今は一人暮らししてるってこと? あんなに大きなお家に一人だなんて……。
「ということは今一人暮らしなんですか?」
「そっ。アメリカ行きが決まったのがあたしの高校入学決まった後だったから付いていくわけにはいかなくてね。一人も結構楽しいもんだけど」
話を聞きながら出口への道を歩いていく。
ファッションデザイナーか。ということは卒業後の進路は……。
「じゃあ卒業したら……」
「一応専門学校行くつもりだけど、将来的にはママの下で勉強したいかな」
「そ、それってアメリカ留学ということですか?」
「まあ、一応ね」
「それで英語の成績が良かったんだ……」
アメリカ留学……僕には到底想像もつかない。もしその時が来たのなら、そしたら僕は……。
あまりにも唐突だったためか考えがまとまらない。だって、もし僕が出した答えが……。
「でもさ」
「はい?」
「もし……もしあたしを選んでくれたなら、アメリカだろうとどこだろうと愛し続ける自信はあるよ?」
夕日に照らされたその笑顔は太陽よりも眩しく見えた。さっきよりもずっと僕の耳たぶが熱くなっている。
照れくさくてとても口にはできないけど、僕もきっと同じことを思っているんだ。この人とならどれだけ離れていても関係ない。どこにいようと愛し続ける自信がある。
「口惜しいけどそろそろ戻ろうか」
「はい」
集合場所へ着くころには段々寒さが出始めていた。みんなと個別の時間は終えたけど時間的にはまだ少し余裕がある。
そんな時に案を出したのは犬飼さん。
「ねえ、乗りたいやつあるんだけどいいかな?」
閲覧ありがとうございます!
英語が得意って初期から伏線入れてたのですが、覚えていますでしょうか?
それと次回で夢の国編は終わりです!
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