第34話 「どう思ってる?」
本日2話目です!
「さて、私の番ね」
「やる気満々だな」
「ふぁいとー」
こういうのは回りくどくいくべきじゃない、直接聞いちゃった方が手っ取り早いのよ。
お昼休み、私達は一ノ瀬を探す。今日はあの後輩ちゃんも来ていなかった。つまり一人でいる可能性が高い。
「あ、いた」
一ノ瀬は図書室で本を探していた。
周りには人がいない。これは大チャンス!
「よし、行ってくるわ!」
「おう!」
「がんば」
意を決して一ノ瀬の方へ向かう。
親友のため!
「いちの――きゃあっ!!」
いたた……盛大に転んでしまった……。
しかも一ノ瀬の目の前で。
「だ、大丈夫ですか……?」
「いた~……え? あ、ああ、大丈夫よ」
「その、怪我とかは……」
な、何よこいつ? 何で大して親しくもない私をこんな本気な目で心配してくるのよ?
今時こんなに純粋な奴がいるなんて……。
「だ、大丈夫よ」
「そうですか。良かったです……」
い、一ノ瀬……こんなにいい子だったなんて……。
こ、こんなの……。
「きゅん……」
「おいこらああ!!」
◇
「あんたが惚れてどうすんだよ」
「め、面目ない……」
まさか惚れそうになってしまうなんて。
一ノ瀬一和恐るべし……! 姫を落としただけのことはあるわね。
幼い体で女顔の割には中々の天然たらしなのかも。
「残るは……」
「私ね」
残るは比奈だけか。
う~ん……比奈に任せて大丈夫かな……。
疑ってるわけじゃないけどこの子はよく思考が読めない時があるからなあ……。
「何か策はあるの?」
「ある」
「ほ~う、でその策って?」
比奈は制服の内ポケットから小さな袋のを取り出す。
何かが入ってるみたいだけど……。
「何する気よ?」
「それは見てのお楽しみ」
本当に何する気よ……。
五時間目の後、つまり放課後である。
私達は姫には秘密にした状態で作戦を実行に移した。
「じゃあ行ってくるであります」
ビシッと敬礼を決め比奈は一ノ瀬の方へ向かう。
その手には小さな袋があった。何が入ってるんだろう?
「何をする気なのかしら?」
「比奈のことだからな~。何をしてくるか分からないな」
「一ノ瀬くうん」
いつもとは似ても似つかない声で呼びかける。
こいつめ、どこまで引き出し持ってんのよ……。
「な、なんですか?」
「実は料理部で新しいクッキー作って試食アンケート取ってるんだけど、お願いできない?」
「いいですけど……」
ちなみに比奈は料理部なんて入っていない。そもそもこの子は料理部なんてガラじゃないし。
でもそんなこと知る由もない一ノ瀬は簡単に信じてしまっている。
比奈はさっきの袋からクッキーを取り出した。もっとも中身は恐らく朝にコンビニで買った市販のものだろう。
「じゃあ、いただきます」
「うん、食べて食べて~」
一ノ瀬はクッキーを一口口に入れる。
まさか、あのクッキーに何か仕込んだの……!?
「お、美味しいです」
「本当~?」
「は、はい。チョコレートの味が……すごく……美味し……」
な、何? 何か一ノ瀬の様子が……!?
「な、何をしたんだ?」
「分かんないけど……」
「あれ……何だ……ろう……」
次の瞬間、いきなり一ノ瀬がふらっと倒れる。地面に倒れる前に比奈がうまく抱えた。
間違いない、何か仕込んだわね。すぐに私と岬が駆け寄る。
「ちょっと! あんた何したのよ!」
「理科室いって即席睡眠薬を作ってきただけだよ」
「よくそんなもん作れるなあ……」
本当何者よこいつは……。
「とにかく、いっちーを運ぼう」
「お、おう……」
◇
「……んん……ここは……?」
目を覚ましたのは薄暗い部屋だった。椅子に縛られていて動けない。
ど、どういうことなの!?
「気が付いた?」
「だ、誰!?」
後ろから声がする。女の人の声……だよね。というか、どこか聞き覚えがあるような……いや、うん。間違いない。この声は……。
すると三人が僕の前に立つ。全員サングラスとマスクをつけていて顔を見れないようにしている。
な、何なのこれ……。
「え~おほん」
「一ノ瀬一和君」
「は、はい……」
何をされるんだろう……?
「今から聞くことに素直に答えてくれればすぐに解放してあげます」
「は、はあ……」
聞くこと? 僕に聞きたいことでもあるのかな。
「まず一つ目、今好きな人は?」
「え、ええ……」
そ、そんな中学生みたいな質問をされるとは……。
でも、これは答えにくい質問ではある。考えれば考えるほど分からなくなってくるんだ。
だって、僕は誰が好きなのか選べてないんだもの……。
「す、好きな人……な、なんでそんなことを?」
「質問に答えなさい」
どうやら僕の方から質問することはできないみたい。
そうなるとここは答えるしかない。
「えっと……な、なんて言うんだろう。好き……とははっきり言えないですけど……」
言葉に詰まってしまう。
好きというのが人としてならいっぱいいるんだけど、異性としてなら今の僕ははっきりとは決められない。だって……。
「まあいいわ。では次の質問。彼女を知ってるわね」
「……犬飼さん?」
スマートフォンの写真に写っていたのは犬飼さんだった。
さすがの僕もどういうことかは察した。龍崎さん達、たぶん犬飼さんから僕のことを聞いたんだ。
「さあ、どう思ってんのよ一ノ瀬!」
「ぼ、僕は……」
どう思ってるか。これもはっきり口に出すのは難しい。
だけど、これだけは確実に言えることがある。
「その……はっきりとは言い切れないです。けど確実に言えるのは……大切な人……です」
「な……」
「言うねえ」
「いっちーかっこいい」
すぐに顔が熱くなる。きっと真っ赤になっているんだろうな。
でもこれは嘘偽りのない、本当の気持ちなんだ。
「そ、そう……」
「なあ、もういいんじゃない?」
「いっちーの男気見せてもらったしね」
「い、いっちー?」
龍崎さんは考え込んでいるようだった。僕としてはもう解放して欲しいんだけどな……。
「いいわ! これが最後よ!」
「は、はい?」
「ひ……姫のこと、彼女にする気はないの!?」
「え、か、彼女ですか!?」
……考えたことはある。だけどそこまで実感はわいていない。
もし僕が犬飼さんの告白に答えれば僕達は恋人同士になるんだ。でも頭で分かっていてもイメージが出てこない。
僕とはレベルが二つも三つも違うのが分かっているから。それは先輩にも言えること。
「お、おい!」
「あや。その辺にしなよ」
「べ、別に無理に頼んでるわけじゃないわよ! ただ気になるだけで……」
彼女……犬飼さんが……。もしそうなったらきっと毎日が退屈しないんだろうな。
僕は……。
「その……僕は……」
「うん?」
「僕は……」
「「「僕は?」」」
「ぼ、僕は――」
「なああにやってんじゃあああい!!」
「ひ、姫!」
「犬飼さん!?」
その後、一連の出来事を説明した。
三人を正座させ怒鳴りつけるなんて、さすがは犬飼さんだなあ……。
「まったく……大丈夫わんこ?」
「は、はい……」
「ごめんね、あたしも知らなかったからさ」
「だと思ってましたよ」
「え?」
そう、僕には確信があった。犬飼さんは関わっていないだろうという絶対的な確信が。
当然犬飼さん達は不思議がっている。
「な、何で分かったのよ一ノ瀬」
「だ、だって……大事なお友達に命令してやらせて、自分は隠れてるなんてこと犬飼さんがするわけないって……そう思ったから……」
三人だけだった時点で僕は確信していた。三人が大事なお友達だということは聞いていたし、そんな人達にやらせることはしないだろうって思ってたから。
犬飼さんはお友達を大切にする人だもの。
「だから……初めから分かってました……!」
「わ、わんこ……!!」
「「「ヒューヒュー」」」
「あ、あんた達!」
冷やかされて顔が真っ赤になる。
仲睦まじい様子を見ると僕も何だか暖かい気持ちになってくる。前に喧嘩しちゃったって話を聞いたからなおさら。
でも今はとても仲良くなってるみたいで何より。
「はは……」
あの先の言葉を口にすることはなかった。それで良かったのかは分からない。
あの後何を言おうとしていたのか。
僕は彼女とかは考えたことはある、けれど実感は沸かない。それは今でもそう――だけど、僕でも良いと思ってくれているのは本当に嬉しいんだ。だから……僕はしっかり選ぶ、選ばないといけない。気持ちに答えるために。
もし僕の答えが犬飼さんだった時には、どうかお付き合いさせて欲しいって思うんだ。
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