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第32話 「理解し合える仲」

連続投稿2話目です!

『女子で格闘技って……』

『颯さんは格闘技忙しいもん。誘ったら悪いよね』

『いっつも練習だもんね~』

『変わってるよな~』

 

 

 いつからだろうか、そんな風な言葉も気にしなくなったのは。私自身がどう言われようとどうでもよくなったのだと思う。

 まだまだ女子格闘技に対しての浸透が薄いのは仕方ないにしても、悔しい思いはあった。何より誰一人として理解を得ようともしないことに腹が立ったこともある。

 

 そんな日々を過ごしていくうちに、私はいつの間にか孤立していた。ある意味当たり前だろう。練習練習で遊びの誘いの一つも乗らなかったのだから。

 

 高校一年の三月、私はプロとしてデビューした。そこから私の高校生活は格闘技が第一になっていった。

 文化祭も、体育大会も私は欠席した。試合が近かったからだ。修学旅行もあまり覚えていない。

 そうしていくうちに友達と呼べる存在もほとんどできなかった。だがそれでも構わない、私には格闘技があるからだ。理解されないだろうし、してくれる人も現れないだろう。ならばそんなものは必要ない。

 理解してもらえなくても構わない。

 

 そう思っていたのだが……。

 

 

 

 

「……ぱい!」

「ん……?」

「……んぱい! 先輩!」

 

 はっと目が覚める。いつの間にか眠ってしまっていたのか……。

 そうか、夢を見ていたんだ。

 

 もう随分と懐かしく感じてしまうほどの夢を。

 

 

「大丈夫?」

「ああ、すまない。ちょっと疲れててね」

「お眠って感じ?」

 

 今は放課後、三人で近くのカフェにいる。今日は一ノ瀬君が早く帰る用事があるとのことでせっかくならと三人で寄り道しているわけだ。

 しかしいつの間にかウトウトして眠っていたのか。

 

「で、話を戻すけど櫻井」

「蓮でいいよ」

「そう、じゃあ蓮。あんたさあ、毎度よく上級生の教室に来れるわね」

 

 彼女そんなことまでしていたのか。三年生である私には知る由もないことだ。

 最近無性に疎外感を感じるのはなぜだろう……?

 

「別に~。ボクはそんなの気にしないし。だっていっくんしかボクには見えてないんだもん!」

「ぐぬぬ……少しは遠慮しなさいよ後輩……」

「生憎ボクの辞書にはそんな文字ありません先輩~」

 

 いがみ合っているように見えて何だか微笑ましくも見える光景だった。自然と私の顔には笑みが浮かんでいる。

 

「ははは……」

 

 

 ……いつ以来だろう。こんな気分は。

 高校に入って久しく味わっていなかったような気がする。

 

「そういえば先輩」

「ん?」

 

 珍しく犬飼君が私に話しかけてくる。

 

「顔の腫れ大分引いてきてるけど、もう大丈夫なの?」

「ああ。特に問題はないよ」

 

 ……驚いた。彼女が私のことを心配してくれているなんて。

 それと同時に気が付いた。プロになって以降、高校でこんなこと言ってきてくれた子はいなかったことを。

 

「へえ、颯先輩格闘技やってるんだ」

「ああ。一応プロでもある」

「そうなの? 凄いじゃん颯先輩!」

 

 凄いか……そんな風に言われたこともなかったな。いや、あるにはあるが上っ面で心が籠っていなかった。

 けどこの後輩、櫻井君の目はなぜかキラキラと輝いているように見えた。

 

「そんな凄くはないさ」

「いいや、あたしもそこは蓮に賛同するよ」

 

 もう何度言われた言葉だろう。私がプロだと知るとみんな口を揃えて同じ言葉を吐く。

 決して彼女達を責めているわけではないが。

 

「凄くなんて……」

「いやいや。だって自分の好きなことを頑張って、それでプロにまでなってって、普通じゃできないっしょ。あたしも一応夢みたいなのあるから、先輩の凄さはよく理解できるよ」

「うんうん! ボクもそう思う! しかもそんな人が同じ学校だったなんて!」

「……君達……」

 

 今まで格闘技のプロだと言って凄いと言ってきた人達は皆私の目を見ない。本心ではないからだろう。後ろめたさでしっかりと目を見れないのだ。

 ……だけどこの二人は違う。あろうことか一切目を逸らさない。むしろ尊敬の眼差しに近いものすら感じ取れる。ここまでいくと馬鹿正直にも思えてくるくらいだ。

 

 

 だけど、嬉しかった……。

 一ノ瀬君以外にも、私を肯定してくれる人がいたことが。

 気が付かないだけで私は彼女達のことを気に入ってるのかもしれないな。

 

 なんせ高校生活で初めてなんだ、もっと仲良くなりたいと思えたのは。

 

「……考えてみれば不思議なものだな」

「何が?」

「本来なら私達はライバル関係のはず。けれどこんなに普通に仲良くしてるんだもの」

 

 私の言葉を受けて二人は顔を見合わせる。

 

「あたし達が?」

「仲良く?」

 

 そして考え込んだように互いを見回すと二人同時に口を開いた。

 

 

「「全然!」」

「ほらね」

 

 不思議だな、私達の中で一ノ瀬君に選ばれるのは一人しかいないというのに。なのになぜだろう、一緒にいてこんなに良い気分でいれるのは。

 それは一ノ瀬君と一緒にいる時とはまた違った感じの気分だ。同性だからこそのものというか。

 あの日、教室で大笑いした犬飼君の気持ちが少し分かったような気がした。

 

 この二人は私の恋敵ライバルではあるが……もしかしたらなれるのかもしれない。

 お互いを深く理解し合える――友達という存在に。

閲覧ありがとうございます!


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