第18話 「返事は」
連続投稿2話目です!
「せ、先輩……?」
そんな、聞き間違い……じゃないよね? いや、そんなことあるわけ……! でも今確かに聞こえた。一体どういうことなの!?
頭の中でいくら整理しても全く追いつかない。
「え、あの、せん――」
「答えは言わないでいい」
その返答は僕を黙らせるには十分なものだった。答えも何も、まず状況が呑み込めないんですけど……。これってまさか、いや間違いない。こ、告白……というものなんじゃ?
「急ですまなかった。その、私はいつでもいい。君がしっかり考えて、後悔しない答えを出したその時でいい。私の気持ちに返事をくれないだろうか? そして……それまではペットでいてくれないだろうか……?」
「……は、はい……」
勢いで返事しちゃったけど、未だに呑み込めないでいる。手も震えてきた。
これは夢……なわけはないよね……。実感がようやく沸いてきた。今、僕は人生で初めて……告白されたんだ……。
◇
「ただいま……」
「おかえりなさい。遅かったわね、ご飯は?」
「いいや……あんまりお腹空いてないから……」
お母さんの出迎えも適当に流し、僕は部屋へ向かう。頭の中はもう混乱だらけ。一向に収まる気配がない。それも無理はない、だって人生で初めてなんだから。
「何で僕なんかに……」
一体どうすればいいんだろう。先輩が嫌だというわけではない。むしろあんなに素敵な人はそうそういないと思う。
問題はそういうことじゃなくて、僕自身がどうしたらいいのか分からないということ。人の告白を受けるってどういうことなんだろう。僕が受けたら、つまり僕達はその……恋人同士ということになるんだ……。
でもそんなの簡単に受けていいことじゃない。僕なんかが先輩ほどの人の相手に釣り合うわけないし……。そもそもどうしたらいいのか、何がどうなるのかすら僕には全く分からないんだ。
それと先輩は何故僕に考える時間をくれたのだろう。こういうものってすぐにでも返事を聞きたいものじゃないのかな。少なくとも僕はそう思ってた。僕が自分から言ったならともかく。
それにもしこの告白を受けたら僕と犬飼さんの関係はどうなるんだろう? 完全に終わってしまうのかな? うん、そんな都合のいい関係なんてないし、そもそも失礼だよね。
ということは僕が先輩の告白を受けたら、犬飼さんとはもう……。
いずれにしても答えは急いだ方がいいんだろうけど……。
「う~ん、どうしたら……」
「あのさ、悩むなら自分の部屋でやってくれる?」
「うわあ!!」
気が付けば目の前にはお姉ちゃんがいた。お風呂上りなのか、保湿液を塗っている。どうやらいつの間にか僕はお姉ちゃんの部屋に来てしまっていたらしい。
僕の部屋はお姉ちゃんの部屋の扉を左へ曲がった所にある。そこを僕は曲がらず真っすぐに進んでいたみたい。自分でも気が付いていなかった。
「で、一体何があったのよ?」
「いや……」
「いやって、あんな様子じゃ心配になるでしょうが」
そんなに悩んでるように見えたかな? もしそうだとしたら思っているよりも重症なのかも。お姉ちゃんは不審がっているのか、さらに問い詰める。
「もしかしてまた何かあった感じ?」
「うん……」
「で、何があったのよ? 話してみなさい」
「って言われましても……」
お姉ちゃんならこういう時一番役に立ってくれそうではある。反対にからかってきそうでもあるけど……。
けれど僕が言い出せないのはそういうことではなくて、僕自身の気持ちの整理が付いてないから話す気になれないというのが大きい。
はっきりできずにいる僕にお姉ちゃんは言った。
「たった一人の弟が悩んでるのを見てられないのよ」
「お姉ちゃん……その……」
僕は今日の出来事を全て話した。それを聞いている間のお姉ちゃんはいたって真剣で、いつもとは違う感じがした。真摯に向き合ってくれているみたい。
「――っていうわけでして……」
「そうか、ついに一和も告白されたんだ」
お姉ちゃんもやっぱり信じられないといった様子だ。自分でも信じられないんだもの、当然の反応だよね。
するとお姉ちゃんはふと携帯を手に取り――。
「さっそくSNSに投稿しないと」
「ちょっ! やめてよ!!」
「え~」
不服そうな顔を見せる。
「まあ冗談はさておき、よかったじゃない。女っ気のなかった我が弟にもついに彼女が――」
「いや、それが……」
僕はお姉ちゃんに問うた。先輩の言っていたことの意味はどういうことなのだろう?
「なるほど。その先輩の言っていたことが気になるのね」
「うん。何で自分から僕に時間をくれたんだろうって」
自分で言うのも何だけど、告白されたことがない僕なら恋人になることの意味を分からなくても仕方ない。同時に断ることでどうなるかも。これはどうしようもないことだとお姉ちゃんは割り切った。
でも何でわざわざ僕に考える時間を?
「う〜ん。多分だけど、その先輩はあんたが簡単に返事を決めれないことも見抜いてたのかもね」
「そうなのかな? 確かにこういう経験――」
「いや、そうじゃなくて」
そうじゃないって、一体どういうことだろう?
「それはどういう?」
「もう一人いるんでしょ? あんたのご主人様とやらが」
「……!!」
そうか、先輩は分かってたんだ。僕が犬飼さんのことを考えてしまうのを。それを見越して僕に考える時間をくれたんだ。
先輩……!
「僕はどうしたら……」
「ま、そればっかりはあんたが自分で答えを決めるしかないわね」
「……うん」
僕はこの選択から逃げられない。お姉ちゃんにも言われたっけ。僕には向き合う義務があるって。
多分数日では答えは決められないと思う。そもそも告白なんて初めてだし、そんなにはっきり物事を決められる性格でもない。情けないのも失礼なのも分かってるけど、自信もないんだ。
でも、絶対に答えは出す。それだけは曲げない。
「でもまあ、もしかしたらもう一人の子もあんたに告ってきたりしてね」
「いや、そんなことあるわけないよ!」
「まあないとは言い切れないんじゃない? 多分あんた今モテ期でしょ」
モテ期なんて僕には一生縁がないと思っていた。今だってそんなことあるわけないと思っている。
先輩みたいな綺麗な人から告白されたのだって奇跡に近いんだ、まさか犬飼さんまで僕に告白してきたりなんて……。そりゃあ、されたら嬉しいのは確かだけど。
「まさか、そんなことあるわけないよ」
「はあ……何であたしの弟なのにこうもヘタレなのかなあ~……」
お姉ちゃんは頭を抱え大きく溜息をつく。
僕が小心者なのは否定できないけど、それ以上にお姉ちゃんが凄すぎるだけだよ……。お姉ちゃんが今まで付き合った人の数は同世代の人達よりも多いと思う。
「じゃあ僕お風呂入ってくるね」
「はいよ。あ、何なら記念に一緒に入ってあげようか?」
「い、いいよ! もうそんな子供じゃないよ!」
楽しそうな笑みで僕を見る。もう、すぐからかってくるんだから……! まあ、これが僕達姉弟のいつもの光景でもあるんだけど。
「ちぇ~、せっかくあんたがどれだけ成長したか確かめようと思ったのに」
「もう……!」
「昔はよく『お姉ちゃんと一緒に入る~!』なんて言ってきたのにねえ」
「や、やめてよ!」
でも何だかんだお姉ちゃんには感謝している。僕一人では今日のこともどうしようもできなかったから。
それにしても……。
「……まさかね」
犬飼さんまで僕に告白……いや、やっぱりありえないよ。一瞬考えてしまったけど、そんなことありえない。僕なんかじゃあ。
そう、奇跡は二回も起こらないよ……。
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好きになる理由より好きになった後の方が大事、これはある意味で本作のメインテーマでもあります。
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