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第19話 「傍にいる」

今回も話が大きく動きます。

 日曜日の優雅な朝、僕はホットココアを片手にテレビを観ている。これが一週間で一番好きな時間。なんせ日曜日の朝は仮面ドライバーとハイパー戦隊の二連続。朝ご飯を済ませ暖かくなってきた時間に美味しいココアを飲みながらヒーローものを観るのが僕にとってこの上ない楽しみなんだ。

 

 けど、さすがに今日は楽しみきれない。なんせ昨日あんなことがあったんだ。テレビに集中していても頭の中では昨日の先輩の言葉が離れない。

 

「おはよ~……」

「おはようお姉ちゃん」

 

 長い髪がボサボサになったお姉ちゃんがリビングに姿を現す。こんな時間まで寝てるなんて、また夜更かししてたんだなさては。 

 

「父さん達は?」

「買い物だって」

 

 時刻は九時二十五分。仮面ドライバーモジオウが終わりもうすぐ騎士竜戦隊リュウケンジャーが始まる――という時に僕の携帯に通知が来た。誰だろう?

 

◇

 

「はあ、はあ……!」

 

 お昼時、僕は急いで集合場所へ向かっている。何故かというと今朝メッセージが届いたから。

 

『急にごめん。今日って空いてたりする?』

 

 そう、相手は犬飼さん。いつもと違う感じがするのは気のせいかな?とにかく、お呼びがかかったので待ち合わせ場所である新百合ヶ丘駅に急いでいる。

 

「はあ、はあ……間に合ったかな……?」

 

 時計を見ると集合時間を少し過ぎてしまっていた。困った、早く行かないと!

 

「あっ」

「おそ~い!」

「ご、ごめんなさい!」

 

 犬飼さんを見つけすぐに頭を下げ謝る。ほんの数分だけど遅れてしまったんだ。そんな僕に犬飼さんは問いかけてくる。

 

「何か弁明は?」

「その……何もないです。全部僕が悪いので……」

「よし、もういいよ♪」

 

 ちょっと驚きだった。小言くらいは覚悟していたのだけど……。意外な反応に戸惑う僕を見て、犬飼さんが僕の頭に手を乗せてくる。

 

「えっと……」

「うん、ぜ~んぜん怒ってないよ」

「でも、僕――」

「そのくらいで怒ったりしないって。それに言い訳しないことはいいことだし! じゃあ行こっ!」

 

 そう言って僕の手を掴み進み始める。柔らかい手の感触が僕の手を包んでいることに照れながら、僕達は足を動かしていった。そうして僕を連れて行ったのは洋服店やアクセサリーショップ、カフェ等だった。まる半日遊んで確かに楽しかった。

 

 ……けど、それと同時にどこか違和感も感じた。いつもと犬飼さんの様子がちょっと違っていたんだ。

 

 例えば中学生くらいのグループが歩いているのを見ると、じっとその子達を見ていた。表情は分からなかったけど、明らかに様子がおかしい。他にも頻繁に携帯をチェックしてはため息をついたり……。上手く言えないけど、どこか悲しさを含んでいるような?

 

「美味しい?」

「はい、美味しいです」

「そう、なら良かった」

 

 おすすめということで連れてきてもらったカフェでココアを飲んでいる僕に語り掛ける。やっぱり変だ……。いつもならもっと反応が大きいはず。それに気のせいか考え事をしているようにも見える。もしかして何か悩みとかあるのかな?

 

 そう思っても聞き出すこともできず時間は流れ、いつの間にかすっかり日は落ちていた。僕達は駅のベンチで電車を待っている。

 

「あ~寒……」

「ですね」

 

 手に息を当て温めていた。その最中も目はどこか暗い。やっぱり何かあったんだ……。

 

「今日はありがとね、わんこ。急に誘っちゃってごめん」

「いえ、僕も楽しかったです」

「ありがと」

 

 気になったからか、何とか協力したいからか、僕は自分でも無意識に聞いていた。人のプライベートに関わるのはあまりよくないとは分かっているんだけど、見過ごせないんだ。

 だって、こんな悲しそうな犬飼さんを僕は見たくないから。

 

「何かあったんですか……?」

 

 それを聞いた瞬間、図星を突かれたように表情が変わった。一瞬はっとしたような顔をし、すぐに落ち込んだような表情になる。この瞬間確信した。間違いなく何かあったんだ。

 

「……何でそう思ったの?」

「その、何だか悲しそうな表情を見せてたんで……その、気に障ったらごめんなさい!」

 

 僕はそう言ったけど、一切責めることもしなかった。むしろ小さなため息をつき、ちょっとだけ微笑んだんだ。

  

「バレちゃったか。さすがあたしのペットだね……」

「その……見ないふりできなくて……」

 

 そこから数分は言葉を発さなかった。耳に入るのは電車の音とアナウンス、それと他の人達の話し声。そうして何分くらい経ったかな。

 犬飼さんはそっと口を開いた。

 

「……クラスの友達とちょっと喧嘩しちゃってね」

「そう……だったんですね……」

 

 それでどこか元気がなかったんだ。犬飼さんは僕と違ってお友達も多いだろう。喧嘩なんかしたら当然落ち込むだろうな。

 僕にはそういう経験ないから……何も声をかけてあげられない……。

 

「それであたしが絡んでるグループで、あたし一人みたいになっちゃってさ。ホント、どうしたらいいんだろうね……」

 

 信じられなかった。まさか孤立していたなんて。犬飼さんは社交性のある人だ、クラスでも仲の良い人達がいるに決まってる。その人達が孤立していくなんて、僕には想像もできない辛さだよね……。

 

「あ~あ、熱くなりすぎるの直さないとって思ってたのになあ……」

 

 悲しさを感じさせる発言にただ聞いていることしかできなかった。そんな自分の無力さが悔しい。何もできない僕自身に腹が立っていた。

 

「ごめんね……」

「え?」

 

 声が震えている。ばっと視線を犬飼さんへ向けると目には涙が浮かんでいた。もしかして泣いている……!?

 

「結局、あたしは気晴らしでわんこを頼っただけなんだ。ごめん、わんこ……」

「そんな、そんなの謝るようなことじゃないですよ……」

 

 見ているのも聞いているのも辛くなる。それと同時に思い知ったような気分になった。今分かったものがある。それは今まで僕が知らなかった犬飼さんの弱さ。

 いつもの様子からは想像できないけれど、きっと本当は凄く繊細な人なんだ。それを感じさせない明るさと優しさがあるから気が付かなかったけど……。

 

 僕は今の犬飼さんに何もしてあげられないのかな。いや、ただ見ているだけなんて嫌だ。こんなに辛そうなのに、何もできないなんて嫌だ!

 僕は……ペットなんだ!! 僕だからなおさら力になってあげなきゃいけないんだ!!

 

「その、僕じゃ頼りないのは分かってます。僕にはそれだけの力も能力もないのも分かってます。けど――」

 

 自分にできること、それはこれだけしかない。大して役に立たないかもしれない。でも、何もしないよりかは……!!

 

「僕は、絶対に離れたりしませんから……傍にいますから……いつまでも、ペットですから!」

「わんこ……」

 

 気が付くと僕は犬飼さんの手を強く握っていた。いきなりで驚いたのか、犬飼さんは目を見開いている。緊張のせいか、プルプルと震えている。何ともかっこ悪い姿だろう。

 いや、かっこ悪くったていい。そんなものより僕自身の率直な思いを伝える方が大事なんだ。かっこ悪くったって気にするもんか!

 

「……ありがと……」

 

 涙ぐんだ状態で頬を赤くしながらふっと微笑んだ。その笑顔は凄く美しく、涙が宝石のようにも思えた。

 

 

 

◇

 

「それじゃあ、仲直りできたんですか?」

「うん、何とかね」

 

 翌日の放課後、下校しながら聞いた話によると相手側も少し短気すぎたと思っていたようで今日一番で謝罪してきたみたい。お互いに謝ったので仲直りできたとのこと。

 何にせよ仲直りできたのなら本当によかった。僕も自分のことのように嬉しい。

 

「じゃあ、あたしはここで」

「はい」

 

 しばらくして僕達は駅に着いた。いつものように僕達はここでお別れ――――のはずだった。

 

「わんこ……」

「何ですか?」

 

 どうしたんだろう? 顔が若干赤みがかっているように見える。もしかして他にも何か悩みがあるのかな?

 何があったのか分からず戸惑っている僕に対して犬飼さんは口を開く。


 

  

「ありがとう!!」

「えっ? な、何がですか?」

 

 いきなりありがとうと言われていっそう困惑している。そんな感謝されることなんてした覚えがないのに。そんな僕にさらに言葉をかける。

 

「傍にいてくれるって言ってくれた時、嬉しかった……! 手を握ってくれた時、嬉しかった……!」

 

 感情がこもり震える声で僕に言う。これもまた新しい一面なのかもしれない。僕の言葉がそんなに響いていたんなんて、僕自身思わなかった。

 むしろ嬉しいのは僕の方なんだ。少しでも役に立てたなら、こんなに嬉しいことはない。

 そんなことを考えていたその時、犬飼さんは僕に近づき顔の位置が合うようにかがむ。

 

 そして、小さく呟いた。

 

 

「好きだよ、わんこ」

 

 

 そこからの出来事はほんの一瞬で、でも一生忘れられない出来事になったんだ。

 

「……え?」

 

 僕の頬に柔らかいものが当たる。

 そう、それは紛れもなく唇だった。間違いない、これは……いわゆる……キス……!

 

「えっ、えっ!?」

 

 時間にしてみればほんの一、二秒くらいだったと思う。けど、その一瞬の時間も僕には永遠にも思える時間だった。それは、僕が人生で初めて……キスされた瞬間なんだ……。

 

「ご褒美っ!」

 

 笑顔でそう言い残し自宅の方へ駆けていった。その姿を僕はただ見ているだけしかできなくて……。だって体が動けないんだもの。

 

「……本当に……」

 

 そこから数十分間、僕は茫然と立ち尽くしていた。状況を受け入れるのに時間がかかってしまったからだ。そんなまさか……ありえないと思っていたことが本当に……。

 でも、僕はどうしたらいいんだろう? 犬飼さんと先輩、どちらの想いに応えればいいんだろう……。

 

 そこからようやく動き出したのはもう日も落ちてきたころだった。

閲覧ありがとうございます!


はいそうです、怒涛の二連発です!

まあ前々回の展開からしてこうならないわけにはいかないですよね。

三人の今後にこうご期待です!


ちなみに劇中のヒーローがモジオウなのは執筆時期の都合です。


感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!

次回もよろしくお願いします!

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