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第101話 「大晦日その2」

 今日は一年最後の日、大晦日。今年も色んなことがあったなあ。久しぶりにパパとママに会えたし修学旅行にも行ったし……。思い出に浸りながら作った年越しそばを口にする。

 暖房をガンガンにし年越しそばを食べながらあたしはテレビを見ていた。例年なら笑ってはか赤白をテキトーにザッピングしてるんだけど、今年は一味違う。

 今年の大晦日、なんとあたしは格闘技を観ていた。昔から大晦日にやってる格闘技は観る機会もつもりもなかったからちゃんと観るのは今日が初めて。

 

「ヤバ……」

 

 格闘技ってこんなに激しいものだったんだ。いや、何となく理解はしてたつもりだったけどあたしはしっかりと向き合ったことがなかった。だからなおのこと衝撃すぎる。

 先輩、こんな世界に身を置いてたんだ……。

 

 そう、なぜあたしが格闘技を観てるかというと先輩が試合をするから。本人は放送されるか分からないと言ってたけど。

 

 多分時間的にもう会場では試合は終わってるはず。だけど一切ネットの情報は入れずに見ている。だってそれじゃあ意味ないし。

 するとテレビ画面の右端に先輩の名前がNEXTの文字とともに映し出された。つまり放送されるってことだよね?

 

「いよいよかあ」

 

 こっちまでドキドキしてきちゃった。バイブスが上がってくのがめっちゃ伝わってくる。

 そして画面が暗くなり選手紹介のビデオが流れる。

 

『女子格闘技、ニューヒロインは……現役JK!』

 

 制服姿の先輩が映し出される。これ、うちの学校じゃん。いつの間にこんなの撮ってたんだろう?

 

『颯るかです。小学校二年から格闘技をやってます』

『格闘プリンセス、颯るか!』

 

 ……超カッコよくね!? 先輩がいつも以上にカッコよく見える。

 思わずそばを口に入れる手が止まってしまっていた。それだけ魅入られていた。

 

『小学生の頃から格闘技を始め、高校生でプロの世界へ』

『体育祭も……学園祭も休みましたね。試合があったんで』

 

 そういえば去年の学園祭と体育祭、参加しなかったんだっけ。

 

『闘いに魅せられた少女。日本のツヨカワプリンセス!』

『――格闘技は好きですか?』

『大好きです!』

 

 楽しそうな表情を見せる。やっぱり骨の髄まで格闘技大好きなんだなあ、この人は。

 すると音楽が切り替わり相手選手の紹介へ。

 

『北の大地より出でし、本物! 氷の女帝、ワレンティン・サフチェンコ!』

 

 相手はロシア人みたい。見た感じめっちゃ強そうなんですけど……。

 

『三十五戦二十一KO、海外で四つのベルトを獲得。振り下ろされるパウンドはまさに氷の拳!』

 

 過去の試合映像が流される。物凄い威力のありそうなパンチが相手を捉えていた。先輩、こんなヤバい人と戦うんだ……。

 

『相手が高校生だろうが関係ない。試合をする以上全力で潰すだけよ。私の実力を日本のファンに見せられるのが楽しみだわ』

 

 あたしが戦うわけじゃないのに思わず唾を飲み込む。

 

『大チャンスなんで……絶対勝ちたいです』

『勇気で突き破るか、プリンセス! 冷酷に打ち砕くか、氷の女帝! 幕を開ける、格闘おとぎ話! 颯るかvsワレンティン・サフチェンコ!』

 

 紹介ビデオが終わり試合会場へと画面が切り替わる。

 

『青コーナー百六十二センチ、五十二.零五キロ。ワレンティィィィィィン・サフウウウチェンコオオオ!!』

『冷酷な瞳がプリンセスを捉えます、ワレンティン・サフチェンコ!』

『赤コーナー百六十センチ、五十二.零一キロ。颯ええるうううかああ!!』

『日本の格闘プリンセス、颯るか!』

 

 中央に集められた後、それぞれのコーナーに戻る。ついに試合が始まるんだ……!

 ゴング? の音が鳴らされ二人が軽く拳を合わせる。

 

『さあ試合開始です!』

 

 そのまましばらくは軽いパンチやキックを互いに出し合っていた。牽制しあってるのかな?

 すると先輩がすっとパンチを出しつつ組み付きに行った。あまりにもスムーズな流れにあたしの目は全く追いつけていない。

 

『あっと組み付いた!』

『足をスイッチしてパンチを出しつつ組み付きにいきましたね』

 

 解説の人の言ってることはよく分からないけど、とにかく先輩が何かを仕掛けたことは分かった。

 だけどそのまま動きがなく――いや動けない、という方が正しいのかな? すぐに審判の人がストップをかけて最初の位置に戻された。

 そしてさっきと同じような状態になる。

 

 

 試合が動いたのはこの直後。

 

『飛び込んで――膝あああ!!』

「きゃっ……!!」

『颯危ない! 女帝の膝が襲う!』

『モロに喰らっちゃいましたね』

 

 先輩が相手の膝を食らいダウンしちゃった。ダウンしたのはほんの一瞬だったからすぐに組み付きにいき、そのままリングの外へ二人共落下してしまう。

 すぐに審判の人が試合を止める。

 

『リングから外に出てしまったため一度中断されます』

「ふうう……」

 

 気づかないうちに息を止めてたみたい。それだけ興奮してたんだ。

 画面に映る先輩は眉の辺りから出血してた。

 

「先輩……!」

『あっと右の……眉ですかね?』

『切れてますね。あの膝の時でしょう』

 

 想像しただけでビビるくらい痛そうな傷だった。けど先輩の顔には一切弱気なところはない。むしろ何が何でも相手を倒すというような気迫が画面越しでも伝わってくる。

 そこにこの人の本当の強さを見たような気がした。

 

 試合が再開し、今度は相手のほうが組み付きにいく。

 すると後ろに回り込まれその状態のままコツコツとパンチをもらっている。そして片膝をついてしまった。

 

「先輩……」

 

 ――だけど、先輩はそこからぐるんと前転した。素人のあたしでもすぐに分かった。これをするためにあえて膝をついたんだと。

 

『ああっと回った! 上になった!』

 

 前転したことによりいつの間にか位置が入れ替わって先輩が上になっていた。あまりに唐突でまったく追いついていけなかったけど、とにかく先輩がチャンスなのは間違いないよね!

 そこから一、二発ほど拳を見舞う。そしてさらに横方向にぐるりと回る。

 

『パウンドおおお!! さあバックを取りました!』

『そう、これが彼女の動きなんですよ!』

『さあチョークチョークチョーク!』

『は、入りましたね!』

 

 あっという間に後ろをとって首を腕で締めているっぽい。これはイケるんじゃ……!

 

「いけ、いけっ!」

 

 気が付けば文字通り手に汗握るほど興奮していた。この人にはそれだけの力がある。人を魅了するだけの力が。

 奇しくもそれは、あたしが目指しているものと似ているようにも思えた。

 

『ストオオップ!!』

 

 審判が止めに入る。先輩の勝ちってことみたい!

 

『決まったあああ!!』

 

 今まで見たことないくらい先輩は興奮状態になっていた。リングの角に登り大声をあげる。

 

『うああああ!』

『いや~中阪さん。大逆転ですね!』

『そうですねえ。よくあそこから勝利を呼び寄せたと思いますね!』

 

 

「……かっこいい」

 

 傷つきながらも戦うその姿はあたしの目に焼き付いてた。そして離れることもないと思う。普段は色々言っても何だかんだであたしは先輩に憧れてる。

 ……きっと、人としてはあたしの何倍も凄い人なんだと思う。

 

 嬉しさと共にどこか悔しさも感じながらあたしは一人のびきったそばを口にしていた。

閲覧ありがとうございます。

前回から投稿が空いてしまい申し訳ございません。


今回はずっと描きたかった格闘技の話を描いてみました。ええ、趣味前回です。

劇中の選手紹介のナレーションはどうか立〇文彦さんの声で脳内再生して頂きたいです笑


さて、今回の話を投稿したことで言えるのですが、実は選手としての彼女にはモデルが二人います。

一人は総合格闘技のパイオニア、プリンスのニックネームで有名な宇野薫選手(寝技のテクニックやキャッチコピーにその辺りの影響が強く出ています)。

もう一人は寝技天狗と呼ばれる佐々木憂流迦選手です(劇中で見せたノーモーションからのパンチや名前にかなり影響が出ています)。

多分殆どの人はなんのこっちゃだと思うのでこの辺にしておきます。笑


思ったこと、要望、質問等があれば感想いただけるとすごくありがたいです。

感想、評価、レビュー、ブクマ大歓迎です!

次回もよろしくお願いします!

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