8 買い出しと出会い
出会いです。
「先生とこうして買い物に出るのは凄く楽しいです」
「うー」
嬉しそうにそう言うミモザとミーヤ。本日の食材の買い出しは俺達三人だ。いつもは護衛に男の子を一人つけてもしもの時も大丈夫なようにフォローしているが、今日はたまたま俺が出掛けたのだ。
「あら、セラウス公爵様どうも」
「ああ、こんにちは」
「これはこれは公爵様。ご機嫌麗しゅう」
「気遣いは無用だよ。今はただの孤児院の教師だからね」
が、失敗だったかもしれない。領民に顔を知られているので行く先々で畏まられる。やはり当主の座を譲ってもあまり出掛けないに越したことはないのだろう。
「先生やっぱり凄いですね!有名人です!」
「ま、これでも公爵だったからね」
「うーすごいー」
「ああ。ありがとうミーヤ」
そうして頭を撫でると不意に路地裏からの僅かな音に思わず反応する。ミーヤも気付いたのか耳をぴくぴくさせるので俺は首を傾げるミモザに視線を向けて言った。
「ミモザ、ミーヤとこの場で待っていてくれ。すぐに戻る」
一気に身体を動かして路地裏へと入っていく。ショートカットに壁を越えると視界にはフードを被った女の子に襲い掛かる数人の男達の姿が。俺はその現場に着地すると男達は驚いたように聞いてきた。
「な、何者だテメェ!」
「ふむ。我が領地でまだこんな不届きな輩がいるとはね」
主だった者は粛清したはずなので俺は一応聞いてみた。
「路地裏での女の子への乱暴。私のこの認識に間違いはないね?」
「ふ、ふざけるな!だってその女は・・・」
「なんだと言うんだい?」
そこで視線を向けてから破けたフードから見えた耳で納得する。
「なるほど。亜人だね」
「そうだ!だから俺達がその女を殺すんだよ!」
「そして君たちはよそ者かな。私の領地で不等な差別をする馬鹿がいるとは思わなかったよ」
一応確認してから俺は忠告する。
「黙ってこの地から去れば不問にしよう。従わないとそれなりの罰を追ってもらおう」
「なめんな!」
そう言いながら剣を抜く男達に後ろで怯えるその娘に俺は優しく言った。
「大丈夫。目を瞑ってなさい」
そうして襲い掛かる男達を一瞬で鎮圧する呆気ない幕引きに少しだけ興ざめしていると、その子は「あの・・・」とフードを取って話しかけてきた。
「助けてくれてありがとうございました」
その言葉に俺は一瞬反応が遅れてしまう。フードの下は綺麗な長い銀髪に犬人族の耳そして整った顔立ちは栄養不足か真っ青だがそれでも言ってしまえば美少女だった。
「ああ。構わないよ。にしてもこんなところに犬人族がいるとはね。他所から来たの?」
「は、はい・・・ここは亜人にも比較的優しいと聞きまして」
「そうだね。ただその様子だとまともな食事もしてないね?」
「そ、そんなことは・・・」
と、そこできゅー、というお腹の鳴る音がする。それに恥ずかしそうに顔を真っ赤にする彼女に俺はとりあえず先程買ったパンを渡すと恐縮しながらもパンを食べる。後で買い直そうと思いながら俺は聞いた。
「ところで君これから行く宛はあるの?」
「い、いえ・・・実はまだ」
「そうか。ならしばらく家に来ない?孤児院なんだけど亜人の子供もいるし生活が安定するまでは面倒見るよ」
「い、いいんですか?」
「ああ。自分の領地でのことだしね。君名前は?」
「・・・シーリスです」
これが俺とシーリスの出会いだった。この時はまだ彼女のことを特別意識はしていなかったので一目惚れとかではなかった。少なくとも俺は。