1 公開の密婚
R15シーンあり。
ブラバン公との結婚は、急がねばならない。
フランクも、焦っていた。状況は悪化している。ヤコバの支配を望まぬものは、はっきりと増えている。反旗を挙げそうなものが、次々に現れている。エノーとホラントの間にあるブラバンは、なんとしても身内にしておかねばならない。反抗心をくじくためには、さらなる戦を避けるためには、確たる基盤が不可欠だ。ヤコバ姫には後ろ盾が必要だ。寡婦のままではいられない。有力な配偶者は絶対に不可欠だ。
叔父ヨハンは助力どころか明らかな敵となった。ドルドレヒトが姫を承認しないのは、そこに「ヨハン」がいたからなのだ。
ドルドレヒトではヨハンこそが「正当なホラント伯」だった。その根拠は皇帝ジギスムントにあった。ウィレム伯と親しかった神聖ローマ皇帝は、その娘ヤコバではなく弟のヨハンについてしまった。女子相続を否定するサリカ法に従うのなら、前伯の弟でありれっきとした男性であるヨハンこそが、正当なる継承者。だがヨハンは選定司教だ。司教では伯位に相応しくない。ヨハンはほとんど迷わずに、司教冠を投げ捨てた。皇帝の姪を嫁にも貰い、着々と力をつけてきている。そして、法王マルチネスは逡巡している。「戦を避けるものとなる」と一度は出した特赦だが、本当にそうなのか? 法王は迷いだしている。
法王特赦が撤回されたら、ブラバン公とは結婚できない。ブラバンと組めなければ、ホラントはさらに離れる。ヨハンにつくものが増えれば、ヤコバ姫は窮地に陥る。あんな男に添わせたくない。けれどほかに道はない。結婚が白紙になれば、ブラバンまでが敵に回る。ブラバンのものたちも、ヨハンの側につきだしている。姫は孤立してしまう。そして伯位をとられてしまう。
「婚約」したときブラバン公は十二だったが、この年の一月には十五歳になっている。もう「完全に」できる年だ。だからまず「コンスマキウム」をやってしまおう。結局そういう話になった。庶民ならばままあることだ。教会で式を挙げる前に、秘密に結婚してしまう。既成事実を作ったあとで、正式な式は後から挙げる。あるいは挙げることにする。
日取りは三月十日と決まり、立会人のひとりとしてフランクも指名された。ヤコバ姫は庶民ではなく、この結婚は契約だ。この秘密の結婚は、証人が絶対に必要だ。
ここにきて初めて知ったことだが、トゥーレーヌ公との「コンスマキウム」は済んでない。共にベッドに入っただけで、なすべきことがされてない。そんな噂がたっていた。そんなことにならないためにも証人は必要だ。この理屈は納得できる。結婚が不可避なことも、頭ではわかってる。だがどうして「おれ」なんだ。そこだけが、どうしても納得できない。けれど逃げるわけにはいかない。ヤコバ姫の命令だ。おれの主君の命令だ。
ヤコバ姫の側の側近、ブラバン公の側の側近。高位の貴族が居並ぶ端に、身をすくめて立たされている。逃げ出したいのを必死で堪え、感情を押し殺している。
厳かに扉が開かれ、新郎新婦が姿を現す。十五歳の新郎は、「男」にはまるで見えない。薄もの一枚のみをまとったからだはか細く華奢で、子どものからだとしか見えない。整った容貌に生気は見えず、力がまるで感じられない。こいつにほんとに「できる」のか? 内心そう思ってしまう。対する新婦は痛々しくて、とても見ていられない。いつもの姫とはまるで違う。はっきりと震えてる。足取りすらもいつもと違う。そしてとても儚く見える。純白の寝衣を纏った、十七歳の姫の肢体。薄絹を押し上げている、形のいい乳房の突起。だめだ。とても見ていられない。
「眼を逸らすな、ちゃんと見ていろ」
隣の男が低くささやく。
「それが姫の命令だ」
これがほんとに姫の御意志か? おれにこれを見せたいのか? 自分が蹂躙されるところを、あるいは楽しんでいるところを? フランクには信じられない。けれど姫の御指名なのだ。フランク・ファン・ボールセレも立ち会えと、姫がはっきりおっしゃったのだ。それも皆のいる前で。
ふたりはもう寝具の中だ。さすがに覆いはかけているから、裸身は見えない。けれどからだの線は見える。寝具を上に押し上げている、新郎の背中がわかる。生気がなかった新郎は、はっきり勢いづいている。姫の手首を押さえつけ、すでに尻を動かしている。姫の顔はもちろん見えない。亜麻色の金髪が寝具に乱れ、華奢な指が細かく震える。一度は触れたあの指が、敷布の上でわなないている。逃れようとあがくように、敷布を握りしめている。そして声を押し殺してる。歯をきつく食い縛り、嫌悪を必死で抑えてる。そうとしか、思えない。
ブラバン公はフランクを見た。勝ち誇るように見て、そしてぐいと突きを入れた。かすかな呻きが漏れると同時に動きがどんどん早くなる。はっきりと悲鳴が漏れる。甘い声では絶対になく、苦痛の声だ。それでもイヤだとは言わない。止めろとは姫は言わない。これは姫が望んだことで、だから姫は耐えている。そしておれも耐えている。これがほんとに姫の望みか? それともこれは何かの「罰」か?
延々と続いた苦行は、獣のごとき声で終わった。高貴なるブラバン公は下品きわまりなく咆哮し、姫の上に果てて崩れた。
「めでたく完了なされました」
係のものがおごそかに宣言し、廷臣たちは優雅に辞した。
そしてそのひと月後、宮廷内の礼拝堂での挙式があった。
フランクは、列席してない。しなくても済んだことを、心の底から感謝している。




