表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/55

ノーラの想い

「親愛なるフランク兄さま」


 そこまで書いて手が止まる。

 姫さまは、待ってらした。あたしは絶対そうだと思う。「夫」であるひとのことは、いずれフランス王にもなるひとは、お嫌いじゃないはずだ。だけどあれは「恋」じゃない。あたしだったら絶対イヤだ。ほかに想うひとがいるのに、ほかの男に抱かれるなんて。


 5歳のときから一緒に育てば兄妹と変わらない。仲良くお育ちだったからこそ、はっきり「違う」とお分かりだ。あの気持ちは「恋」じゃない。「恋」でなんか、ありえない。わからせてしまったのは、フランク兄さま。そこんとこ、兄さまはわかってる?

 

 コンスマキウムの儀がすんでから、つまり「ほんとに結婚」してから、おふたりはぎくしゃくしてる。「成立」はしたそうだけど、巧くは絶対いってない。素敵なものじゃなかったことは、あたしの眼にもはっきりわかる。姫はあれからあたしを避けてる。あからさまにじゃないけれど、ノーラの眼を避けてらっしゃる。フランクの妹の、ノーラのことを。  


 だから、やっちゃえば良かったのよ。


 あたしはまた思ってしまう。あの兄さまに、最後まではムリだろう。だけどせめてキスくらい、そして愛撫するくらい、兄さまだってできたはず。そしたら……


 だけどあたしもよくわからない。

 兄さまは、ほんとはどうなの? 堅物の兄さまは、浮気相手じゃ満足できない? 相手がフランス王太子妃でも、「愛人」じゃイヤ? それともほんとに好きじゃないの? 迷惑だと思ってるの? 伯妃さまのお耳に入れば、確かに無事じゃすまないだろう。もしかして、それが怖いの?

 

 トーナメントで優勝してから、兄さまは返事をくれない。何度も何度も匂わせたのに、一度も姿も見せてくれない。復活祭の祝祭だって、何度もあった鷹狩りだって、父さましか来なかった。兄さまがほんとにイヤなら、あたしが気をもむことじゃない。姫さまの気持ちだって、ほんとはどうかはわからない。姫さまに焦がれるひとは、ほんとに掃いて捨てるほどいる。姫が笑顔を向ける相手も、もちろん兄さまだけじゃない。いつもはきついあのお眼が、ふっと優しい色を浮かべる。あんな眼で見つめられると、誰だってドキっとしちゃう。自分だけって思っちゃう。俺こそがって思っちゃう。ヴィムさまは絶対そうだし、イェハンさまもそうだった。そしてウィルキンさまだって。

 だけど違うわ。姫さまのほんとうの一番は、フランク兄さま。そう思ってしまうのは、あたしのひいき目? 


 あたしのフランク兄さまは、美形とはとても言えない。だけどもてないわけじゃない。少なくともヤコバ姫は、憎からず思ってる。だからこそ、あの夜に会いに行った。そこまでは、間違いないの。だから、やっちゃえば良かったのよ。


 あたしはまた息をつく。そんなことはとても書けない。






  


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ