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第1話:契約騎士、帝都へ

馬車の車輪が石畳をゆっくりと叩く音が、一定のリズムで耳に響く。

窓の外へ目を向けると、高くそびえる白い城壁が見えてきた。

あれが帝国の首都――、帝都アステリアス!


俺がこれから十年間、契約騎士として仕える場所だ。

思っていた以上に大きい。


挿絵(By みてみん)


城壁は三重。

塔の配置も規則正しい。

正門へ向かう一本道には、旅人や商人を乗せた荷馬車が何十台も列を作っている。

外敵から守るには悪くない構造だ。


だが、もし内側から門を開かれれば話は変わる。

どんな堅牢な城でも、裏切りには弱い。

 ……まあ、それはどこの国でも同じか。


「そろそろ正門ですね」

向かいに座る近衛騎士が静かに声を掛けてきた。

名をエドガーという。

王命を受け、俺を帝都まで護送する役目らしい。

護送と言っても、囚人ではない。

契約騎士への正式な迎えだ。


「長旅、ご苦労でした」


「仕事だから」


挿絵(By みてみん)


 俺が答えると、エドガーは苦笑した。

「貴殿は噂通りですな」

「噂?」


「もっと荒々しい人物かと思っておりました」


「そう見えるか?」


「……ええ」


少し間が空く。


彼も言葉を選んでいるのだろう。


俺は肩をすくめた。

「この肌の色なのか?」

「失礼」


「構いません。慣れているからな」

慣れたくて慣れたわけではない。


ただ、傭兵として各国を渡り歩けば嫌でも覚える。

人は見慣れないものを警戒する。

それだけの話だ。


やがて馬車は巨大な正門の前で止まった。


門兵たちが一斉に敬礼する。

「王命による契約騎士、バラカ・ンコシ殿をご案内する!」


門兵隊長の声が響く。

鉄格子がゆっくりと持ち上がった。

重厚な音とともに、帝都アステリアスへの道が開かれる。


ガチャガチャ-!

馬車は再び動き出した。


..............................


帝都の中は活気に満ちていた。


市場では威勢のいい商人たちが声を張り上げ、職人たちは忙しそうに品物を運び、子どもたちが路地を駆け回っている。

人の数だけ生活がある。

どこの国も変わらない光景だ。


だが、一つだけ違うことがある。

俺を見る目だ。


「あれが……」

「聞いたの? 南方から来たという」

「黒い肌だぞ」

「本当に人間なのか?」


挿絵(By みてみん)


囁き声は小さい。

だが、聞こえないほどではない。

俺は窓から目を離す。


いちいち気にしていては仕事にならない。

そんな視線より、戦場で飛んでくる矢の方がよほど危険だ。


ガタガター!

馬車は市場を抜け、石造りの街並みへ入っていく。


建物は高くなり、人通りは減る。

代わりに、豪華な馬車が増えてきた。

貴族街か。


「ここから先は上級貴族の居住区になります」

エドガーが説明する。


「帝都でも最も格式の高い地区です」

「...なるほど」

「……少々、居心地は悪いかもしれません」

「どういう意味?」


 エドガーは苦笑する。

「彼らは伝統を重んじますから」


「それはお約束の仲の定番だな」

今更どうってことにも思えない程の、貴族ならではの常識だ。

そういう情報は生まれてきたばかりの赤子にでも教えろってな話だぜ。


「そして新しいものは好まないお方ばかりです」

「それも常識だ」


「異国の者に対するならば、なおさらですね」


その答えを聞き終える前に、外から笑い声が聞こえた。


「まあ、ご覧になって!」

「本当に黒いわ!」

「まるで物語に出てくる蛮族ですわね!」


挿絵(By みてみん)


馬車の横を、三人の若い貴族令嬢が歩いていた。

誰も隠そうともしない。

俺と目が合うと、一人は露骨に扇子で口元を隠し、小さく笑う。

もう一人は眉をひそめた。


「陛下も何をお考えなのかしら」

「契約騎士ですって」

「帝国には騎士が足りなくなったのかしら?」

三人は笑いながら去っていく。


俺は何も言わない。


 エドガーだけが居心地悪そうに咳払いをした。


「申し訳ありません」


「あんたが謝ることではない」


「ですが……」


「彼女たちは俺を知らない。それだけだ」

知らないものを恐れる人間は多い。

それは戦場でも、宮廷でも同じだ。

違うのは、向けられる武器だけ。


戦場では槍。

宮廷では言葉。

どちらも当たれば傷になる。


だからこそ、避けるべきものを見極めなければならない。

その時だった。

馬車の近くを、一人の男が横切る。


灰色の外套。

役人らしい服装。

だが歩き方が妙に静かだった。


一瞬だけ、男と目が合う。

男は何事もなかったように視線を逸らし、そのまま路地へ消えていく。


「……?」


「どうされました?」


「今の役人は、この馬車を担当している人ですか?」


エドガーは窓の外を見た。

「いえ?」


「そうなのか」


気のせい……ではない気がする。

戦場では、誰かの視線を感じることがある。

狙撃手。

斥候。

暗殺者。


理由は違っていても、背中に刺さるような視線だけは共通している。

今の男も、そんな目をしていた。

だが証拠はない。

今は心の片隅に留めておこう。


馬車はゆっくりと坂道を上り始める。

窓の向こうには、大皇城が見えた。

そのさらに手前には、巨大な屋敷がいくつも並んでいる。

帝国の権力者たちが暮らす場所だ。大皇城に近いこともあって、ここでは侯爵家と公爵家ばかりが済む貴族地区となっているようだ。


俺がこれから仕える主人も、このどこかにいる。

エドガーが静かに口を開いた。


「そろそろ、ご主人様についてお話ししておきましょう」

俺は彼へ視線を向けた。


「レティシア・フォン・エーベルハルト侯爵令嬢。」

その名を聞いた瞬間、御者台にいた兵士が小さく肩を震わせるのが見えた。

……どうやら、ただの貴族令嬢ではないことはその仕草を見て窺い知ることができた!

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