猟師
日本・広島 猟師組合職員 浅間朋正
猟師の仕事はな、外から見りゃ“山の番人”とか“人を巨獣から守る勇敢な仕事”なんて聞こえはいいが、実際はそんなカッコいいもんじゃねぇ。
基本は山菜採りか、小型の巨獣を狩るか、どっちかだ。
ガキどもは「巨獣と戦う」って言葉を聞くと、アニメの主人公みたいに剣を振り回してド派手に戦うのを想像する。
だが現実は全然違う。
俺たちが相手してる小型巨獣ってのは、でかい奴らに比べりゃ“弱い”というだけで、人間相手なら余裕で殺しに来る化け物だ。
罠を仕掛けておびき寄せ、背後から急所を狙う……そんな泥くさくて地味な作業の繰り返しだ。
正面から突っ込んで戦える奴なんざいない。
クマどころか、イノシシ1頭にだって人間は勝てねえのに、巨獣相手に素手で挑むなんて正気の沙汰じゃない。
だから猟師になるのは、大体どこにも行き場がねぇ奴か、施設育ちで小さい頃から訓練されてきた孤児が多い。
防衛戦力が充実した都市に住んでて、小さな会社でも就職できるようなやつはまずやらない。
割に合わねぇし、万が一が多すぎる。
うちの組合だって、年度の最初に50人いても、年末には半分いなくなってたりするんだ。
死んだり、怪我して仕事を続けられなかったり、心が折れたり理由は色々だが、とにかく定着しねぇ。
ただ、そうは言っても、人が住んでる地域に小型巨獣が入り込んだら誰かが止めなきゃならない。
一般の警察や自衛隊じゃ、数が多すぎて全部は相手しきれない。
だから半ば“消耗品”扱いでも、俺たち猟師が必要とされてる。
……まぁ、こんな仕事事情があっても、まさか“人間の側が強くなる”なんて話が出てくる時代が来るとは思わなかったがな。
ガクラ細胞で強化された連中が一般的に知れ渡るようになったのは、名古屋での戦いからしばらく経った頃だ。
最初は半信半疑だったが、現場に出てるとすぐに分かる。
奴らは“人間の限界”ってやつを、軽々と踏み越えていた。
まず、巨獣との交戦スタイルがまるで違う。
銃は貴重品だし、弾も高い。
だから普通の猟師は、なるべく巨獣に近づかず、罠で動きを止めてから急所を突く。
生身でやりあおうなんて考えたら、それだけで職員会議で吊るされるレベルだ。
だが、ガクラ細胞持ちの連中は違った。
持っていく武器はほぼ刃物。
ナタ、鉈、剣鉈、時には工事現場から持ってきた鉄パイプまで。
とにかく接近戦上等、巨獣と正面でぶつかるのが当たり前になっていた。
もちろん罠は使うし、巨大工具を持ち込んだり、標的の行動パターンも調べる。
だが、その上で“正面突破”を平然と選択肢に入れるようになった。
前なら絶対に死ぬだけの戦い方だ。
それを連中は、当然のように成功させて帰ってくる。
その中に、若い女の子が1人いた。
10代で、細腕で、普通なら猟師なんて絶対向いてない。
最初は断ったさ。
ここは人が死ぬ仕事で、趣味や興味本位で来る場所じゃねぇ。
……だが数週間後、そいつは“巨獣の首”を肩に担いで、組合のドアを蹴破る勢いで入ってきた。
血のにおいをまとって、顔は泥と返り血だらけ。
にもかかわらず、目だけが妙に澄んでいた。
笑顔で「これで資格、ありますよね?」って言われた時は、正直、背筋が凍った。
あれは才能どうこうじゃなく、あの細胞に身体が完全に馴染んでる奴の動きだ。
もはや普通の人間の延長線上にはいない。
そういう奴は他にもいた。
中には“猟師で生計を立てるために戦う”んじゃなく、“戦うために生きている”って奴らさえいた。
金を稼ぐために猟師やるんじゃなく、
猟に出たいから、生活費を稼ぐ。
目的と手段が完全に逆転していた。
過激な奴となれば、狩りで稼いだ金を全部装備に突っ込んで、翌週には巨獣を追いかけて山に消えて、乱獲して戻ってくる奴もいた。
周りが止めても聞かないし、危険度の評価や規模なんて関係ない。
ただ“狩れるかどうか”しか頭にない。
漫画やゲームなら笑って見てられるが、現実でやられると、ただただ怖い。
もちろん、彼らが無敵だったわけじゃない。
死ぬ時は普通に死ぬし、強力な巨獣に敗けて帰らないことも、それこそ何度もあった。
ただ、“殺られるまでの見積もり”が、俺たち普通の猟師とは根本的に違っていた。
常識のラインを何段階も越えた無茶なやり方でも、ガクラ細胞持ちの連中はとにかく死なない。
あいつらは、自分でも気づかないまま“自分の肉体はもう人間の強度じゃない”って前提で動いてたんだ。
ある男はオオカミ型巨獣、「ライカン原種」の小型個体に思いっきり殴られた。
普通なら即死、頭蓋どころか上半身ごと持っていかれてもおかしくない一撃だ。
俺は即死したと思った。
だがそいつは吹っ飛んだ先で立ち上がって、「何すんだテメェ!」と怒鳴り返し、そのまま逆に殴って気絶させた。
……あれを見た時、“異常”って言葉の意味が初めて実感した。
あいつらの肉体は確かに人間の形をしているのに、強度も反応速度も、もう完全に別物だった。
だが一番恐ろしかったのは、肉体だけが別物になっているのに、内面や行動原理は“ほぼ普通の人間のまま”ってところだ。
人格が壊れるわけでもないし、凶暴になるわけでもない。
飯も食えば、笑うし、泣くし、恋愛だって普通にする。
失敗したら反省して、次に活かそうとする奴も多かった。
家庭や自分の適性を考えて「やっぱ向いてなかった」と猟師を辞める奴だっていた。
むしろ、性格が改善されていった奴すらいたんだ。
前はクズなチンピラばかりだった集団が、ガクラ細胞を取り込んでから急にマトモになって、半ば自発的に“自警団みたいな働き”を始めたことがあった。
警察の手が届かない地域で、情勢不安で荒れ放題だった街が、そいつらのおかげで少しずつ落ち着いていったんだ。
……おかしいよな?
ガクラ細胞で一番おかしくなった連中ほど、むしろ性格がマトモになる。
生物学的にも心理学的にも説明がつかない。
当時の研究班に聞いても「因果関係は証明できない」としか言わなかった。
あんな異常事態の中だったけど、あの頃は正直、社会全体が“プラスに進み始めている”空気があった。
ガクラが俺たちに与えたのは、新しい発電方法や資源だけじゃない。
これまで巨獣という化け物相手に完全に無力だった俺たちに、初めて“対抗できる力”を与えた。
その事実が、人心をどれだけ変えたか……今の世代には想像できないかもしれない。




