変わり果てた故郷 4
「とりあえずここで、立ち話も何ですので、あちらにお茶など用意しておりますので、いかがでしょう」
村長さんが、気ぜわしげにマリア・ド・デニム伯爵令嬢を屋敷に向かうように提案する。ちらりとあたしの方を、ちらりと村長さんが見た。心配そうな表情をしている。
あたしの顔は青ざめていたのだろう。後ろに立っていた、メイドのドリーさんが、あたしの肩を軽く叩いた。
「大丈夫?」
あたしの耳元で、ドリーさんが声を潜めて声を掛けてくる。あたしと一緒に馬車に乗っていた者達は、村長さんについて行く。第二次救援部隊の主要となる者達は、ジャスミン・ダーリンさんや村長さんと、打ち合わせをしなければならないのだろう。
あたしの足は一歩も前に進もうとはしなかった。本当はしゃがみ込んで、泣いてしまいたかった。そうできたらどんなに良かっただろうか。でも、あたしの目から涙は一滴も流れ出してはくれない。悲しいのだけれど、其れより胸が押しつぶされそうだ。
「無くなった方の中に、大事な人でも居たの?」
ドリーさんは、たぶん心配して残っているのだろう。回り込んで、あたしの前に来ると、腰をかがめて顔を覗き飲んでくる。
「いえ、大丈夫です。ちょっと一人にしておいてください」
あたしはドリーさんの手を、振り切って走り出した。ここに居るのが苦痛に感じたのだ。ドリーさんの顔を見ていたくはなかった。
どこへ行く当てはなかった。ただここには、居たくはなかったのである。
しばらく走ると、村の教会の広場に出た。其処には、簡易なテントが十個も建てられている。其処には、あたしより小さい子供達が、薪にするための小枝を集めている。
あたしは慌てて隠れる。一番大事な時に居なかった。何が出来たわけでは無いかったけれど、一緒に苦難を分かち合わなかったから、少し顔を会わせ辛いような気がする。
あたしは考え違いをしていた。ニックはゲームのオープニングシーンには、あたし達の協力者として、荷馬車を襲った。その時は居たのである。その後は全くゲームには出てこなかった。
確かに、ニックは碌でなしではあったけれど。意外なくらい綺麗な顔立ちをしていたはずで、モブ扱いにするには惜しい男だったのである。其れが、ゲーム本編にはワンシーンですら出てこなかった。
あたしはモブだからかなと思っていたのだけれど、嵐によって死んじゃっていたとは考えてもみなかった。それはでることは出来ないわ。
読んでいただきありがとう。