変わり果てた故郷 2
運河の氾濫は、治水の脆弱なところに起こる。内政の主なことの中に、治水は大きなウエイトを占めている。何にしても、水がなければ作物は育たない上、そこに住んでいる者達は生きていくことさえ出来なくなるのだから。ひとたび制御を失った水は、多くの人命と財産を奪ってしまう。
村長の屋敷の前には、村長とジャスミン・ダーリンさんが、立って待っていた。前方を進んでいる騎兵の一人が、大きい声で全体に対して号令を掛ける。たぶんこの護衛隊の隊長なのだろう。あたしは、名前を聴いていないので、知らないのだけれど。父ちゃんとは顔見知りみたいな態度をしていた。
兵隊さん達はまるで、気合いの入った動きをしながら、あたりに気を配っているように見える。勿論此れもルーティンなのだろうけれど、どことなく芝居がかって見える。あたしの乗っている馬車が、ゆっくり速度を落として止また。いつもながら、ほとんど衝撃を感じさせない止り方に、大変良くできましたと言いたくなる。
村長さんとジャスミン・ダーリンさんは、二人そろって敬礼をしてくれていた。それに応えるようにして、騎兵の皆さんが馬上から、敬礼で返す。馬が止まると、騎兵の皆さんが馬上から降りた。本当に何度も練習したみたいに、すべての動きがそろっている。
あたしの隣に座っていた、護衛兵のお兄さんが、馬車から降り立つと。いつものように流れるように、量扉を開き、あたしを軽々とエスコートしてくれる。マリア・ド・デニム伯爵令嬢に対する態度と、全く変わらない。ちょっと可笑しくない。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢が、あたしの後に馬車から降り立つと、村長さんが思わず驚きの声を上げた。そして、あたしと伯爵令嬢の顔を見比べている。村長さんは、彼女に会うのは初めてなんだろうな。いつも会っているあたしと、同じ顔が領主の娘としてやって来たら、驚いちゃうよね。双子、だから仕方が無いのだけれど、本当のことは、あたしも知らないことになっているし、他人の空にととぼけるしかないよね。
マリア・ド・デニム伯爵令嬢は、最前列の中央に立ち。村長さんの前になった。なぜかあたしは彼女の右隣に立たされる。伯爵令嬢をはさんで向こう側には、ロジャー・タンドリンさんが立っている。そして、あたしの後ろにはメイドのドリーさんが居る。伯爵令嬢の後ろには、メイドのロージーさんが控えている。後は護衛兵の皆さんが、あたし達を取り囲んで立っている。父ちゃんは、少し離れたところで、あたりを眺めていた。
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