第40話 今日は見学で
私とレティは、部活動のため、家庭科室へと来ていた。
今日は、同じクラスのプリネさんも来ている。どうやら、入部希望らしいのだ。
「プリネさんは、家庭科部に入りたいということでいいのかな?」
「あ、はい。そうです……」
トルカの言葉に、プリネさんはゆっくりと頷く。
プリネさんは、相当緊張していたようだが、だんだんと慣れてきているようだ。
「今日は、とりあえず見学に来たの? それとも、もう入ることは決めてくれている?」
「あ、今日は見学を……」
「そうなんだね。それなら、今日は一緒に部活をしてみようか?」
「あ、はい……」
トルカは、プリネさんに質問していく。
プリネさんは、今日は見学として来ていたらしい。
通常、部活というのは見学してから入るのが普通である。なので、その考えもおかしくはない。
「お姉様、私達見学なんてしていませんよね?」
「あ、うん……」
そこで、レティは私にそんなことを聞いてくる。
私達の場合は、特に見学もなく、部活に入った。それは、色々な理由によるものだ。
そもそも、私が家庭科部に興味があった。さらに、幼馴染のトルカもいたため、すぐに決めたのだ
今思えば、それは早急だったかもしれない。だが、実際に体験して楽しかったから、特に問題はないはずだ。
「よし、それなら、今日はプリネさんも合わせて部活にしようか。昨日はクッキーを焼いたし、今日は裁縫にしようかな?」
「ええ、そうしましょうか」
トルカとティアナさんは、目線を合わせてそんなことを言った。
その表情から、これが少し意図を含んでいることを理解する。
部活の時間というのは決まっていないが、学園にいられる時間には制限がある。そのため、実質的に時間の制限はあるということだ。
今回するのは、裁縫である。裁縫というのは、基本的に時間がかかるものだ。作るものによるが、残りの時間で終わらない可能性は大いにある。
つまり、二人はまた来る理由を作ろうとしているのだ。中々、抜け目ない。
「ちなみに、プリネさんは裁縫の経験はある?」
「あ、はい」
「あ、そうなんだ」
しかし、プリネさんの言葉に、トルカは少しだけ表情を変える。
裁縫の経験があると、今日で作品が完成するかもしれない。それを、残念に思ったのだろうか。
「それなら、難しいものでもいいよね?」
「え、あ、はい……」
だが、私の予想は外れていた。
トルカは、裁縫の経験があっても、プリネさんを逃がさないつもりだ。
経験がなければ、簡単なものでも大丈夫。経験があっても、難しいものなら、今日で終わらない。
そういう考えで、裁縫を選んだのだ。本当に、抜け目がない。
「ちょっと、待ってください」
「あれ? レティ? どうかしたの?」
「私は、難しいものなんて作れませんよ?」
そこで、レティが声をあげた。
そういえば、レティは裁縫の経験がなかった。難しいものを作ると聞いて、不安に思うのも当然だ。
「レティちゃんは、私と一緒に簡単なものを作りましょう?」
「え? ティアナさんと、ですか?」
「ええ」
そんなレティに、ティアナさんはそう言った。
どうやら、レティのことはティアナさんが指導してくれるようだ。それなら、安心だろう。
「それじゃあ、私とルリアとプリネさんは、何か難しいものを作ろうか?」
「あの……」
「うん? どうしたの? プリネさん?」
トルカの言葉に、プリネさんが手を挙げた。
何か、言いたいことがあるようだ。
「トルカさんは、ルリア様やティアナ様達と親しい関係なんですか?」
「え? ああ……」
プリネさんの言葉で、私も理解する。
プリネさんは、平民のトルカが貴族に砕けた口調で話しかけているのが、気になっていたのだ。
確かに、それは周りから見れば、少しおかしいことかもしれない。しかし、ここではそんなことは気にしないことになっている。ここでは、身分はあまり関係ないのだ。
「プリネさん、ここではそういうことは気にしないで」
「え?」
「私もレティもティアナさんも、身分の差で何か言うことはないから、プリネさんもそんなに固まらなくていいよ」
「ル、ルリア様……」
そこで、私はプリネさんに声をかける。
ここで、貴族だからといって緊張されるのは、申し訳ない。
そのため、少しでも安心させたかった。
それに、考えてみれば、これはプリネさんと友達になるチャンスだ。
私も、クラスの人と親しくしたい。そういう気持ちがあるのだ
「ルリア様ではなくて、ルリアやルリアさんでいいよ。私達は同じクラスなのだから、そんなに気を遣う必要はないよ?」
「そ、そんな……恐れ多いです」
私の言葉に、プリネさんは少し驚いていた。
まだ、こういうのは早かっただろうか。
私とプリネさんの距離は、まだ近づきそうにないようだ。




