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利己の風【改訂版】  作者: メイシン
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第18話 新たな仲間




「これは…」


ダンジョンコアと思われる大きな魔水晶の中、胎児のように膝を抱えた裸の女性の姿があった。


「ヒト属ではないようですね。」


辺りを油断しないようにしながらも、魔水晶の中にいる女性を見ながらユミンが答える。【索敵】で警戒を続けているが、魔物の気配は全く感じられない。


「想像の斜め上を行ってると言葉が出てこないな。…とりあえず魔物の脅威は無い。少し調べてみるか。」


魔水晶の周囲を回ってみる。中に入るような場所も無い。


「何かの罠に掛かったのならこんな穏やかな顔で魔水晶の中にいないだろうし。」


不可解過ぎる。触ってみても叩いてみても、何の変化も表れない。


「そもそも生きているのか?」


いっそのこと無理やり転移させるか?と考えているとユミンが何かに気が付いた。


「ユウ様、この魔水晶の魔力、波長が少し変です。」


「どんな風に変なんだ?」


「通常、地下迷宮のダンジョンコアは、地脈から魔素を集め下へ魔力放射を行い階層を増やしていくと言われています。ですがこのダンジョンコアは魔素を集めてはいる(・・・・・・)ようですがダンジョンの生成を行っていないようです。」


「だから、このダンジョンは10層までしかないのかな?」


「それにこのヒトが入るほどの魔水晶って、大きすぎな気がします。」


「地脈から魔力を吸ってるのなら、俺の魔力を当てたらどうなるかな?」


試しに俺は、手に魔力を集め、魔水晶にそっと触れてみる。量が多かったのか、質が良かったのか、魔水晶はうっすらと輝き女性へと取り込まれた。


「これなら魔力を中の女性に渡しながらルートを作れば…」


女性へ取り込まれ続けた魔力は細いルートとなって繋がる。

そこに女性へ向けて意識を向けると、ルートを通じて、女性の声が聞こえてきた。


『…だれ?』


「俺はこのダンジョンを攻略しにきたヒト属の冒険者「田口 裕」そして横にいるのが「ユミン」もし良かったら名前と、どうしてこんな状態で居たのか教えて欲しい。」


『私は妖精種・妖精族のマイア。いつから、ここにいるのか、分からない。ずっと眠っていたから。』


「原因に心当たりは?」


『…勇者のせい?』


「勇者?」


『そう、魔物の大氾濫があった。その時に』


1000年前の大氾濫の事を言っているのだろうか?マイアは拙く言葉少なめだが、当時の事を語り出した。その内容は、



 全ての種族が協力していた勇者召喚。勇者の持つ「力」を使ったおかげで、魔物の脅威に対抗することは出来た。しかし魔物の氾濫は終わることなく、戦いの日々を余儀なくされていた。

 そんな中、当時のイフェルナ教の聖女「ラナカーン・イフェルナ」は魔物の侵攻は魔力溜まりの魔水晶が関与していると議会で発表する。

 確かに魔力溜まりより魔物が発生しているのだが、これはこの世界の自然の摂理。その自然の摂理を理解していないヒト属の集団イフェルナ教は、魔素溜まりを自分たちが管理して恩恵を手にしてきたが、より効率的にするためにある計画(・・・・)を持ち出してきた。

 一度失敗(・・・・)している計画だったが、他種族の中に膨大な魔力を持った妖精種が居れば計画も進められると思っていた。実際は魔力ではなく魔力操作なのだが。


「地脈に魔水晶を埋め込み、コントロールすることによって魔物の発生に歯止めを掛けよう」という主旨だったが、そもそも上手くいくモノなのか?といった議論で紛糾するも、聖女のラナカーン・イフェルナは地脈の魔素を操れるほどの魔に通じた妖精種であれば問題ないと発言。

 地脈に秀でた能力を持つ妖精種のドワーフ族はこの計画に反対。困った聖女は勇者に縋りつき、当時勇者と親しかった妖精種・妖精族に依頼したのだった。

 妖精族も当然反対したが、その後の勇者の手引きによって地脈の操作に優れたマイアを攫い、魔水晶を身体に取り込ませて迷宮に放置された。謂わば人身御供として。


 マイアに取り込まれた魔水晶はマイアの地脈操作の力を借り魔素を集め成長する。やがて身体を覆うほどになった魔水晶は、イフェルナ教の指示のもと魔物の大氾濫の地脈に向けて流された。

 結果的には大氾濫の下には行かなかったが、魔素を吸収し続けて魔物の抑制に成功したようだ。その後も地脈を彷徨いながら魔素を吸収して数百年の時を経て、新しく出来た魔素溜まりに出て地表に現れたのがこのダンジョンだった。


「当時からイフェルナ教は碌でも無い奴らばっかりだな。それに乗っかる勇者のアホ加減も何だが。」


『それには同意。ヒト属至上主義は、自分以外は虫けら同然の扱い。』


「それで身体に取り込まれた魔水晶を取り除けば解決するのか?」


『長い時を経て同化してる。無理そう。私を覆ってる魔水晶も、ここにいる以上地脈を吸い続けている。操作も難しい。これでは打つ手が無い。地脈から離れたら何とかなる…かも?』


「そっか、…マイアはここから出たい?」


『あれから知り合いも減ってるかも知れない。でも仲間に会いたい。故郷に帰りたい。』


「分かった。勇者絡みじゃ俺も後ろめたさもあるしな。じゃあ外に出よっか。」


『ん?そんな簡単ではない、妖精種の私でさえ、打つ手が無い…って、えっ!?』


俺は魔水晶とユミンの手を繋ぎ、地上へと転移して移動した。


『何これ?あり得ない!下準備も無しに転移なんて空間魔法、あり得ない!!』


「パニックになってるとこ悪いけど、せっかく外に出たんだからさ。」


『…分かった。とりあえず取り込む。』


 マイアはそう言って(体は動いてないが)淡い光を放ち出す。その光は魔水晶にまでおよび、段々と魔水晶の輪郭がぼやける様に薄くなってきた。

 マイアの中に取り込まれているのだろう、魔水晶に蓄積された魔素がついには無くなりマイアが宙に浮かんだまま折り曲げた手足をゆっくりと伸ばし、地面に降り立った。

 俺はマイアに無言で女性用のワンピースを手渡すと、マイアは「意外と紳士。」とクスっと笑う。しかし何かに気付いたように、辺りを見回すと驚いたようにつぶやいた。


「身体…大きくなってる?!」


「元はどのくらいの大きさだったんだ?」


「私は妖精種・妖精族のフェアリーの種族。大きさ…せいぜい20cmくらい。」


「魔素の影響でしょうか?」


ユミンの指摘が的を得てる気がするが、気になったのでマイアを【解析】してみた。



■名前 :マイア(1121歳)

■レベル:――(高位種族進化のため適正表記不可)

■状態 :神霊種・精霊属(元妖精種) 健康

■体力 :―――――  (魔力依存)

■疲労度:―――――  (魔力依存)

■力  :―――――  (魔力依存)

■敏捷性:―――――  (魔力依存)

■魔力 :621500/621500


■スキル:

身体変化

魔力属性変化


■固有(血統)スキル

魔素吸収

魔水晶化


 良く分からんが、魔力で構成されているから魔力以外の数値が出ないのか?逆に言えば、ユミンの【身体魔力融合】状態と考えれば納得するか。この馬鹿げた魔力も魔水晶を取り込んだせいだろう。しかしレベルも表示されなくなってるし、神霊種って?


「マイア。種族が妖精種じゃなくて神霊種・精霊属になってるぞ?」


「え?・・・進化??」


ステータスを良く見ると確かに『高位種族進化のため』と表示されている。


「進化なんて、そうそう起こらない…はず。」


「おそらく長い年月を経て魔素を取り込んだことで上位の種族へと進化したのでしょうか?」


「…何気に【鑑定】系のスキル持ってる?上位存在の鑑定なんて、出来ない…はず。さっきの転移もそう。貴方、何者?」


一瞬、不穏な空気が辺りを包むが「怪しむ前に…」とマイアが


「それより、ここから、出してくれてありがとう。私じゃ、目覚めることも無かった。」


と不穏な空気を消して、素直に礼をいうマイア。


「それで、貴方達…これからどうする?」


「俺達は今、ミーバ共和国ってとこを拠点に活動しようとしている。」


「ミーバ?どこ?ひょっとして…予想以上に時間、経ってる?」


「たぶん、魔物の大氾濫って言ってたから、1000年は経ってると思うぞ。マイアの年齢も裏付けてるてると思う。」


「乙女には年齢、タブー!」と笑顔のマイアが、先ほどの不穏な空気が可愛いと思うくらいの怒気、いや殺気が周辺に撒き散らされる。

 1121歳の乙女って…1000年前でも121歳じゃねえか!周囲もマイアの放たれた魔力で汚染され、草木も伸び景色も魔界のように変貌する。


「こちらの世界でも女性の年齢はタブーなんだ」


と殺気に身の危険を感じながらもつぶやくと


こちらの世界(・・・・・・)?」魔力の放出を止め、怪訝そうな表情で尋ねるマイア。殺気も無くなり少し安堵するも、尋ねられた問いに素直に答える。


「俺はミルドとイフェルナ教に召喚された()勇者だ。」


()勇者?何か事情、ありそう。」


俺は今までの経緯の簡単に説明する。


「呆れた。未だに迷惑行為、続けてる…あいつら。それで、中途半端な召喚術。元の世界、帰れなくなった?…から、旅をしている・・・」


「それでマイアはどうする?流石に1000年経ってたら仲間や故郷もあるかどうか分らないけど…」


「心配ない。妖精種、長命。誰か生きてると思う。」


「どこら辺にあるんだ?」


「あっち?」


地図を広げると、どうやらミーバ共和国の首都よりも南にある『深淵の森』と呼ばれる場所のようだ。


「どうするユミン?特に用事もないし、マイアを送ってくか?」


「ここであったのも何かの縁かと思います。マイアさんが宜しければ、ですが。」


「私からもお願い。1人は心細い…」


「分かった。」


「これから道中よろしくお願いしますね、マイアさん!」


目的地が決まった。メンバーも1人増えた一行は、『深淵の森』に向けて出発することにした。







 マイアはこの1000年で変わった世界を見てみたいと言ったのでゆっくりと馬車での移動となった。マイアは慣れた20cmの大きさになり(【身体変化】で大きさを変えたらしい)俺の左肩に乗っている。どうやら定位置が決まったようだ。

 途中、ミーバの首都「グランカナ」で露店の食べ物にはしゃぎ背中から羽を生やし飛び回って店主に迷惑を掛けていたが。

 ちなみにマイアの服装は膝丈のノースリーブタイプだが、自分の魔力で流れる水のようにしているため、身体のサイズを変えても大丈夫にしている。


「ユウ!あっち!」


俺の髪の毛を引っ張り、少し先の露店に行って欲しいようだ。はしゃぎ回り過ぎて怒られ勉強したというところか。1121歳でも中身は子供。元々妖精族は好奇心旺盛らしい。

その露店では玩具を扱っていて、どうやら蝶が針金のように細い物の先端に付いて舞っている玩具に興味を示したようだ。


「ユウ…買って?」


 何故に疑問形?それにしても下から覗き込むようにする上目づかいは卑怯だと思うんだ。1121歳のくせに。

 まぁ買うんだけどね。決して歳の事考えた途端に、マイアの雰囲気が怖くなったからじゃないぞ。


「ご満悦♪」


「しかしマイアも登録証でも作っておくか?」


「何それ?」


「自身がどんな人か証明するカードですよマイアさん。」


「面白そう。作る!」


「じゃあ冒険者証が一番早いですかね?」


と言う事で冒険者ギルドへ。相変わらずユミンの美貌にざわめくが、今回はマイアの可愛さも合わさり、騒然となっている。

 受付の女性も微笑ましく見ている。年齢を記入した紙を見て受付の女性が固まったのは笑えた。






「そろそろ首都を抜けて『深淵の森』に向けて出発するか。」


 マイアも満足したらしいし、出発するか。首都の南門を抜け人気が切れたところで馬車を出す。マイアもいきなり出現したマイ・ルームの門を見て驚き、門から馬車が出てきて興奮し馬車の周りを飛び回っている。


俺とユミンは御者の席に座りながら、飛び回るマイアを眺めつつゆっくりと『深淵の森』へ向けて進むのだった。





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