第19話 慟哭
マイアの故郷『深淵の森』へ向けて進む俺とユミンは、御者の席に座り街道沿いを進んでいる。マイアはゴーレムの馬の頭に座り、どこからか拾ってきた小枝を振りながら楽しそうにしている。
「ユウ様。このまま行くと夕方前には町に着きますがどうされます?」
「小さな町のようだし、日が暮れるまで走って野営かな。」
「町の宿より、馬車やマイ・ルームの方が快適ですもんね。」
「ユウ!マイアお風呂、好き!」
ユミンとの会話を聞いていたのか、マイアが振り向きながら話に参加してくる。マイアは何にでも興味を示し、夜になるとご飯を食べたあとには一番に風呂に行く。身体を小さくして浴槽を泳ぐ姿は微笑ましいが、人間サイズで同じ事をされると、目の保養ではなく目に毒だ。金髪美女の無邪気な姿は、時に罪悪感を伴う。
ちなみにマイアの容姿は、軽くウェーブの掛かった腰よりも長い金髪に、黒と金色がバランスよく混じった瞳。ほりは少し深めの欧米人タイプの美人だ。耳は少し尖っているので、良く見るとヒトではないことが分かる。人間サイズの時のスタイルは手足が長く、出るとこも出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
妖精のサイズの時は、何故か2~3頭身で「お子ちゃま」タイプの時と、人間サイズをそのまま小さくした時など、様々だ。
マイアは遊び飽きたのか、ゴーレム馬の頭から飛び立ち、ユミンのひざ下に下りる。ユミンはマイアの頭を軽く撫でながら、微笑んでいる。なんか平和その物の光景。そんな時に限って問題ごとが起こると思うのはフラグだろうか?
馬車を進め、町を素通りしようとすると【索敵】に引っ掛かるものがある。
「やっぱフラグかぁ」
「どうされました?」
「いや、何。たぶん冒険者だと思う、が魔物に追いかけられている。こっちへ向かってきてるようだ。」
「村に向かってですか?冒険者だとしたらマナー違反ですね。」
通常、村に被害が被らないように、村へ魔物を連れてくることはしない。村に多大な被害、運が悪ければ壊滅するかも知れないのだから。だが、自分可愛さに「擦り付け」すれば自分は助かる可能性は高まる。命が掛かっていれば仕方がないと思う部分もあるが。
段々と近付き、目視できるところまできた。魔物はホーンウルフ3頭とロックウルフ2頭。主に湖畔に生息する魔物だが、なんでこんなとこに?
「魔物だ。逃げろ!」
と追い掛けられている冒険者風の男女3人が叫びながら、後ろの村に向けて俺達の馬車の横を走り抜けていく。
「どうされます?」
「数が多い。勝てないワケじゃないけどリスクが高いから…」
「マイア、やる!」
ユミンと話してる間に、マイアが馬の頭まで飛んで行くと、いつの間にか取り出した小枝を剣に見立てて正眼に構え「やっ!やっ!」とチャンバラのように振っている。2頭身だと微笑ましい。しかし現実は、マイアが小枝を振った後、ホーンウルフが真っ二つになっていた。
さすがにロックウルフは耐えたのだろうか?足止めは喰らったようだが4本の足で立っている。マイアは「むぅ」とうなると今度は小枝を振り上げ「どーーーん!」と言いながら振り下ろすと、ロックウルフは『ゴゴゴゴゴ!』といった音とともに、地面と何かに挟まれるようにペチャンコになり絶命した。重力系の魔法だろうか?
とりあえず、ここら辺では見ない魔物なので、素材が取れるか見に行こうとすると、先ほどの冒険者風の3人が引き返してきたようだ。段々とこちらに近づいてくる。
俺達は無視して少し穴をほり、魔物の血抜きをすることにする。穴を掘ったのは、血や使わない部位、内臓などを埋めるためだ。ほかの魔物が寄ってこないようにするためである。
「無事だったようだな。それにしても無傷で倒すなんて凄いじゃないか。」
冒険者たちはユミンの美貌やマイアの可愛さに驚きながらも友好的と思われる言葉を続ける。
「俺達はこの先のグリーンボアの討伐の依頼を受けていたんだが、森の様子がおかしくてな。いきなり、森にはいないはずのロックウルフとホーンウルフに襲われたんだ。」
俺達は無視しながら黙々と解体処理をしていると、痺れを切らしたように女の冒険者が
「ちょっと!さっきから無視してどういうつもり!」
ユミンが呆れた顔をして冒険者たちを見るも、諦めた感じで「どうします?」といった顔で俺を見る。俺は溜息1つつくと、解体の手を止め、冒険者達に向き合った。
「擦り付けしておいて、ずい分な言い草だな。」
「なっ、擦り付けって!私達はちゃんと逃げろって注意喚起したわよ!」
「わざわざ俺達の方に向かって逃げてきながら?それも村に向かって逃げていながら良く言う。言い訳にもならない。」
「うっ!」
冒険者たちも何も言えなくなり黙り込んでしまう。
「どちらにせよ、お前らは逃げ、俺らは魔物を倒した。魔物の素材の権利は譲らんぞ。」
「しかし!」
「くどい!依頼不達成だろうが何だろうが俺には関係ないしな。」
先ほどまで一言も喋っていなかった冒険者が
「分かった。素材の権利はそちらにあることは認める。だが、このまま手ぶらで帰って森の異変を村の人に話しても信憑性が無いんだ。どうか一緒に依頼主のところへ報告して貰えないだろうか?」
確かにその通りだろう。「面倒な」と思いながらも、村人に脅威が迫っているかも知れないのなら、無視するのも夢見が悪いか?
まぁギルドで対処すれば良い問題だが、村はそこまで大きくないのでギルドが無い。近くのギルドまで馬でも1日は掛かる。調査を含めて何日も掛かるのであれば、村が警戒しておくことで最低限の備えにはなるかも知れない。
ユミン達に相談し「村人達が悪いわけじゃないもんな」と結論を出し、進行方向とは逆だが村に行くことにした。
途中、馬車に乗せろとか自分勝手な事を言っていたが、一切無視して村に向かおうとしたが、早く村に報告したほうが良いと、ユミンに正論を言われ、馬車の入口に細工をして、普通の馬車のような室内を【空間魔法】で作り出し、冒険者達を乗せた。
室内は普通の大きさだが、振動や揺れの少ない馬車に驚かれ、高位の冒険者もしくは貴族(金持ち)の冒険者かと散々質問された。一切無視したが。そして村に到着する。
村に着くと村長の家へ向かい事情を説明する。
「分かりました。グリーンボアの討伐については、依頼破棄とさせていただきましょう。グリーンボアがいないのであれば意味も無いですし。ただ…」
村長は、冒険者の方を見ずに俺達に向きながら話しだす。
「この周辺にいるはずのない魔物がいるというのは、何かあったのでは?と思われます。是非、原因を調べていただきたい。」
俺は面倒なのは勘弁してほしいと心の中で思いつつ、顔には出さないようにして
「申し訳ないがこちらも、目的があって旅をしている。そこまで急ぐワケではないが、金に困ってるワケでもない。」
村長も引かずに譲歩案を出してくる。
「ならば、最寄りのギルドへ報告だけでもお願い出来ませんか?」
溜息を心の中でしながらも
「それくらいならば。冒険者としての義務として異変の報告がありますからね。追ってギルドの職員か国の使者がこちらへ来るようお願いしてみますよ。」
「…国ですか。」
そもそも、こんなのは国が出張るもんだ。それによって討伐依頼のランクを決め国が動くか、ギルドに回せば良い話だ。まぁ金のない村では依頼料も払えないだろうから、国の出番となるが、国が動くには時間が掛かる。
その間に村が滅びてしまう事もあるかも知れない。だから村長も渋っているのだろう。
「じゃあ俺達が先行して異変に対して調べてやるよ!」
今まで黙っていた冒険者達が口をはさんでくる。見慣れない魔物に驚き逃げ出してきた奴らに何が出来るのだろう?
こいつら天野並の馬鹿さと薄っぺらい正義感を持っているのかも。
「それは心強い!」と村長も冒険者達に反応している。まぁこの村にとって、早めに脅威が確認出来れば国も動くのが少しは早まるかもな。領内の事なら村が金を出さなくても済むし。
「困っている人を助けるのが冒険者ってもんだからな!」
やっぱり天野と同じ馬鹿さ加減だな。何「冒険者」に夢見てんのか。
「では早速ギルドのある町まで行くことにします。」
「それではよろしくお願いします。」
俺達はギルドのある町へ。冒険者達は再度、調査のために森へ入って行った。
「ユウ様。よろしかったのですか?」
「ん?」
調査の件だろう。別に気にならないと言えばウソになるが、何か巻き込まれそうな予感もする。直接関わらなければ、被害を被るワケでも無いしな。
俺はゆっくりと紫煙を吹かしながらタバコを灰皿でモミ消す。
「進行方向とは違うし。」
「マイアは寄り道、構わないよ?」
「いやいや、俺は危険に飛び込む趣味は無いぞ?」
馬車を当初の目的通り『深淵の森』へ向けてゆっくりと走らせているが、何気に森の向こうの湖畔に向けて【索敵】を行うと…、うん。やっぱり驚異は間違いなかった。
脅威どころか災害クラスの魔物が3頭、湖畔で争っているようだった。1頭の魔物はたぶん大きさが4~50mあるんじゃない?正真正銘化け物だ。地球にだってそんな生き物居なかったし。あと2頭、災害クラスがいるが…番いか?
片方が庇いながら化け物と戦っている。
村はともかく、番いの魔物が気になる。危険の中に飛び込む趣味は無いが…、魔物が連携ではなく、互いを庇いながら戦うなんて…。
ユミンにその様子を伝えて、そんなことがあり得るのか聞いてみると、長い年月の経て生き延びた魔物にはヒト族以上の、自我に目覚めるモノもいると。
俺はユミンとマイアに断りを入れ、湖畔に向けて急いで進路を変更した。
◇
湖畔に近づくにつれ、かなりの轟音と衝撃による振動がひどくなってきた。まさしく災害クラス。
地面は抉れ、元の風景がどんなものだったのかも想像が出来ないくらい荒れ果てた状況だ。
争っている魔物のデカい方は、蛇のような姿をしている。鱗も青く輝いていて、いかにも防御力も高そうだが、ところどころ傷つき血を流している。
もう一方は、狼とキツネを足して割ったようなタイプの魔物で、大きさが5mはありそうだが、俊敏な動きと軽快なフットワークで蛇の魔物を翻弄している。白色の身体と尻尾が身体の倍くらいの大きさを持っている。
「何が原因で争っているのか分からないけど…このままでは村どころかミーバの首都にまで被害が及ぶんじゃないか?」
「それは無いんじゃないですか?番いの方の魔物には子供でしょうか?を庇いながら親子が闘っていますし。」
良く見ると、魔物の母親らしき魔物が尻尾で子供を包みながら守りに徹している。それを父親らしき魔物が防戦しながらカウンターを狙って戦っている。
「あの魔物。本来スピードを生かした戦い方が主流のようですが、母親と子供を守る様にしていますので本来の戦い方が出来ずに、だいぶ苦戦しているようです。このままでは母子諸共、やられてしまうのも時間の問題かも知れないですね。」
父親も母親も守るのが精いっぱいの様で段々傷も増え、白…いや銀色の毛も血で汚れて壮絶な姿になっている。
そこに蛇の魔物が、父親の方にブレスを放ち、母親の方には尾を振り回した。
父親は母親に気を取られ、後ろ脚にブレスが当たり機動力が削がれた。そして母親は子供を守る様に身を固め、尾が直撃。子供と一緒に50mほど吹き飛ばされた。それもこちらに向かって。
一緒に吹き飛ばされた子供の魔物を思わず受け止めようと飛び出し、何とかキャッチするが、母親は内臓をやられてしまったのだろうか、力尽きる寸前の身体。
母親の魔物と一瞬、目が合う。警戒もしていないその瞳には何かを言いたげで、俺と子供を交互に見た。
その時、父親の魔物が最後の力を振り絞り、蛇の魔物の喉元に喰らいついて湖に2体とも沈み行く姿があった。どうやら勝ったようだ。
俺は子供の魔物を放し、母親の方へ連れて行く。母親は優しい瞳で子供を舐めた後、再度俺の方へと振り向く。母親は俺の敵意のない魔力に何かを感じたのだろう。俺も母親に向かって想いを込めて頷いた。
父親も何とか湖から出てきて、母親と子供の傍に身体を引き摺るようにやってくる。母親と父親が、ゆっくりと尻尾で子供を愛おしく抱き、子供に何か囁くように声を発した。
最初、子供は最初は駄々をこねるように母親に抱きつき泣いていたが、母親が鋭く鳴くと、少し、迷う素振りで両親を見つめる。父親が力強くうなずくと、崩れるように横たわる。まだ息はあるようだが、いかなる回復も間に合う事は無い。もはや命の炎は消える寸前だ。
子供は意を決して、父親の喉元に喰らいつき、父親の命を狩る。父親の顔は満足そうだった。子供は続いて母親の命も狩り、泣き叫ぶように吠え続けた。
両親の最後を謳うレクイエムのように・・・




