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いつも通りの日常と過去と #05

前半の日常話はちょっとほのぼの。

後半の過去話は、コメディ4.5:シリアス5.5


「うわあ、ほんとおばちゃんのオムレツ、最高だな。俺、毎週月曜が楽しみなんだ!」


 料理を作る人間にとって、子供の素直な称賛ほど嬉しいものはない。


 心の中では(あら、先週はクロワッサンを食べて似たようなこと言ってたわよ~)と意地の悪いツッコミもするが、それでも嬉しいものは嬉しい。



「ありがとね。ジャンが毎週早起きして新鮮な野菜を持ってきてくれるから、わたしも嬉しくて頑張っちゃうの」

「へへ、だってほんとに美味いんだもん。おばちゃんのごはん。あーあ、母ちゃんもおばちゃんくらい料理上手ならなあ」

「何言ってるの、マリーナさんだって美味しい煮物を作るじゃない。前に頂いたカボーチャの煮物、美味しくて、おばちゃん作り方教わったくらいよ?」

 

 ジャンの家は、父親のポメロと母親のマリーナ、祖母のサンディア、まだ6歳の妹シルエラと2歳の弟アルズの6人家族だ。

 以前、薬を持って立ち寄った折、マリーナから「先生もご一緒に」というお誘いにちゃっかりのって、楽しい夕食の場でいただいたカボチャの煮物は甘辛く煮付けてあって、かなり美味しかったのを思い出す。ほかにも兔肉のグリルや、畑で獲れた野菜を炒めた物など、どれも十分にユラの舌を満足させる物だった。


 ユラが首を傾げると、ジャンが困ったように笑って「そうじゃないんだよ」と言う。



「や、母ちゃんのメシ、確かに夜は美味いんだけどさあ・・・朝がひどいんだよなあ。今朝なんてシルエラが熱出してたからパンすら切ってなくて・・・」

「あらあら大変。後で背負子を返しにいくついでに、熱さましの薬持っていってあげないと・・・」

「それはありがたいけどさあ。でも、母ちゃんの朝飯は手抜き具合がひどいんだよ」

「なるほどねえ。でもそれは仕方ないわよ。毎日々々、朝早くから畑で仕事があるんだから」


 農家の朝は早い。

 朝、日が昇る前には起きて畑に向かい、植付け、畑作り、種蒔き、草むしりといった作業をする。合間に朝食を食べ、また畑に戻って、出荷するための野菜の収穫や肥料作りなどで夕方まで忙しく働く。


 これがユラが知っている世界であれば、人手の代わりに機械があり、専門の会社が作った肥料や強い除草剤と便利な道具があるが、この世界は違う。全てが人の手でまかなわれているのだ。

 朝早いのも、暗くなっても電気の灯りといった便利なものが無いからだ。


(エコっていうか、まあ日本も大昔はそれが当たり前だったって話だけどね)


 そんなわけで、ジャンの両親であるポメロもマリーナも、ジャンよりも小さい妹弟の世話を祖母に任せて、毎朝親子三人で畑仕事に精を出しているのだ。

 母親のマリーナにいたっては、畑仕事の合間に洗濯やら掃除やらといった家事が追加されるのだからそれは大変なはずだ。


 ジャンも母親の大変さは分かっているのか「分かってるよぅ、俺だって、毎日朝早くから叩き起こされて手伝ってるんだからな」と、パンにかぶりつきながら言葉を返すが、少々ご機嫌斜めなようだ。

 自宅での朝食のひどさも不機嫌の理由の一つだろうが、それよりも幼い妹にかかりっきりになって自分がほったらかしにされたような気になったのが最大の理由ではないだろうか。


(やれやれ、どんなに仕草は大人ぶっても、まだまだ甘えたさんね)



「知ってるわ。ジャンが毎朝、畑仕事を手伝っているから、マリーナさんもポメロさんも助かってるって言ってたもの。お父さんとお母さんを手伝うジャンは優しくていい子ね。うちにもこうやって学校に行く前にお野菜を持ってきてくれるから助かるわ。ありがとう」


そう言うと、ユラの言葉に何か感じるところがあったのか、半分ほどになったパンを両手にジャンが口を尖らせる。



「ちぇー、おばちゃんずりぃな」

「あら、何が?」

「だからさー、おばちゃんはそうやってすぐに俺みたいなガキにありがとうって言うだろー」

「だって本当に感謝しているんだもの。ジャンにはありがとうはいくつ言っても足りないわ」

「はー・・・だからなんだよなあ・・・。なあ、母ちゃんに俺にありがとうって言えっつったのおばちゃんだろ。最近、父ちゃんも母ちゃんも朝手伝ったら、俺にありがとうなんて言うんだぜ? 親にんなこと言われたら早起きして手伝わないわけにいかねぇじゃんか」


 ありがとうという言葉に誤魔化されているような気がしているのか、そう言いながらもジャンの口は尖ったままだ。でも両親や大人に感謝されるのは悪い気分ではないらしい。ふてくされた様子も照れ隠しなのだ。


 そんな子供にもう一度笑って「まあそう言わないの、昨日お菓子を焼いたから学校に持って行ってお友達と食べなさい」と言えば、現金なもので尖った口はすぐに白い歯を見せた。



 チーズを乗せたパンにかぶりつき、スープにサラダ、オムレツとすごい勢いで口に運ぶ子供。

 そしてそんな子供を前に、お手製のハーブティーを飲みながら、野菜と一緒に持ってきてもらった週報紙に手をつける。


 いつも通りとなった平和な週明けに、幸せを感じながら、ユラは週報紙の記事に視線を走らせた。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 何をもって罪というか。



 人を憎まず罪を憎め、って誰の言葉だっけかな?



 訳のわからない場所で、訳のわからない相手を前に、本音を言えばビビってる。すっごく不安だ。だって、ここはアウェイ。わたしの居場所は元の世界の元通りの状態。目の前の彼らがどんなに善良な存在であれ、わたしがどんなに被害者であろうとも、ここにいる時点でフェアではないのだ。


 もしかしたら・・・なんて希望的観測は、この状況では少ないとも多いとも言えない人生経験からもあり得ないのだけは解っている。いつだって希望を持ちたいとは思うけど、それだけを持って生きていけるほど、わたしは強くない。

 これから明らかになる現実は、わたしにとってきっと重くて辛いもののような気がする。


 聞いてしまったらプライドも何もかもかなぐり捨てて、みっともなく泣き喚くかもしれない。怒声を張りあげて目の前の面々を詰るかもしれない。無茶をたくさん言うかもしれない。


 おそらく、彼らもそれを予測している部分もあるのだ。


 だからわたしは、虚勢を張ってでも、真実を知るその瞬間まで自分らしくありたいのだ。




 そして、わたしの目の前には、これまでの担当者A~Dとはちょっと違うキラキラしいのがいる。

 この場には10名ちょっとのファンタジーな存在がいるが、その中でも、どうもキラキラ加減だけではなく、そのおどおどした態度からして今までの担当とはちょっと違う気がした。


 ここが夢の世界じゃないって自覚してから、それまで薄ぼんやりとしていた印象が随分はっきりと映るようになって、その表情も判るようになったのよね。(そして明確になったら、完璧な造作を持つヤツばっかで、違う意味でイラっときた)


 何て言うの? その表情も怯えているっぽければ、キラキラ度も薄い、って言うか・・・なんかついさっき「自分らしくありたい」なんてシリアスぶったわたしがバカをみそうな相手って言うの? 非常にいやーな予感がするのよね。思わず眉間を寄せたら、それだけでビクリと体を震わせるキラキラくん。心なしか涙目?


 いわゆる小心者(善良は善良なんだろうけど)って感じ?


 でもってヤツが口を開いてから30秒。



「えっ、と、ですねぇ・・・」

「・・・・・・」

「その、あのぅ、んっ、えっ、と・・・今回の事象でご、ございますが、あのっ、そのっ、こ、これは間違いなく、か、界渡りに関する、えとっ、あ、貴女様が仰るところのっ、か、界渡り管理局のわ、我ら担当にとっても、ぜ、前代未聞の、えっと、じ、事象で、あって、そのっ・・・さ、さらには、な、何らかの手違いで、・・・っと、貴女、様が・・・異世界に介入することとなった、げ、現象は、その、えとっ、現在もちょ、調査中でありま、」

「ストーーーーーーッップ!!!」

「っ、ひぃいいいっ!」


 椅子から身を乗り出し、掌をヤツの眼前に突きつけて言葉を遮った。


 当然、情けない声を挙げて転んで尻もちをついたヤツの周りでは、さらに恐縮したキラキラしいファンタジーな面々が頭を下げたのは言うまでもない。


 思った通り、アタリ・・・わたしってばバカを見たわけよ。

 

 何の担当だかは知らないけれど、担当EでもFでもなく「小心者局員その1」と決定。


 つまり、真実を知る前にわたしをブチ切れさせた超お馬鹿さん、ってことよね。

 まさかこの場面になって、コレに当たるなんて、わたしってばどんだけ運が悪いのよ。


 ついつい「うふふ」って今まで一番低い声が出ても、髪が逆立っても・・・仕方ないわよね?



「うふふ。あのね、キミがね、どんな立場なのかはわからないんだけどね。わたし、そういうおためごかしな前置き要らないの・・・って言うか、あんた!」

「は、はいぃっ!」

「さっきの言葉の続き!! 『その原因解明に鋭意努力を払い』とかなんとか言うつもりだったでしょっ!!」

「へっ、あ、・・・す、凄いですっ。そうですっ! その通りですっ!!」


 泣きそうになっていたのが、わたしの指摘に妙に興奮する小心者局員その1。

 お前はワンコ属性かっ!? いるのか? こんなシリアスとも言える空間でっ!?


「あらそう? あのね、キミ?」と、幾分柔らかな声をかけると「は、はいっ!」と嬉しそうに返事する小心者局員その1、もといワンコ局員に変更! そう思ったらほんとに耳と尻尾が見える。いらんわっ!



「あんたアホかあぁっ!! こんな場面で必要なのは謝罪じゃなくて、これからの状況説明に対応策! あんたどもり過ぎ! 緊張し過ぎ! ついでにさっきの言葉に訂正入れるとしたら、何らかの手違いじゃなくて、明らかな手違いでしょうがっ!! あんたがわたしに言ったのは謝罪じゃなくて、地球で言うところの遠まわしな責任回避発言!」

「ひっ、ご、ごめんなさいぃいっ!!

「そこで謝って済ませるなっ! 反省して弱点直して次に活かせ!」


 御使いに対して、ヤツらとか面々とか彼とかあんたとかキミとか・・・随分失礼だとは承知しているのよ? わたしだって。

 が、ワンコ局員はじめファンタジーな面々のわたしに対する態度から、どうにもこうにも・・・会社にいるような気分しかしないのよ、ココ。

 そんなことをしている場合じゃないのもわかってるんだけどねえ。


 何なのかしら、これ。


 そして、さすがはワンコ属性。

 こういったワンコ局員みたいなタイプは、大体において・・・。



「はっ、はいっ! 気をつけます! ご指導ありがとうございます! 魔操士(まそうし)様っ!!」

「よろしい、じゃあ・・・・・・ん?」


 そう。この場面ではまだ必要のない答え---爆弾発言---をかましてくれやがるのだ。


 それは商談ならば、結果を左右するとっておきの切り札だったり、超NGワードだったり・・・。



 さて、この場合は―――?



「あんた・・・今、何つった?」

「・・・へ? ボク、何か?」


 言った本人が自覚ない、って・・・どこまで新人ワンコ属性なのよ、あんた。


 あんた以外の周囲のファンタジーな面々は、気付いたわよ。分かりやすく肩を竦ませた者も、無関心を装ってる者もいるけど・・・空気が変わったのは確か。


 こうまでお約束な展開だと、もしやトリックか? とすら思うほど。


 にっこりほほ笑んで、ゆっくりと唇を動かした。



「わたしのこと、―――まそうしさま、とか言わなかった?」


 その言葉に、目の前のワンコが息を呑む。


 なんだったっていい。

 辛かろうとムカつこうとなんだろうと・・・わたしは真実が知りたいのだ。



「知ってることも、本当のことも、これからのことも―――全部、話してちょうだいね」



 もう不安も後悔も恐怖も・・・後回しは結構だ。

 

 

 

ヒロインちゃん、内心「おらおら、とっとと吐きやがれ」です。


最後の「不安も後悔も恐怖も」は、ヒロインちゃんの本音でもあり、界渡り管理局面々の本音でもあります。


ヒロインちゃんの場合は、告げられること、真実への不安・こんな状況になったことへの後悔・未来への恐怖。

界渡り管理局面々の場合は、告げることで傷つけるであろう彼女への不安・すべてへの後悔・これから受けるであろうヒロインちゃんからの蔑みや罵りへの恐怖。


どちらも受ける覚悟はあるけれど、怖いものは怖い。

それは「ひと」であっても、そうでなくても。



(どうでもいいはなし)

話の中であったトリックですが、計略・策略という意味で使用。迷わせて誘導する策略という意味ではトリックが一番妥当だったので。っていうか、あとがきかいてる時点で、日本語でもよかったんじゃ・・・とか今さら気付いたおバカなわたし・・・orz。

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