第十章
昭裕は朋香を起こさないようにそっと玄関ドアを閉めた。
「ありがとう、トモ姉」小声で礼を述べる。
出かける前にシャワーをすばやく浴びた昭裕が浴室から出てきたとき、はとこはすでに熟睡していた。
丸一日以上寝ていないのだから無理もないだろう。
現在の日時は、日曜日の午後四時。
昭裕は四畳半探偵事務所に向かうのだ。入手した情報を伝えねばならない。
「跡切さん。おや、下にいましたか」
珍しいこともあるものだ。女探偵は最初から事務所一階にいた。
「やあ、少年。一日ぶりだね。その手に持つものは何々? 食べ物それともフードかな?」
昭裕が手にするレジ袋を見た途端、跡切はへっへっへ、と喜びながら尻尾を振る犬に成り果てていた。一階にいたのは、狭いキッチンにてありもしない食材を探していたからに相違ない。
「……一緒じゃないですか。お察しの通り、カップラーメンとおにぎりですが」
泣きたくなる程に予想通りの光景だった。何と情けない人だろう。
「やりぃ。で、くれるんだよね?」
「――お手」
「ワン!」瞬時に手と手が重なる。
「……」(その行為、プライドレス)
まさか実行されるとは思ってもいなかった昭裕は固まってしまう。軽いジョークのつもりだったのだ。
「……あ、おかわりもするでよ」昭裕の硬直をどう受け取ったのやら、跡切は逆の手を差し出してくる。
「やらんでいいです! はい、とっとと食して下さい」
昭裕はレジ袋を探偵に突き出し、その行為を中断させる。食品は連続睡眠に備えて購入したものだが、もう必要ないはずだ。
「ありがたや、ありがたや。うふふふー。優しいねえ、少年は。……もしかしてアタシにホの字だったりする? いやだ、朋香くんにどう説明しよう。挙式はいつにしようか? それとも駆け落ち?」
跡切はそう言いながらも熱っぽい視線でレジ袋の中身を凝視している。昭裕はコホンと咳をした。
「恋する女性にインスタント食品をプレゼントする男は百パーセントいないと思いますよ。ええ、間違いないでしょう」
「アタシは嬉しいけどねぇ。ところで訪ねてきたってことは――」
「……はい、見つけられたと思います。手段の糸口を」
「ほほう。頑張ったねぇ、少年。まさか一日でやり遂げちゃうとはね。驚きだ。詳しい話を聞かせてちょうだいな。ムフフフ」
レジ袋に顔を突っ込んだ探偵の声はくぐもっていた。
「さて、苦情と感想。二つ言いたいことがあるよ」
昭裕の報告を聞き終え、ついでにラーメンも食べ終えた跡切は、おにぎりの封を開けながらそう言い放った。
「……はい」
事務所のパイプ椅子に座ったまま、昭裕は軽く身構えた。何を言われるのだろうか? 特に苦情の方が気になる。緊張して発表を待つ。一分後、跡切がおにぎりを食べ終わり、会話が再開される。
「うん。まずは手短だし、感想から言おうか。……君はホント、呆れ返ってしまうほどハードラックな星の下に生まれたね。そんな重い糸口を見つけてこなくても良いのにさ」
「えーと、はい。すみませんでした」
「いや、怒ってはないんだけどね。ただあまり背負い込まないでね。依頼人につぶれてもらっちゃ困るし」
「それは大丈夫です」昭裕は断言した。「動く動機が増えただけですから」
「……そう。ならいいけど。では、今度は苦情だね」
跡切は二杯目のラーメンに湯を注いだ。
「率直に言ってしまうとね。ビオトープの中ってだけでは範囲が広すぎだ。しかも、見つけるべきブツはシャープペンシルというちっこいものときた」
「……広いですかね?」
「うん、広いねえ。その施設ってアタシの事務所の延べ床面積より広いんだろう?」
「はい。……三倍以上はあるかも」
「くう。生意気だな、小学生め。これは普通に探してたら、何週間かかるか分かったものじゃないよ。もしかすると月単位かも。夜、暗い中、不法侵入して探すんだし」
「不法侵入……ってまずいでしょう、それは」
「大事の前の小事よ。見つからなきゃ問題ないわ。金銭的にも物理的にも被害を及ぼすつもりはないんだし。後腐れはないでしょう。それにさ、見学ならいざ知らず、捜し物するので穴を掘らせてください、なんて正々堂々と頼んで了承が得られると思う?」
「それは、やっぱり……駄目でしょうね。わかりました。もう一度夢見にチャレンジしてきます。あ、まだラーメン残ってますよね?」
沈み込む心に鞭を打って、昭裕は腰を上げた。
「あっ、待って待って。いやいやいやいや」
――すると、跡切が慌ててレジ袋に覆い被さった。必死の形相である。
「お、落ち着こう、少年。アタシは苦情を言っただけだってば。ね、ただの苦情。できないとは一言も言ってないよ。だから、待ってちょうだい。後生だから、ラーメン持って行かないで」
どうやら鞭に続き、飴の方も遅ればせながら投入されたようだ。ただ、その味は分からない。
「だはぁー。……本当にできるんですね?」
昭裕は嘆息をもらす。厳しく評すれば、跡切清子は貧すれば鈍するを地で行くような人物なのだが、それでも自分の奇妙な依頼を受諾してくれた探偵だ。もう一蓮托生でゆくしかない。
「ええ、きっとね。普通でダメなら尋常じゃない方法で探せばいいだけのことよ」
「うぅ、異常な方法ですか……。それは一体どのようなもので?」
昭裕は恐る恐る尋ねた。BB弾の嵐はもう見たくない。
「それは今から考えます。大丈夫、きっと見つかるわ。残りのラーメンを食べればね。おしっ、お湯沸いた。日本のインスタント食品って、やっぱりすごいわぁ」
やがて昭裕に二つの指令が下った。
十分な栄養を得た跡切の頭脳は昭裕に急速な回転を見せつけた。
深夜零時。日曜日が月曜日に変わる時刻。昭裕は四畳半探偵事務所のドアを開けた。これから桜見台小学校に向かうのだ。ただし、移動手段等はまだ聞いていない。
「来たね、少年」
「こんばんは、助手さん。じゃ、ありませんでした。えーと、伊東さんとお呼びすれば宜しいでしょうか?」
室内には跡切清子と筑紫明日飛がいた。
「あっ、うん!? 久しぶり……でもないか。五日ぶり?」
指折り数えて確認する。
「ですね」
「今回の作戦の、強力な助っ人だよ」
「そ、そうなんだ」(室内に銃器は無しと。うん、ここ重要)
どういう風に使うのかは昭裕にはわからなかったが、確かに明日飛の、付喪神の力はなかなか便利そうである。
「はい、……そうみたいです。私、頑張りますね」
明日飛が胸の前で手をぎゅっとする。初々しい。
「気合い入ってるねぇ。バイト代、弾むよ」
(おーい! こらこらこら!)
昭裕は声を出すことなく跡切に突っ込む。
冷蔵庫空っぽ探偵に資金力がないのは明白な事実だ。アルバイト料を出すのは、消去法で考えれば依頼人である昭裕しかいない。
「い、いりません。私、バイト代なんて」
「あら、そう」
手も首も振り、大急ぎで断る明日飛に、あなたも淡泊ね、と跡切は感想を漏らす。昭裕はホッと胸をなで下ろした。
「だって、三千円は安すぎでしたし。何か恩返しをしなきゃ、って思ってたんです」
「や、安すぎ?」
明日飛の言葉に跡切の目が点になった。
「幾らぐらいかかるって思ってました?」
昭裕が問いかけるとあっさりと答えが返ってくる。
「えーと、二十万円ぐらいはかかるかなって思ってました」
「弐のあとに、れ、零が、い、五つもなんて。五千円札だと四十枚分じゃないの。ほ、本当にそんな金額払えるの? コピーお札じゃなく」
「はい。依頼をしに行ったときも持ってきてました」
「わ、わ、割の良いバイトでもしてるの?」
聞きようによっては危ないセリフを跡切が吐く。
「いえ、学校はアルバイト禁止です。だから貯めていたお小遣いとお年玉の一部を使おうと思ってました。……えっと、所長さん?」
明日飛がまことに不思議そうな顔をする。
「ゼニコー」
跡切が固まっていた。
「あー、気にしないでください。ところでよく家から抜け出せましたね」
大丈夫? 怒られたりはしない? 所長を無視し、昭裕は明日飛にそう尋ねる。朋香が明日飛の臨時友人に今回はなっていないためだ。昭裕の下宿で今は留守番中である。
彼女自身は作戦へ参加する気満々だったが、昭裕が押し止めたのだ。不法侵入などやらせられない。危なすぎる。
『みんな慎重に進むのよ』
他人にそう注意しておきながら、真っ先にトラップに引っかかる。はとこ、松本朋香には不運にもそういうところがあった。
「それは――」
「――大丈夫!!」
跡切が強引に明日飛の言葉を引き継いだ。語尾が不必要までに強い。
「アタシはすごい探偵なんだから大丈夫に決まってるじゃない。万事オッケー、オッケー、オッケーです。アタシは世間に誇れるはずの探偵事務所所長なのよ!」
どうやら世間への対抗心を糧に復活したらしい。
「というわけで、少年。今がその時だ。この前言った裏技を体験させてあげよう。手っ取り早い移動手段ってやつをね。約束の物、其の一、鍵を出したまえ」
「了解です」
勢いよく差し出された手に、昭裕は事前に用意しておいた品を置く。
「無くなったりしませんよね」
念のため聞いておく。それなりに大切な物なのだ。
「うむ、大丈夫大丈夫。壊れたりもしないから安心したまえ」
約束の物、其の一は昭裕の実家の鍵だった。
「じゃあ早速出発しよう」
跡切はそう高々と宣言した。
数分後、昭裕は下宿から最速で三時間はかかるはずの実家に戻っていた。
目前に上がり框がある。
「――っ!!」
「おっと、声出さない。とりあえずここを離れるよ」
驚愕しかけた昭裕の口を跡切が素早く押さえ、耳元で囁いてくる。
家から十メートルほど離れたところで会話が許可された。桜見台小学校へと続く、深夜の生活道路に人の姿はない。昭裕たち三人だけが立っている。
「伊東さん、驚いたでしょう」
「あ、ああ。ほんとにびっくりした」明日飛の、若干声を抑えた問いかけに昭裕はただただ同意するしかない。
「私もです。夕方、所長さんに自室の鍵を渡したときに、夜迎えに行くから、と聞いてはいたんですが。それでもやはりびっくりしてしまいました。部屋の鍵なんて、これまで一度も使ったことなかったんですけど。こんな使い方があるなんて世の中は驚きに満ちていますね」
そう言って、明日飛は微笑んでみせた。
「どう? アタシはやっぱり世間に誇れる存在でしょう」
跡切は偉そうに胸を張っていた。
事務所にて、跡切は明日飛の事件を解決する際に使用していた『ドアノブ』に昭裕の実家の鍵を差し込んだ。『ドアノブ』を始点にして発生した扉は驚くべき事に昭裕の実家、その玄関につながっていた。移動後、跡切が扉を閉めると、昭裕所有の実家の鍵は閉めたこちら側に忽然と出現した。扉は鍵を『ドアノブ』から引き抜くとスッと消え去った。それから実家の玄関ドアを開けて、三人は戸外に出たのだ。戸締まりは外から鍵を使ってしておいた。
昭裕には扉をただ通り抜けたという感覚しかない。それでも空間を渡っていた。
「異世界と繋がるだけじゃなかったんですね、それ。某国民的ロボットが持ってる秘密道具みたいだ」
「あはは、そうきたか。でも、こっちは鍵になるものが必要だしそれに対応したところにしか渡れないから、実際はかなり別物だけどね。いろいろと不具合もあるし、あそこまで万能じゃないよ。ある一点を除いてね。その一点を、……聞きたいかい? 聞きたいよね?」
「すっごく聞きたいです」「……話したいんですね」
即答したのは明日飛だ。跡切が嬉しそうな顔をする。自己の地位を確立したくて仕方ないのだろう。
「よろしい。では、教えて進ぜよう。こいつを使えばね、世にある錠前付きの扉なら全て開けられるのよ。こう扉にくっつけて、くいっとするだけでね。もちろん、本物の鍵なしでだ」
「わぁ、すごい」
「……なんちゅー危険なアイテムなんだ。トモ姉が俺の下宿に侵入した手段はそれですね」
明日飛と昭裕の声のトーンは対照的だった。
「ご名答。こいつを使いました。いやはや、あの時の朋香くんの剣幕ったらすごかった。思わず理由も聞かずに協力しちゃったよ」
「理由は聞きましょう、理由は。おかげで助かりましたけど。悪用目的だったらどうするんです?」
「まあ朋香くんだから」
「だからヤバいんです。世界征服にトモ姉が乗り出しても俺は知りませんからね」
「その時は少年が愛の力で止めるのだよ」
「いやです」
喋りながらであったが、十五分とかからず桜見台小学校に到着する。三人を街灯が静かに迎え入れる。
(昔はもっと時間がかかってた気がする)昭裕は一人そう思い起こす。
「ここに侵入するんですね。高いなあ」
明日飛は三メートル程の高さがある校門を見上げていた。そのすぐ横に勝手口がある。侵入経路は勝手口の方だ。
「悪いね、こんなことに付き合わせて」
嫌なら止めても良いよ、とは言えなかった。今の昭裕にそこまでの余裕はない。
「ふむ、少年の言ってた通りだ。勝手口の鍵はカードだね。錠前もついてるけど、通電中にこっち使っちゃうと防犯システム作動しちゃうかな」
「えーと八年前と見かけ上は一緒に思えます。中身は一新されてるかもしれませんが」
「うん、だとしたらなおさら怖いね。安全策で行こう。ではでは、筑紫さん。これを付喪神にしてちょうだいな」
肩にかけていた小型のリュックをごそごそと漁り、跡切がキャッシュカードのようなものを明日飛に差し出す。印字はほとんどなく、片面が赤いだけのシンプルなカードだ。
「これは……なんでしょう?」
「万能鍵~。扱いに癖のあるものだけど、あなたの左手が加わればきっと大丈夫。開けた痕跡すら残さないはずよ」
「へえ、すごい」
明日飛が感心する。
(まあ、万能鍵なんてのは嘘だろうけど)
一方の昭裕はそう判断していた。四畳半探偵には相応しくない七つ道具だ。おそらく昔どこかで使われていた、引退済みの平凡なカードキーだろう。
(でも、開くわけなんだな。これが)
一分と少々後、三人は学校への侵入を成功させていた。防犯システムも作動していない。跡切の『ドアノブ』にセキュリティシステムを解除する機能はないらしく、明日飛の付喪神の力は必須だった。
三人はビオトープに難なくたどり着く。内部の隅っこで一塊になった。準備をしなくてはいけない。跡切は明日飛の背後に回り、リュックから取り出したヘッドライトを彼女に装着させている。
「少年。約束の物、其の二だ。筑紫さんへ渡したまえ」
「わかりました」
俺、あんまり役に立ってないなあ、と昭裕は少々忸怩たる思いを抱きながらA4用紙を一枚明日飛に差し出す。
「筑紫さん、これを見てください」
紙をスマートフォンのライトで照らす。そこには一本のシャープペンシルがカラーで印刷されていた。ペンの色はもちろんクロームだ。大学の情報処理室は日曜日で使用できなかったため、ネットカフェのパソコンで見つけ印刷してきた画像である。
「このペンを探すお手伝いをしたらよろしいのですね」
LEDライトに照らされた絵を見ながら、明日飛が呟く。
「でも、どうすれば? まだ何か秘密道具があったりします?」
「もちろんあるわ。じゃじゃーん。これよ」
跡切がL字型をした二本の太い針金を二人に見せつける。
(そ、それはもしや!?)
昭裕は息を呑んだ。針金の正体をすぐに見破っていた。
ダウジングロッドだ。間違いない。
はとこ伝来のトラウマの一つだった。昭裕は見ているだけで頭痛を起こしそうになる。
それは物探しの道具とされているが、その科学的な信頼性は『こっくりさん』と同レベルのものである。はとこと一緒に肥溜めに落ちた昭裕の過去がそれを証明していた。
跡切が熱心に大仰にダウジングロッドの説明をし出す。多分に法螺が混じっていたが、明日飛はコクコクと何度も頷いている。
(プラシーボ効果だね、こりゃ。全部事が済んだら、ちゃんとした説明をしておこう)
昭裕はそう誓った。心苦しいが、今は騙されてもらうしかない。
「では、行きます」
そうして似非探求者となった明日飛はロッドを持ってビオトープの中を徘徊し始めた。跡切と昭裕は目立たず邪魔にならないよう端っこでしゃがみこんで待機だ。二人の視界の中、ヘッドライトの微かな光が見え隠れする。
「上手く反応してくれるでしょうか?」
昭裕は明日飛の耳に届かぬように声を潜めて言った。
「大丈夫でしょ。待つしかないわね」
「まあ、カードキーも機能しましたしね。あれ、そこらにある既製品ですよね」
「あらら、ばれてたか。うん。あれは、今は影も形もない、とあるビルで使われてた何の変哲もないカードキーだ。謂わば、廃棄物だね」
「やっぱり。それはそうと、ちょっと不思議に思ってたことがあるんですが」
「うん、なんだい?」
「どうして筑紫さんの能力が『付喪神を作れる力』だとあの時一発で分かったんです? あの日、紙飛行機を事務所で飛ばした日が初対面だったのに」
昭裕がそう問いかけると、跡切はため息をついた。
「少年、ひょっとしてアタシを馬鹿にしてる? これでも探偵だよ」
「いや、そんなことは。気分を害したのなら、謝ります。すみません。でも他意は全くないんですよ、本当に。ただ、俺があの時最初に連想したのは、触れること無く、ものを動かす力。念動力とかテレキネシスと言うんでしたか。そういうものだったんです。筑紫さんが実はそういった能力を使って、紙飛行機を動かしたんじゃないかと。そう思ってしまったんです」
「ああ、なるほどね。理解したわ。ふむ、アタシもコンマ一秒くらいはそういった方面を検討したけどね、すぐに取り去ったよ。――うん、少年、あの子の第一印象はどうだった? どう思った?」
「そう……ですね。落ち着いていて、大人びた感じを受けましたよ。どこぞのはとこもああなってくれると良いんですが」
「フフン。それだ。それだよ。それが理解の障害になってるんだ。アタシにはあの子が緊張と焦りに支配されているように思えたね。ま、簡単に言えば、余裕がないってことだ。さて、今日の筑紫さん、この前と較べるとちょっとキャラが違わないかい?」
「……確かに。今日はなんだか明るい感じがします」
「それが普段の筑紫さんなんでしょう。ここまで言えば、答えが見えてきたかな?」
「……ええ、はい。わかります。理解できました」
昭裕は納得し、首肯した。助言に従い、仮定を変えてみると、事実に沿った解がすんなりと出てきたのだ。
「一応、言ってみなさいよ」
「いいですよ。つまりはこういうことでしょう。精神的に余裕のない念動力者があんな茶目っ気のある動きを紙飛行機にさせるわけがない」
紙飛行機は昭裕の鼻先を掠めるように飛んでいた。
「――故に、あの一連の動きは付喪神となった紙飛行機が独断で行ったこと。これでどうです?」
「うん、正解だ」
跡切が軽く笑う。
「所長さーん、伊東さーん」
明日飛が声を潜めて二人を呼ぶ。
「今、ロッドが勝手に動きました」
「お、早いね。五分も経たずに見つかるとは。よし、少年。スコップで手早くやっちゃおうか」
「はい」
こうして八年の時をかけ、昭裕の失せ物は彼の元に帰還した。




