Data 76. 南無阿弥陀仏
Data 76. 南無阿弥陀仏
「Iruka、くたばれッ!」
やはり、鷹司は強い。
俺の術は防がれ、着実に攻めて来る。
「あの時のようにはいかんぞ」
前回の戦いで、ヤツは俺の術の使用にブラフや連鎖がある事を知った。
自分への影響のある熱や寒波などは、魔力で防具を覆い対処。
俺の術を即座に打ち消すことで物理現象に繋がる連鎖を断ち切っている。
四天霊による力も使えない……このままでは……。
「……」
「どうした? 顔色が悪いぞ」
粘るんだ……。
好機は必ず来る……。
剣戟を交わす合間に隙を付かれ打撃を受ける。
ボディにブローを喰らい、なんとか体制を保ちコメカミに打ち込まれた拳を額で防御する。
脚へのローキックに盾による打撃。
時間がたつにつれて、詰将棋のように俺は追い込まれていく。
ヤツは俺より深く、そして広大に武術、格闘術に精通している。
それがヤツの強み。
だが……俺の強みは違う。
「終わりだ、Iruka。 入鹿 飛鳥馬……!」
きた……!
日の出前、世界の一面は穏やかな濃い蒼に染まる。
(天霊剣・玄冥)
蒼き氷の刃の色をより深く蒼に染め、周囲の色へと同化させる。
周囲の景色と同化した見えない刃は、鷹司の斬撃を防いだ。
ヤツは肉体を通した物理的な制圧術に長けている。
だが俺の強みは現象を実戦に活かすこと。
それは何も自分で起こすものだけではない。
自然に起きるものを利用し味方にする。
それができるのが俺のクリスシステム:色即是空・空即是色。
その能力の一部は、あらゆるものを変化させる力。
刃に加え、俺の躰を覆う防護服や防具を深淵の蒼に染めていく。
「小細工を……!」
俺の術や意図が防がれるのならば、生物であるヤツの視認性を惑わす。
前回は自ら起こした現象でそれを行ったが、今回は自然現象そのものを利用した。
いくら鷹司でも自然そのものを未然に防ぐ事はできなかったようだな。
深淵に飲まれたように姿を消し、ヤツを攪乱していく。
これが、俺が見出した希望。
ブルーモーメント。
夜明けの前、世界の一面を蒼く染める現象。
「……っ!?」
鷹司へ剣を投げ飛ばし、ヤツは不意に大きく目を見開きそれを防ぐ。
しかし、事前に組んでいた術が剣から発動し、雷を顕現させた。
その光によりヤツの目を眩せた。
暗闇に目が慣れたころ、強い光に人は適応できない。
その一瞬が、最大の隙を生み出す。
これが……世界の決めた選択。
諦めなかった俺たちの意思だ……!
(陰陽ノ式:破邪ノ陰雷)
「……」
終わった……。
鷹司は俺が続けて放った雷に浄化されたかのように消えていき、残影や周囲の魔物も夜明けと共に消えていく。
逢魔の災厄も、知らぬ間に生まれ絡まっていた因縁も。
終わったんだ……。
「飛鳥馬!」
真理愛が抱き着いてきて、仲間たちも周囲へと集まってくる。
その喜びを証明するように、俺たちの勝利がアナウンスされた。
【皆様のご尽力で、この世界は守られました】
俺達は……勝った。
そして勝利の果てに、俺たちの世界は……。
俺達の存在は……。
「Iruka。 どうするんだ?」
Sukuneが少し寂しそうに俺へと問う。
「俺は……」
俺は、この世界で生きている。
今まで違和感のあった痛み。
NPCに触れられること。
俺の感覚や意識は、次第にこの世界へと移っていた。
それを今日ここで感じることができた。
だけど大事なのは……誰かや何かを想う心が俺には、俺達にはある。
それが、俺達が存在する証だ。
「ここに、残るの? 何を選んだって、私達は後悔しない」
そう。
俺は奈瑠美さんに言われた通り、この世界に残る権利がある。
過去の英雄の遺伝子を持つ俺は、この世界に残り新たな指導者として新たな生を全うする権利が残されていると言っていた。
けど、俺は……。
「俺は、戻らない」
「……」
皆、そんな悲しそうな顔しないでくれ。
俺にはまだやる事がある。
「だけど、この世界にも残らないよ」
「え、それって……?」
……俺は心の中で皆に今までの礼を言って、別れを告げた。
前を向けば、光の差す空の柱から降り立たった存在が、新たな光の扉を開いていた。
「覚悟は、決まったようだね」
「行こう。 奈瑠美さん」
俺たちのいたまやかしの世界は、なくなるかもしれない。
だけど……俺たちの心はきっと、本物だったんだ。
「飛鳥馬!!」
「皆。 必ず、また会おう……約束だ」
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第四ノ求道。
道諦・是色ノ南無阿弥陀仏
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