Data 48. 改新の反撃
Data 48. 改新の反撃
俺はKazuraを討ち取った。
ヤツのアバターが消えていく。
「Kazura。 これで終わりだ」
おそらく、Kazuraは殺人装置をつけていないだろう。
だがそれでいい。
警察があのビルにきているはずだ。
ちゃんと捕まり、罪を償ってもらう。
ゲームだけで済ませておけばいいものを……。
これからきっと、わざわざ現実でも罪を犯した目的が判明するだろう。
「……」
Kazuraとの決着はついた。
後は逢魔の災厄を何とかしなければならない。
リリス。
逢魔の災厄の状況は分かるか?
<まだ状況は収まっていません。 おそらく、あの屋敷に何か秘密があります>
あそこか。
戦ううちに少し離れてしまった。
すぐに戻ろう。
俺はKazuraが待っていた古びた屋敷の前に戻り、その中へ入った。
<飛鳥馬さま。 2階に怪しげな反応があります>
これか、怪奇な電波を発してそうな特殊な機械。
スイッチを切り、その怪しい機械は動作が止まった。
<強化されていた魔物が元に戻りプレイヤーたちによって押し返されています>
これで、一難去ったか……。
<警戒を。 周囲へ貴方を狙う反応があります……後ろです!>
まさか、ヤツらの組織の人間か?
後ろを振りかえると、先ほど俺を追い詰めていた剣戟が再び襲い来る。
「裏をかくのは得意でも、かかれるのは苦手なようだな」
「くっ……!」
消える直前に、復活したのか?
あの時の俺と同じアイテムを……?
俺はなんとか躱し、窓を破り外へ着地した。
「……マジかよ」
周囲にはフードを被った謎のプレイヤーであろう存在達がいた。
おそらく、Kazuraの組織の人間達だ。
冷や汗が額へと滲む感覚と共に肝が冷える。
ここで負けたら、殺人装置が作動して……死ぬ……。
どうにか逃げ場を探していると、後ろの屋敷からKazuraも出てきた。
これは、流石にまずいな。
「貴様一人に俺が追いつめられるとはな。 計算外ではあったが、予想の範疇だ」
Kazura……。
もしもの時のために、俺に追い詰められた時の保険をかけていたのか……。
確実に勝ちを確信したKazuraの声色は、思惑通り狩りが成功したかのような愉快なものになっていた。
「増援を期待しても無駄だ。 今は逢魔の災厄を押し返す好機となっている。 こんな場所にわざわざくるもの好きはいないぞ」
「よく喋るな。 現実で追い詰められているのはお前の方だ。 大人しく身を引いた方が良いんじゃないか?」
……あの夜のように、ハッタリでヤツが引くことを期待するしかない。
しかし、俺の言葉がヤツのツボを突いたのか。
それは逆効果となりKazuraは不気味に笑い始める。
「何も知らないガキが。 お前は必要な犠牲だ。 大人しく死ね」
……ここまでか。
皆、ごめん。
俺は、最後の抵抗をしようと武器を構えた。
「……!?」
すると。
突如、属性魔法が撃ち込まれほとんどの敵プレイヤーがそれに巻き込まれる。
そして怯んだ敵プレイヤーを、素早い動きで走り回り確実に仕留めていく一人の仲間の姿があった。
「残りの敵は私にお任せを」
続けて、小さい体躯で勇ましく吠える子狼が走ってくる。
アルン……!
その後ろに、俺の他の仲間たちがついてきて姿を現した。
「Iruka! 助けに来たよ!!」
「Irukaくん。 君がくれた勇気を、今度は僕たちが返します……!」
Maria! Akiさん!
それにヒーくん……君は、翔だったのか……!
俺たちはKazuraと再戦し、仲間の協力もあってなんとかヤツを討ち取ることに成功した。
「今度こそ、終わりだ……」
「お前はまだ、何も知らない……」
「……」
「これで全てが終わると思っているなら、大間違いだ……」
いったい、こいつらの目的は……。
俺たちが知らないこととは、いったいなんなんだ?
<Kazuraの反応が消えていきます……。 今はもう心配ないでしょう>
リリス、ありがとう。
殺人装置は……ログアウトしても問題はないか?
<そちらは、私から手を出すことは難しいみたいです。 問題ない可能性が高いですが、念のため警察の救出を待った方が良いでしょう>
分かった。
リリス、君にも聞きたいことがある。
<それでは。 ティルナノーグでお待ちしています>
あぁ。
皆で、そっちに行くよ。
今まで側にいてくれたリリスの接続が離れていくような気がする。
Kazuraの消えていった虚空を見つめたあと皆の方へと振り返れば、一息吐き危機を脱したかのように安堵していた。
「皆、ありがとう。 どうしてここが分かったんだ?」
俺の疑問にMariaが一番に口を開く。
「前みたいに、知らない人から連絡があったの……。 Irukaの補助AIだって……補助AIなんて私たちには無いし、怪しいと思ったけど……」
そして、Mariaはアルンを見つめはじめた。
続けてヒーくんがアルンを抱え話し始めた。
「アルンが、一目散に駆けていったんです。 それで、きっとIrukaくんが一人で戦ってるって思って……」
なるほど。
補助AI……彼女が付いた嘘だろう。
きっとリリスは……AIではなかったんだ。
今回もやけに落ち着いていると思ったが、俺の知らないところで手を打ってくれていたんだろう。
そして、アルンもまた俺を助けてくれたみたいだな。
「サンキュー、アルン」
俺は足元に来た子狼を撫でた。
そうして、俺たちは過ぎ去った危機に一安心してるとプライベートの通信が入った。
宿祢か。
『飛鳥馬、やったな。 戦い見てたぜ。 こっちにはもう警察が来てる。 お前の殺人装置もオフになってるから、いつでも戻ってこい』
そうか……。
無事に、終わったんだな……。
こうして。
俺は一旦仲間たちに別れを告げてログアウトをした。
「……」
接続が途切れ、目を開いて暗闇が晴れる。
すると、凛とした女性警官に顔を覗き込まれていた。
彼女は、前に学校で事情聴取をしていた人だ。
「無事か? どこか体調が悪いところはないか?」
「は、はい。 無事です」
彼女は小さく笑った。
「そうか、やはり君は強いな。 しかし、今回ばかりは私も肝を冷やしたぞ」
初めて彼女と会った時、俺はどこかで会ったことがある気がしていた。
そして……彼女はおそらくゲーム内での俺を知っている。
整然とした振る舞いの彼女は偉い立場なのか、別の警官から何かの報告を受けている。
「紫雨警部。 怪しい隠し部屋を発見しました。 ここの主犯格はそこに閉じこもっているかもしれません」
「分かった。 その周辺を警戒し、数人の見張りを付けるんだ」
シグレ……彼女は、まさか。
「Sigさんですか?」
「今回の件が落ち着いたら君へ全て話そう。 今はゆっくり休むといい」
彼女は労うようにそう言って、別の現場へ向かっていく。
……終わったんだな。
βテストから俺が知らぬ間に生まれていた因縁は、腹の底に湧いていた不安を拭うようにして電脳の海へと溶けて消えていった。




