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誰があの子を殺したのか  作者: ロゼ


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12/23

木村理奈1

 秋山まりが死んだ。


 そのニュースは瞬く間に全国を駆け巡った。


「理奈ちゃん! 理奈ちゃん! ちょっと来て!」


 母が一階から大声を上げて私を呼んでいる。


 母が知りたいことなんてどうせ秋山まりのことだろう。


「はーい」


 極めて明るい声で返事をし、顔に笑顔を貼り付けて階段を下りた。


「何、ママ?」


「秋山まりさんって、理奈ちゃんのお友達?」


 目立つのが好きな母は、何が楽しいのか昔からPTAの役員を引き受けている。


 今だってPTA会長を嬉々として引き受けていて、学校で何か起きると化粧をしっかりして、服をあれこれ吟味していそいそと学校に出掛けていく。


 正直馬鹿なんじゃないかと思うけど、いい子の仮面を付けているうちは母は私に甘いため、母が望む「理奈」を演じている。


「秋山さん? 去年同じクラスだったけど、あんまり話したこともないからよく知らないよ? 秋山さんがどうかしたの?」


 秋山まりとは一年の時に同じクラスになった。


 大人しい性格で、だけどこんな田舎に馴染めるのかというくらい顔立ちが整っている子で、妙な存在感がある、そんな子だった。


「理奈ちゃんはまだ知らないのね。秋山さんね、亡くなったのよ」


 わざとらしく悲しげな顔をして秋山まりの死を告げる母に合わせて、私は大袈裟なほど驚いて見せた。


「嘘?! 秋山さんが?! 何で?」


「ほら、今ヘリコプターの音がしてるでしょ? この音ね、マスコミのヘリだと思うのよ。秋山さんね、学校のプールで水死体で見つかったそうなの。気の毒よね」


 そんなこと思ってないくせにと笑いたくなるのを堪える。


「そんな……嘘……怖い……」


 わざとらしく怯えて見せると、母は私を抱きしめたのだが、その感触に鳥肌が立ちそうだった。


「明日ね、学校がお休みになるの。ママ、PTA会長としてしっかり話を聞いてくるわ。理奈ちゃんは危ないからお家から出ないようにね。犯人が近くにいるかもしれないんだから」


「は、犯人?! え? 秋山さんって殺されたの?」


「そうなのよ……殺されるなんて、秋山さんは一体何をしたのかしら」


 今の世の中、何もしなくても殺されてしまう人間はたくさんいる。


 だけど母は殺される側にも問題があると考えるような人間だ。


 まるで、殺す側に理由さえあれば人を殺しても問題がないとでも言わんばかりに。


 昔、私は人をいじめていた。


 理由なんて何もなかった。ただ日常がつまらなかったから、それだけ。


 そのいじめが発覚して、学校で大問題になった時、本来ならば謝罪しなければならない立場である母は


「理奈を一方的に悪に仕立て上げるのはやめてください! いじめは確かに悪いことです、だから当然理奈が悪い。だけど、そこに至った経緯の中に、どうしようもない理由もあったはずです! その理由によってはいじめられた側の子にも落ち度があったかもしれない。それを解決しなければいけないと思うんです」


 そんな主張をした。


 小学生の私でも分かる、加害者側の身勝手な理屈。


 だけど母はそれを押し通した。


 謝る必要もない、被害者である側が加害者である我が家に頭を下げる。


 うちからの謝罪もあったものの、被害者からしてみたらそれは理不尽であり、到底納得できるものではなかったと思う。


 程なくしてその子達家族は転勤のため他県に引っ越していった。


 そして私は、ますますつまらない日々を送ることとなった。


 いじめをした子だということでそれまでいた友達は距離を取ってきて、表立って何も言ってこないけど、私の悪口を言っているのは知っていた。


 自分達もいじめに参加していたにも関わず、だ。


 いじめは私だけがやっていたことになっていて、私よりも楽しそうにいじめを行っていたその子達には何のお咎めもなかった。


 世界なんてくだらない。そう実感した瞬間でもあった。


 それからの私は、いじめたことを反省して心を入れ替えた子を演じることになった。


 家で母がうるさくなったからというのが一番の要因だったけど、反省している素振りを見せて、弱々しい「理奈」を演じていれば周囲が優しくなることを知ったから、という理由もあった。


 それを続けているうちに、私は「虫も殺さないいい子」というポジションを獲得していて、私が過去に人をいじめた経験があるなんて耳にしても、当時を知らない人達は「そんなの嘘!」と私を庇う。


 そのポジションは結構居心地がよく、私の悪口を言う人間を勝手に排除してくれる人まで現れて、私の目の前から不快な物が消えてくれる、そんなシステムまで出来上がっていた。


「無理して笑う必要なんてないのに」


 そんな私に、秋山まりはそう言った。


 全部を見透かしたような目は私の心の内をしっかり捉えているようで薄気味悪かった。


「無理してないよ? どうしてそんなこと言うの?」


 唾を吐きたいのを我慢してそう言い微笑むと、秋山まりはすぐに興味がなさそうな顔をした。


「思い違いならいいの。ごめんね」


 その日から私は秋山まりが大嫌いだ。


 死んだというニュースを見た時、真っ先に「ざまぁみろ」と思った。


 すました顔をして、人の心を見透かしたような態度を取っているからそんな目に遭うんだ。


 だけど何でだろう?


「あれ?」


 私の目からは涙が溢れていた。


 心がギュッと締め付けられるように痛い。


「何で……」


 自分の気持ちが分からない。


 だけど胸が苦しくて仕方がない。


 あの日から私はいつだって秋山まりの視線を気にしていた。


 また声を掛けられても堂々と笑っていられるように、そればかり考えていた。


 もうあの視線が私を映すことはない。


 その事実が何故かとても苦しくて、涙はしばらく止まることを知らなかった。

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