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誰があの子を殺したのか  作者: ロゼ


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11/23

井上陽介1

 秋山まりが死んだ。


 同じ高校でバイト先が同じだった俺はそのニュースに釘付けになった。


 彼女の遺体はプールで発見されたらしい。


『残忍な事件が起きました!』


 真剣な顔をした女性リポーターが事件の詳細を手元のメモを見ながら告げている。


 そのせいなのか、学校からほど近いところにある俺の家の上空にはヘリコプターが何台も飛んでいるし、外もやたらと騒がしい。


 俺は秋山まりが好きだった。


 珍しく他県から入学してきた彼女は、静かというよりは人目を気にして存在感をわざと消しているようなやつだった。


 だけど、この辺にはいないような不思議な雰囲気をまとっていて、うつむきがちだから誰も気づいていないようだったけどかなり美人な部類に入る。


 小柄な体だけど膨らむところはしっかりと膨らんでいて、スタイルもかなりいい。


 何よりショートカットがよく似合っていた。


 秋山まりがバイトをしているのを知ったのは割とすぐのことで、俺は彼女に近づくために同じところでバイトを始めた。


 シフトをずらされてしまったけど、週に一度は一緒になったから、仲良くなろうと積極的に声をかけた。


「私と話すより他の子と話した方が楽しいと思うけど」


 そんなことを言われたけど、「楽しいかどうかを決めるのは俺だ」と言ったら、一瞬驚いた顔をされたけど、すぐに笑顔を見せてくれた。


 その笑顔に再び恋に落ちてしまった。


 秋山まりは話せば話すほど頭のよさを感じる子で、これまで身近にいた女達とは全く違っていた。


 人と見ている観点が違うというか、物事の捉え方が独特というのか、俺の世界を広げてくれるような存在だった。


「この前ね、『昆虫は地球外生命体である』って都市伝説を聞いたの」


 バイト終わり、帰る方向が一緒なため、シフトが同じ日は途中まで一緒に帰ることが多くなり、よく話すようになった頃、秋山はそんなことを言い出した。


「え? そうなん?」


「本当かどうかなんて分かんないけどね。でも、そうだとしたら面白いよね」


「まぁ、想像力は膨らむかも」


「虫の総数って人間よりも圧倒的に多いでしょ? 虫が地球外生命体なら、実は地球は地球外生命体に既に乗っ取られてるってことにもならない?」


「いやいや、それは言い過ぎじゃね? 虫の影響力なんてたかが知れてるし」


「そうでもないよ? イナゴの大群が襲ってきて食糧危機になる地域だってあるし、その気になればいつだって虫は人間を脅かす存在になりうるのにそれをしてないだけとも考えられるし」


 すごいことを考えるな、と思った。


 他のやつがそんな話をしてきても「ふーん、で?」で終わるとしか思えないのに、秋山と話していると想像がどんどん膨らんでいく。


 いつもなら俺んちと秋山んちの方へ伸びる分かれ道ですぐに別れるのに、その日はそこで一時間近く立ち話をした。


 二年になり、クラスは別になったけど、秋山とはバイトで会う日は一緒に帰り、あれこれ話をした。


 学校では大人しく、いつも一緒にいる長野以外とは楽しそうに話す姿なんて見たことがなかったけど、実際はこんなふうに明るく話せるやつだって分かって、それが自分だけが知っていることだと思うとちょっと優越感もあったと思う。


 学校を休むようになり、バイトにもあまり顔を出さなくなったが、たまに会えると普段と変わらず明るく話をする秋山だったのに……。


 最後に秋山に会ったのは、事件の二日前。


 その日も変わらない姿でバイトをし、いつもと同じように話をして別れた。


 あの日も事件の日みたいにチラチラと雪が降っていて、秋山が「こっちは雪が降っても積もらないからいいね」と言っていたのを覚えている。


「愛田は雪が積もるの?」


「すっごいよ、一面真っ白になる。例えばね、手袋を落としたとするでしょ? で、家に帰ってから気づく。慌てて探しに行ってもね、どこにも見つからないの。で、雪が溶けると出てくるんだよ、デロッデロで」


「それってもう使い物にならないんじゃねぇの?」


「そうなんだよねー。だからね、雪の日に落し物なんてできないんだよ。でもこっちじゃすぐに見つかる。すごいと思わない?」


 正直何がすごいのかは分からなかったけど、そんなことを大真面目に話す秋山が可愛いと思った。


「気をつけて帰れよな」


「何をよ? じゃあね」


 それが秋山と交わした最後の言葉になるなんて、あの時の俺は思ってもいなかった。


「ねぇ? あのニュースの子ってあんたの同級生でしょ? 何か事件に巻き込まれるような子だったの?」


 三つ年上の姉貴が勝手に俺の部屋に入ってきてそう尋ねた。


「……普通の子だったよ」


 姉貴の顔を見ずにそう答えた。


「でもさ、それならこんな事件なんて起きないよね? 他県から来た子でしょ? 訳ありってやつ?」


「……姉貴に、姉貴に秋山の何が分かるんだよ!」


「え? ヤダ、ちょっと何?」


「勝手なことばっか言ってんじゃねぇよ!」


 姉貴を部屋から追い出すと、その場にしゃがみ込んだ。


 何も知らないのは俺も同じだった。


 他のやつらより少しだけ秋山のことを知っている気になっていたけど、実際のところは何も知らない。


 時々見せていた仄暗い表情で何を考えていたのか、学校やバイト先から離れた秋山がどんなことをして過ごしていたのか、俺は何も知らない。


「何も知らねぇよ……」


 知っていたら、知ろうとしていたら、何かが変わっていただろうか?


 最後に見た秋山には何か困ったことが起きていたとして、それを相談してくれる間柄になれていただろうか?


 俺は秋山まりが好きだった。


 確かに彼女に恋をしていた。


 だけど、少しずつ距離を縮めていくことしかしなかったし、できなかった。


 秋山は何故死ななければならなかったのだろう?


 殺されるほどの何かがあったんだろうか?


 考えてみたところで何も分からない。


 ただ、最後に見た彼女の笑顔だけが、目を閉じると鮮明に浮かび上がってきて、知らないうちに涙がこぼれていた。




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