第28話 深淵、真紅との約束。
本当はQ組18人だったんですけど、急に2人もキャラが思いついて急遽話にねじねじしました。なので一部過去の話が修正されています。
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【悟川心冶】
彼岸花が延々と続く世界。押入れの奥に潜んでいた。誰も気が付かなかった。きっと後付けで生まれた場所だけど。そしてその真っ赤な世界で、僕の前に1人誰かが立っていた。彼岸花よりもどす黒い赤色を身にまとって、だいたいでしか人の形を把握できない幽霊みたいな化物。見た目も赤と黒の色彩の主張が激しく、細かな部分が認識できない。ただ化物の体は血のような鎧に僕はそう見えている。悪く言えば肉塊の見た目で。
「っ?」
赤い何かのおかげか、僕の頭痛は引いていた。黒い化物を見せないように遮蔽物になっているおかげなの……かも。
ルナ『きゅう…』
「ルナ?」
ルナが弱弱しくないている。この押入れの世界に来るまでは元気な声だったはず。ルナが衰弱するほど僕も衰弱する。そう気が付けば、自分の両足が全く立っていないことが今分かった。ツーと鼻から血が流れていることも。
「…??」
ルナ『きゅう、きゅうわ…』
「分かってるけど…あ、足、なんも…」
ルナが僕に話しかけてくる。もう咄嗟に変化した武器の姿も保てていない。自分がとんでもない程追い込まれているって分かっているはずなのに、体が全くもって動かない。一切この指一つも満足に動かせないし、もう頭を上に向けない。
本当にここでくたばるんじゃないかって、頭に否が応でも未来図が浮かんでくる。
「ねぇ、生きて。お願い」
『きゅ…う』
××『くたばっちゃダメだ』
「!」
知らない声が聞こえた。知らない。でも、初めて聞いた声ではなかった。何故か何となくこの声が、頼っていいと心の中で訴えてくる。真っ赤な何かが、前も後ろも認識できないのにこっちを向いて話しかけているんだ。
××『僕が君を元の場所に帰す。君のことを守る』
「……」
××『…声が聞こえるってことは混じり合い始めてるね。そのままだったら君は二度と戻れなくなる』
「あ、えと…」
××『”約束しよう”。僕は君を助ける。だから、いつか僕のことを』
××『_______』
「!」
××『忘れないでね』
僕は真っ赤な彼と約束を結んだ。結ばれた。目の瞬きを2、3回した後、僕の視界にはいつもの部屋が映っていた。点滅して赤から床の木の色に、移り変わった。赤黒い彼が微笑んでいた優しい声が耳に残っている。頭が追い付かない。僕はへたり込んで自分の部屋の床に仰向けで寝転がる。
鼻血はまだ少しだけ流れてる。ルナは僕の腹の上で気弱に寝込んでいる。
「一体何だったんだろ…あれ」
精神を使いすぎたのか、僕は体の疲れがどっと溢れて眠気が襲ってきた。後のことは起きてから整理しよう。気を抜かないと苦しさが残るから今は寝よう。
僕は睡魔に身を任せ、床に寝転がって眠りに落ちた。
◆
起きたのは父さんに揺さぶられた時だった。
悟川父「心!大丈夫!!?」
「あ、ろ、父さん」
父さん凄い青い顔してる。そりゃあ、自分の子供が床で鼻血出して寝てたら怖いよね。悲しませてしまったことに僕は罪悪感で苛まれる。
悟川父「もう!帰ってきたら、本当…もう…」
「心配かけてごめん。ちょっと変な夢を見てただけ」
悟川父「……それって彼岸花にかこまれた夢か」
「何で分かるの!?」
夢って誤魔化したのに、悪夢なんて色々あるのに、ピンポイントで自分が味わった変な夢の見た物を当てられた。さっきまで心配してた顔から、少し強張った表情をしてる。いつも優しい表情で穏やかな父さんからは想像できない。
悟川父「それは心の母さんも見た夢だよ」
「母さんも?」
悟川父「小さい頃から見ていたみたいでね。結婚してからも心が生まれてからも定期的にその夢を見ては、泣いて僕のところに来てたよ。相当怖い悪夢みたいで、一晩中一緒にいるのが僕の役目だったね。どんな夢?って聞けば、”彼岸花が沢山咲いてる場所にいて、真っ黒な誰かが自分の命を狙ってくる”って」
「僕がさっき見たのと一緒…」
悟川父「怖かった?」
「…うん」
もう父さんに素直に泣きつくことはできなくなったけど、怖かったのは本当だし、今でもあの化物の殺意と嫌でも頭にくる頭痛は思い出せる。自分の体が動かなくなって、ルナも自分も誰だが分からなくなって何もかもぐちゃぐちゃになった。項垂れてる僕を見ていたのか、父さんは頭を撫でてきた。優しい優しい温かい手が、僕の頭を撫でている。
でも、怖いあの世界に謎の人がいた。真っ黒な化物以外にも、赤黒い人型の誰かが。彼のおかげで僕は元の場所に帰れたと言っても過言じゃない。化物を遮るの壁になってくれたりもした。代わりに約束をしたけど…果たせるのかな?
「ねえ父さん」
悟川父「何だい?」
「母さんは真っ黒の化物以外も見てたのかな」
悟川父「いや、特にそんなことは言ってなかったね。黒い化物と紅い彼岸花。それだけ」
「そうなんだ…」
どうやら母さんは、僕と違って赤黒いあの人を見て無かったみたいだ。何で逆に僕のところに来たんだろ。母さんと同じ夢を見たっていう事実も驚きだけど。あの夢が原因で母さんはいなくなったのかな。多分僕よりずっと早くから見てて、そして大人になっても見ているのは流石に精神的に参っても仕方がない。
悟川父「疲れたでしょ。僕が晩御飯作るから心はゆっくりしててね」
そう言って父さんは先に部屋を出て一階に行った。晩御飯何かな。
「ありがとう父さん。ルナ?起きて」
ルナ『む、むきゅう…』
「現実に戻ってこれたんだよ」
ルナ『きゅう?きゅ、むきゅう!!』
ルナに声をかければ、ゆっくりと目を覚ました。元の場所に帰ってこれたのが分かったのが、ルナは僕の手で凄く跳ねて喜んでいた。
「ルナ、ちょっと大きくなった?今別に小さくなってないよね?」
ルナ『きゅ?きゅ、きゅう!』
若干だけどルナが大きくなった気がする。今まで最大の大きさがミニ達磨というか、テニスボール位の大きさだった。手で全身を包めるくらいのフィット感だった。でも今握ってるけど、手で全部収まらない。野球ボール並みの大きさになってる。ルナも自分が大きくなったのに気づいたみたいだ。ちょっとかわいい。相変わらず目は開いていないけど。
そう言えば、あの花だらけの世界と似たような場所行ったことある気がする。確か体育祭の決勝戦の時に、羽海君から竜の化物が出てきて、羽海君を助けてあの2人に助けてもらって、落ちたあの先の世界。オレンジ色の花が咲き乱れていたあの世界。もしかして性質的に同じような場所の可能性が…?僕は羽海君たちと着いたあの世界を、羽海君の精神世界だと思ってる。だとしたら、あの彼岸花の世界は誰の精神世界…?
◇
[父]
「癒唯。心も同じ夢を見たって。君が危惧していた通りにね」
「君の家のこと何も分からないから、心にどうアドバイスすれば良いのか分からないけど。僕は君がまた帰ってくるまで、死ぬまであの子の父親でいるから」
「だから君も、心のこと見守っててね」
誰もいないリビングで呟いちゃうなんてね。癒唯が今でもここにいるみたいに錯覚してるのかな。いなくなって早10年近く経ってるけど、それは心と癒唯、どっちの命も守る為。分かってるけど、でも一人で子育てをするのは大変だったよ。母さん居ないって5歳の心には辛い思いさせちゃったし。
癒唯『絶対また帰ってくるから』
確証もない約束に、僕はまだ依存してる。
悟川敬一:男・39歳・178cm・9月22日生まれ
【能力】無し
主人公の父親。ちょっと気弱で優しい穏やかな人。怒るのはあまり得意ではない。母親が自分達からいなくなるのは了承していた。癒唯がどういった経歴でどういった家系なのかは存じ上げないが、初めて会った時に助けなければ!と正義感が働きそのままゴールインした。体育祭はずっと死にかけていた。息子が怪我をあまり気にしないタイプだとしても、内心びくびくしていた。
【好物】きつねうどん・水族館(癒唯とのデートの思い出)・家族
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