★第27話 押入れの世界
長らくお待たせいたしました。本当の新3章開幕です。
結構修正(2025/07/16)
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【悟川心冶】
そろそろ期末試験。筆記の方はもう課題を片っ端から片づけてるけど、問題なのは特殊科にのみ課された実技試験の方だ。どんなお題やら何やら課されるのか見当もつかない。禍福課になる為なら、何人かで協力をするのもあるけど。僕は悶々と考えながら寮の1階リビングのソファに座る。
釣瓶「なーに辛気臭い顔してんだ?」
「あ、燈爾君。今試験のこと考えてて…」
釣瓶「だったらまた特訓組んだ方が良いんじゃないか?R組の連中も手伝ってくれるだろ」
「それも良いんだけど。もうちょっとパンチが欲しい…」
釣瓶「パンチ?」
言葉にするのが難しいけど、クラスメイトやR組の人たちと戦うのももちろん有益なこと。だけど、大人とかもっと面識のない人と戦ったら経験が積めそうな気がするんだけどな…。
釣瓶「ちなみに明日から三連休だけど、心冶は何かすんの?」
「えーっと、一回家に帰ろうかなって。父さんの顔見たいし。燈爾君は?」
釣瓶「俺は家族旅行。兄貴も一緒」
「へー!良いじゃん。何処に行くの?」
釣瓶「山口。何かめっちゃ海鮮料理が上手い店があるからそこ行きたいって」
「いいなあ。僕もいつかは遠いところに旅行に行きたいかも」
釣瓶「あんまり行ったこと無いのか?」
「うん。父さんだいたい忙しいし、母さんはいないし、僕も地元の施設で楽しんでるから…。映画館に一番よく行ってたかな~」
釣瓶「映画よく見るよなー」
「面白い作品に出合えるからね。外れもあるけど」
多白「あら悟川さん。映画鑑賞がご趣味でなさって?」
不意に後ろから声をかけられた。雪の様に白色の肌と髪の多白さんだ。確か多白さんは超が付く程映画やアニメ鑑賞しているって小神さんから聞いた。家から映写機やらを運んでくるほどだから筋金入りみたい。
多白「そうですわ。こちらのアニメDVDお貸しいたします」
「DVD…あ、これ懐かしい」
釣瓶「あー昔ちょっとだけ見たことあるわ」
多白「はい。私達は小学生頃にやっていた教育アニメ【ミルキー星のカペラ君☆】ですわ」
「でも何でこれをチョイスに?」
多白「たまたま全巻持っていて、久しぶりに見ましたの。小学生で見た時よりも話の複雑さや世界観の奥深さがたまりませんでしたの。是非、このワクワクを共有したいと」
「ありがとう。そんなに奥深いものなんだ。じゃあこの三連休でじっくり見ようかな」
多白「ええ。是非とも感想お聞かせてくださいまし」
僕は多白さんから、小学生の時に見ていた教育アニメのDVDを貸してもらった。
公共放送で流れた子供向けの【ミルキー星のカペラ君☆】は、タイトルの通りミルキー星に住むカペラ君を主人公に、星に住むお友達と色々な冒険や日常を送るもの。一度ネットで見た時に、何やら話題になってたりコアなファンが結構多いで有名だけど、詳しくは知らないし憶えていない。
僕が一番このアニメで印象的だったのは、陸に住むミルキー族と海に住むタコダッタ族の話だった。長命で悪いことを忘れやすいミルキー族と、短命で繁栄を繰り広げるタコダッタ族が、仲良くなる為の話し合いやパーティをした話。それも多分収録されてるはずだし、一日向こうで過ごしたらすぐに寮に戻って見なきゃ。
僕は貸してもらったDVDを自分の部屋の机に置き、明日に備えてすぐに寝た。あと意外とDVDがあって落とさないように気を遣ったなー。まさか10巻もDVDがあるなんて結構凄いのでは?
◆
空は快晴。5月を超えた6月は湿気が強く気温も凄く暑い。何故祝日の無い6月に三連休だって?それは月曜日に創立記念日があるから福禍高校はお休みなのである。学生は部活でもない限り土日は基本的に休めるのでありがたい。
僕は熱中症対策を施して、自分の家に向かって行った。所々で蝉が鳴き始めている。じめじめした空気は扇風機が無いと汗で熱が籠ってしょうがない。電車を使いぱぱっと家からの最寄り駅に降り、歩いて家に向かう。静けた住宅街が1ヵ月近く離れただけなのにとても懐かしく感じる。家の鍵を開け階段を上がる。
「ただいまー」
返事は無い。父さんに事前に連絡をとったら、いつも通り6時か7時くらいに帰るって返信が来た。母さんが失踪してから男手一つで僕を育ててくれた。ちょっと気弱だけど優しい僕の父さん。
「(父の日にはカーネーション送ろうかな…)」
ルナ『きゅーう』
「あ、ルナ…もう」
ルナも懐かしい家に戻ったことに気づいてポケットから出てきてははしゃいでいる。久しぶりに自分の部屋に入れば、あまり物が無くて、それでも綺麗な部屋だった。父さんが掃除してくれたのかな。
「それにしても暑いなー。ルナ、エアコンつけて」
ルナ『きゅ』ピッ
「はーっ…夏でも首元隠さないといけないの大変だよ本当。包帯巻いてるけど汗でかぶれるんだよなー」
僕の首には幼い時から消えない傷がある。物理的なモノ。それがどんな傷かと言われれば、ただ首一周に赤い線のようなものがあるだけ。まるで首を人質にとられて生死を握られているかのような傷。鏡を見る度に少し怖くて仕方がない。
ガタッ
「!」
どこからか物が鳴らす音が聞こえた。音の先は多分この部屋にあるあの押入れ(というかクローゼット)。よく中学時代はブレザーとか冬用のコートとかジャンパーを入れてる場所。あとは扇風機とか冬用の布団だけ。何か物が鳴るようなのは入れてないはず。
僕は恐る恐るその押入れのノブに手をかける。ルナも興味津々に僕の肩に乗って見ている。勢いよく開ければそこは真っ暗で何も見えなかった。本当に真っ暗。
「何も無い」
上にあるはずの棚も、その棚に置いてある布団も、扇風機も姿かたちが一切ない。本当に真っ暗で真っ黒な何も無い世界が広がっていた。自分の部屋の押入れが、こんな異常現象を見せているなんて信じられない。
「これ、連絡とか通報した方が良いよね」
ルナ『きゅう』
「よしスマホ…あ、あれ?」
スマホはネットが繋がっているはずの家で圏外を映していた。インターネットも繋がるはずのこの家で、連絡手段を切られるなんて普通じゃない。この場を離れた方が良いんじゃ…
ルナ『きゅうう』
「え、行くの?」
ルナ『きゅ!』
「守るって言ったって、ルナを使うのは僕だし。え?守られてる?何を言ってるの?」
ルナの話はよく分からないけど、行けって言われるならまあ試したいとは思う。こんな危険な好奇心に従うなんて絶対良くないはずなのに。よし、最悪ルナに罪を擦り付けよう。
ルナ『きゅきゅう!?』
◆
押入れの奥は全くもって光の入らない闇の世界。自分の持ってるスマホで明かりを照らしつつ、闇の世界の奥へ僕は恐る恐る足を踏み入れる。分かれ道などは無く、ただ一本道が人一人分の横幅で続いている。怖くて堪らないけど、ルナの異様なほどの気迫と自分の奥底にある未知への好奇心が、嫌に合って引くに引けない状態が続いている。
「怖い…」
ルナ『むきゅきゅ』
「ホラー映画は架空のものだったりするんだから良いんだよ。呪いなんてそう簡単に遭遇するものじゃないし…」
ルナ『むきゅ』
「早く原因か何か見つけてダッシュで帰ろう…ルナもそれでいいよね?」
ルナはコクリと頷く。早く帰りたい。帰ってすぐに通報しないとダメだ。普通人の家の押入れにこんな長い道が続いてるはずがない。罠かもしれないし、誰かが結界みたいなものを張ったのかもしれないし、迂闊に入ってる時点で禍福課になる身としてはダメな行動だけど…
暗い道を明るく照らして進んでいけば、数分として何処かひらけた場所に辿り着いた。まだ暗闇が広がっているけれど、段々と視界が明るくなってくる。肉眼でも奥がしっかりと認識できる。
「わぁ…!」
明るくなった世界で僕の目に映ったのは、一面に咲き乱れる赤色の花畑だった。この花の名前は知ってる。たまに草むらの何処かで咲いてる彼岸花だ。押入れの先でこんな水平線まで続いてる花畑があるなんてありえない。今までの僕だって何回か扉を開けたけど、こんな先があるなんて知らなかった。
でも、花畑が広がっているのに僕には既視感があった。体育祭で真の羽海君と出会った場所も、よく分からない穴の先で、延々と橙色の花畑が続いていた。これも似たようなものなのかもしれない。花畑がずっと続く世界を2回も僕は味わってるってことになる。
「(あの花畑世界を僕は”扉の先にある異世界”だと思ってた。もしかしたらここもそれと同じ系統の異世界かもしれない。じゃあ、引き金は押入れの扉ってことなのかな…)」
ルナ『むー!』
その先へと進んでいくと、何か小さな祠らしきものが見えた。恐る恐る近づくと、何か黒いものを祀っていた。形は丸く金属の装飾が施されてる棒が痛々しく突き刺さっている。祠の壁周りは紙や何かを貫通して打ち付けられてる。とても触りたいとは思えない。あの花畑には無かったものだ。この祠がとても異質で不気味に感じる。
「何かこの黒いものルナに形似てるね。とても痛そうだけど…」
ルナ『んきゅきゅう…』
「え?ルナと同じ?じゃあこれって…っ!!?」
僕は言葉を最後まで紡ぐ前に、祠から勢いよく飛び跳ねて距離をとった。いつの間にかルナを武器に変形させて臨時戦闘態勢を取っていた。無自覚に身に沁みついていた?違う、これはあくまで死への恐れで防衛本能が働いただけだ。
僕がさっきまでいた場所の少し後ろに、真っ黒な布をまとった2mを超える化物がいた。もし判断が遅かったら最悪僕は死んでいたのかもしれない。
??「オオオオ…アアアオオオオオ…」
「……」
ルナ『むきゅ!?』
化物のうめき声が聞こえてくる。声が聞こえてくる。心の奥底から何かを憎んでいる声が。
その声に気づいた瞬間だったのか、急に頭が激しく痛みを訴えだした。何故か頭の底からガンガンと鈍器で殴りつけているようなとにかく激痛が走り出している。まともに立つ姿勢を維持できない。グラグラと視界が歪んで点滅している。吐き気も同時にこみあげてきて気分の悪さが、体中を駆け巡ってしょうがない。こうして何か考えていないと気絶でもしてしまいそうだ。
少なくとも偽の羽海君の嫉妬を読んだ時よりずっとずっとヤバい!数倍どころじゃない!痛すぎる!ルナも効いているのか槍の体を震わせている。僕はどうにか立ち続ける為にルナを地面に突き刺して耐える。
??「アオアアオ?ワワワ、アアオオアイオ?」
「…ち、近づくな!」
何か呻いているけど憎しみの声が強すぎて分からない。ひたすらにこの世を呪って、人を呪って、全てを呪ってる。嫌いだ、苦しい、哀しい、愛して、愛さないで、殺して、殺さないで、あらゆる声が反響して頭痛が鳴りやまない。まだお母さんに会えていないのに、こんなところで死ぬなんて絶対ヤダ!
??「もうやめてあげて」
「!」
優しい声が見えないどこからか聞こえてきた。不思議と頭の痛みが引いた。目を開けば揺れない視界に入るのは真っ赤な人型の化物だった。砂嵐の様に揺れていて刀を携えているのが分かる。立ち姿はどことなく先生に似てるけど背は小さいし大人の体型とは思えない。
「…だ、だれですか?」
糸居時雨:男・15歳・160cm・7月30日生まれ・【一人称】:僕・【出身地】:茨城県
【能力】:糸を操るなどの能力(手か口から糸を出せる能力。糸はかなり伸縮性あって丈夫)
Q組の1番。物静かでどちらかというと臆病な性格・頭が良く理系に関しては中々のもの。大田君や牛視君、傘木君と一緒にどっちかというと陰キャ組を結成している。音楽が好きでギターが上手い。
【好物】:おでんの春雨・音楽を聴くこと・漫画を読むこと・映画は海外のが好き・ギター弾くこと




