表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Cocytus  作者: みらい
49/50

第二話


 目を瞑り、うっとりと喋る紫蘭とは他所にイザベラがぽかんとして聞いているとどうやら敵が憎いと言っているより「おしいな」と賛美しているらしい。どんどんミゼーア絡みで饒舌になり始める紫蘭。おかげで先程の気まずさもなくなっていた。

 聞いていた黒いタール状のスライムが、「好き」と言わんばかりに手を繋ぐ様に紫蘭の白い陶器のような腕に絡む。


 イザベラはなついてるんだなと思いつつ、その説明にちょっとビックリしながら、「そ、そうですね?」と、後の方の話がおかしくなっていったのを特に突っ込まず賛同した。


「ペアで聖杯と……、過去に適当な市場で買ってそれで酒を嗜んでいたんだ。しかし今となってはそれが逸品、宝と呼ばれるのも中々むず痒いが嬉しいと思うのだ」

 イザベラが同意した事により、「それに……」と上機嫌に語り始めた。その内容は奥さんの方の家で同棲したり当時の帝国の紫蘭自身の屋敷で出迎えた時の話だった。イザベラがそのまま「そ、そうなんですね」と相槌を打ちながらこの人こんな喋る人なのかとかほっとくとずっと喋ってくれそうとか本人には到底言えない失礼なことを思っていた。また、イザベラも歴史などが好きなため長く生きているらしい紫蘭のその会話は嫌いじゃなかったのでそのまま聞いていた。


 その会話が済むと「この辺りからはその自治区だから注意していこう」と紫蘭も喋り倒してからつっかえが取れたのかイザベラに忠告する。紫蘭の観察が一通り終わったらしく「こっちに行こう」と二又となっている道の片方を指差し伝える。

 

「はっ、……はい!」と、返事してからなんとなく敬礼する。それに苦笑する紫蘭。

 紫蘭が療養中の頃。任務中など前も補助してくれる人がいた。しかし初回以降ほぼ一人になっていた。だからイザベラは一人より二人が落ち着くなと一人で任務を寂しくこなしていた頃をしみじみ思い出す。何か言いたいのか黒瑪瑙(オニキス)のような光沢をしたスライムがイザベラの肩に乗る。「えへへ……」とふわりと笑う。

 

 歩みを進めて行くと青の木々がだんだんと魔石の木のようになっていく。そこを抜けると地面が灰色の空の代わりに瑠璃に輝いていた。まだ活気のあった当時を地だけは覚えているかのように灰簾石(ゾイサイト)が光彩陸離としている。まるで海底。または星河の様。廃墟群だというのに、地面のおかげか全く廃れた街だと言う気がしない。再びイザベラは「はわ……」とそのスライムと共に暮相(くれあい)色の目を輝かせていた。そんな情景には特に目もくれず紫蘭が再び語りだす。


「そう。あれを購入したのは……――」


 また語り始めようとして付近の廃屋に目を向ける。布を被った二人組がその物陰から飛び出してきた。同時に投げナイフを飛ばしてきたが、紫蘭は後ろに飛び躱す。若干足の鎧に掠ったようでカンという軽い音だけ聞こえた。「わ! しらんさん」と肩に乗せたスライムと共に焦る。戦闘はあまり得意ではないが少しだけ親族や助っ人から教わっていたのでちゃんと狙いを定める。

 そしてこっそり指に切り傷をつけて「いけっ! 風矢よ」と血を呟き矢のように放った。模擬練習でやってはいたが、どうしても殺傷に抵抗があったので追尾系で捉えて、壁に縫い付ける。

「ほう……」

「だ、大丈夫でしたか?」

 駆け寄るイザベラと今度は紫蘭の肩に飛び乗るスライム。彼らのそれに大丈夫だと微笑んで肯定する。「見かけによらんな」と紫蘭なりに誉めてあげる。そしてスライムに「向こうに行かせろ」という風に顎で合図して二人で適当に散策させる。「??」というイザベラを差し置いてスライムがイザベラを連れていこうとする。

 多分他人を傷つけるのは不得意なんだろうと察した紫蘭なりの気遣いだったが「尋問ですよね? ぼく、見てます」と腰に手を当てる。ドヤ顔からは頼りがいがあるような無いような感じがして紫蘭は苦笑する。「それならいい」と彼らに向き合う。

「いうことはない」と片方が言う。この二人が同じ服装。恐らく窃盗をした同じ組織だと踏んでいたため聞き出すつもりでいた。


「さて……。おまえたち帝都から何かを運ばなかったか?」


 掌から氷のダーツの矢を作り上げる。そして張り付けられた盗賊らしき二人に向かって投げる。足、腕、肩……と傷付かないぎりぎりを狙っていく。「ひっ」と引き攣る声が聞こえ、続けて後方から「ひええ」とイザベラが感情移入したのか悲鳴をあげる。

 紫蘭がちらっと振り向くと彼女がイザベラの目を覆うように隠していた。しっかり隙間は開いているので意味はないそれに苦笑して前を向く。そして「人数は? 拠点は?」と聞いていく。「咲け冰棘」と言うとその投げた氷のダーツを起点に蔦が彼らに絡まり始める。それを見てしまい体をくねらせてどうにか脱走しようとしているようだが蔦から出てきた棘で擦過傷をつけるだけ。

「くっ……」と渋る彼ら。その間にも彼らから紅葉を咲かせ、氷幹が締め付ける。雪飘が紫蘭に遠くの敵を伝えてくる。早急にこいつらの後始末をと思い更に彼らを痛めつける。


「吐いた方がはやいのだがな……」

「ア!! 待って! くださいっ」


 痺れを切らすのが早い紫蘭に「早すぎるよ」とツッコミを入れる。紫蘭はそれに「付近にも数十名うろついている者がいるから早急に始末を……」とここも安全じゃないことを隣に来たイザベラへと耳打ちする。それに彼は「じゃ、潜入しようよ」と嬉しそうに提案する。「それもありだな」と自分一人では全員凍結させたらいいがイザベラもいるならと考えを募らせていたので紫蘭としては助かる提案だった。早速とイザベラが近寄って腰のポシェットから球を取り出し火をつけて「えい」と彼らに投げる。

 どうやら催眠粉末球のようで彼ら中心に拡散していく。即効性があるようでくた……と頭を垂れる。それを確認してからぱちんと指を鳴らして氷幹を解かしていく。そして廃屋に入って、黒めの装束にターバンと服を奪って着替える。

 紫蘭の鎧は自分の氷を固めただけなので溶かすだけで終わるが、イザベラのほうの鎧はスライムに食べてもらって収納してもらう。

 

「ありがと」とイザベラがお礼を伝えるとスライムがふにゃりとほほ笑む。

「そうだ。この格好なら散策できるんじゃないか? 気になっていたんだろう」

「え? だ、大丈夫ですか」と困惑半分と嬉しさ半分の表情を見せる。「怪しまれない程度なら」と紫蘭が答える。

「じゃあ……! 王宮だったっていう遺跡辺りに行ってみたいです。というか、紫蘭さんって長寿なんですよね? この国がちゃんとあった時代は知ってるんですか?」

「多少は。ただ帝国と彼女の住んでいた魔石の森と随分遠いから詳しくはないが、この地面の魔石を引きたてるために常に水たまりがあったり中心部は特にガラス張りの家が多かったな」


 下着状態の彼らを縛りながら簡易的に説明していく紫蘭。中央に行けば行くほど建物の土台、基礎しか残ってないはずなのでこの周辺を傍からは見回りに見えるようにちょっとした観光をすることにした。紫蘭が「推測だが中央部に多く気配がある。だから安全な退路を確保、見定めながら行こう」と伝えそれに頷く一人と一匹。そうと決めてその廃屋から出ていった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ