間章第一話
銀華舞う飘零。
六月雪を片隅に陰険な森の中、舗装もされていない獣道を進む。
「「…………」」
無言で歩いていく二人。
一人は髪から鎧まで白銀を纏う紫蘭。所々包帯巻いてあるのはうまく再生出来なかった事と暖冬のせい。しかし手足の氷晶の美しさは廃れず指先の虹霓が花開く。
もう一人はアスラが地方の神父になってから交代するように現れた。イザベラ・ドラグニルという隻眼の青年で、くすんだ髪をポニーテールにして結んでいた。着ているというより着せられている感が拭えない鎧は白銅色。
紫蘭が彼のことを聞くところによると、元から魔法を使えるから騎士団の四天王となったらしい。
それを教会が学校の成績首位の彼の噂を聞きつけ、無理くり風の席に据え置かれていた。前の第二部隊の処理やアスラの件、紫蘭自身の不調による欠席もあってトントンで進められていた。紫蘭が復帰してから話には聞いていたが、本当にいるとは思わず尚且つ既に幾つか任務を受けていた。それを聞いて紫蘭は見かけによらず肝は座っているなと少し関心していた。
また、紫蘭がいなかった間に『彼女』とも仲良くなっていて、少し嫉妬した。
とはいえいざ二人きりになるとまったく会話できないと、紫蘭はソワソワする。外面は普通に昔からコミュニケーション能力の高い面々と共に仕事をする事が多かった。
だからソフィー以外受け身で話しをすればよかった。
しかし今回口の上手い者はいない。言いたいこととか話したいことはあれどきっかけが掴めず紫蘭は仕方なく道中手遊びで雪だるまを作っては投げ、作っては投げ。を繰り返していた。
そのよくわからない紫蘭の行動に困惑しつつも、その紫蘭の心情を知ってか知らずかどうしようかとイザベラも悩んでいた。
イザベラはイザベラで、人間からは高位種――天使族と言う種類の獣人。
彼は翼がない。今は羽衣のような見た目の魔道具で羽根の代用していた。彼に翼が無いのは過去羽根が千切れると言う大怪我を負って、現在はぱっと見人間。
それを人間が奇跡的に魔法を使っていると勘違いして学校から教会に噂が広がり今に至る。
イザベラの席が四天王の内の風。『風天』様や『風神』とまで呼ばれるのもむず痒かった。前述の通り元々獣人。勘違いする人が多かった。
だからイザベラは彼らのことをあんまり喋ってもボロ出そうだし。じ、人体実験とか……こわぁと、人知れず不安がっていた。
そもそもこの二人は任務の為、訪れていた。亡国――亡き玻璃色の竜の国、今は自治区が魔石を多量採掘。それを許可証無く、商売しているそういう内容と盗品が多くあると聞いていた。場合によってはその場で処断。
一番需要なのは、教会の宝。
『聖杯』を盗まれたという。
報告のあった場へ来ていた。山賊の所業。
その場も自治区と言葉は良いが実質拠点となっていた。
イザベラは過去学園に入る前。海版ギルドに所属していた。
海賊やキャラバンと呼ばれる船にて航海をしており、主に魔石を魔物や採掘で採取し稼いでいた。意味は違うがもしかしたらただの蔑称とかかなとイザベラは思っていて、『賊』と言われていてそういう文字的な意味では彼らになんとなく親近感を感じていた。でもまあ悪いことだよねと、まずはこの今の紫蘭との無言の気まずさ、圧を解決する事にした。心の隅では戦闘になったら上手く話せそうと言う期待を抱く。
ちなみにその自治区。亡き竜の亡骸、魔石が地を蒼に染める地区であった。だからそこを観光したいと思うイザベラ。
途中から緑に生い茂っていた道はだんだんと蒼玉や瑠璃の毒毒しさと明媚さを備えた草木たちが二人を迎える。その景色に「わあ……」と感嘆する。しかし観光しに来ている訳ではないので散策したい欲と共に頭からそれを消すように頭振って周りを警戒する。
イザベラとは打って変わって「この辺からか……」と道を確認する紫蘭。どうやら拠点の跡、人のいた痕跡が見受けられたようで少し辺りを調べ始めた。
「っ……あ、あの」
「なんだ」と本人は睨んだつもりはないが、イザベラは引き攣った息を吸った。しまったと、紫蘭は思ったが元々こういう顔。
その上、こっそり付いてきた一つ目のもちもちの彼女に「その顔やめろ」といっているかのように頬を突かれた。
「そ、その……、賊討伐ってことですよね?」
「まあ、な。ただの魔石横領なら俺が行く事はなかったのだが、聖杯が」と、紫蘭にとって一番重要なことを告げた。なぜかまた黒曜石のスライムに頬を突かれている紫蘭を横目に「せ、聖杯? 確か……」とイザベラがちょっと座学で教会の歴史を齧ったのを思い出す。
聖杯。
それは大昔、聖女が使っていたとされる物。
その杯に注ぐ飲み物全て回復薬となるという不思議な杯。それは二つあり、ペアで宝物庫に保存されていた。普段は観覧することはできず今回の様に祭典等でのみ見ることができる品物。恐らく
イザベラが四天王として着任するための式典の後に開催された祭りで観覧していたものだと聞いていた。
「そうだ。その一つが盗まれたのだ。美術館で展示した後、その輸送最中に襲撃されて盗難されたらしい。賊とはいえミゼーアの品を見極めるのは良いものを見る目は中々評価に値するが、二つとも盗んで貰わねば片方は寂しいものでないか?」




