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Cocytus  作者: みらい
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第四十七話


 晴れ間の無い中。雪化粧を施した見知った道を車で走らせ、アスラは後ろで座る師を鏡越しに見ながら声を掛ける。

  

「ししょ、……もう大丈夫なのか?」

「おまえからそういう事を耳にしてしまうとは……、き、気持ち悪いな」

「ひ、ひでぇ」

「ほら、前を向け」


 あれから「一度死んで蘇生した方が早い」と再び戻ってきたアルフェルドに介錯をお願いした紫蘭。苦い顔をされたが了承してくれた。しかし今回も時間を置かずに蘇生したため五体満足ではあるが、所々割れ目があり、左眼も反転眼から治っていなかった。そのため氷の魔石と共に包帯を巻いてどうにか事なきを得ていた。

 その状態である為、目的地までアスラが介護しつつ酔い止めを飲ませて再び港町へ赴いていた。今回は仕事でもなんでもないので、アスラはジャージ。紫蘭は黒い着流し。


「まだまだっすね……」

「そうか」

「あの後大変だったんすよ?! ヨツィンさん泣きそうになるし、ぺぺはなんかギラッギラになってるし」

「……そうか」

「で。レイラは……枢機卿も…………。いや、いいっす!!」


「そうか」と空返事する。「え? 録音すか……? ちょ…………ひど!」と適当にアスラと会話しながら、うまく手を回したアルフェルドに心の中で感謝する。

 紫蘭は枢機卿のその権利を剥奪していた。その精神系の魔法の使い勝手の良さに紫蘭は偵察など下働きをさせていた。オーガになったり、紫蘭に咲かせられた騎士たちは療養中。復帰も期待できない。更に隊長は行方不明にしてあり、実質解体に近い状態となった第二部隊。

 ただ、彼らのように力を求める者がまた集うだろうと楽観的だった。そうして思惑していてbot化していた紫蘭だが「何がそうかっすかっ!」と拗ねている運転手に気まぐれに質問した。


「……そういえば、おまえ火の席降りたのか」と独り言に近い質問を呟く。そして窓辺に肘をつき、ボーッと外を見始めた。

 アスラも「はぁ……」と運転手のため前を見ながら「ししょーの弟子って位置が良くて!」と紫蘭に伝えるともなく言う。

「やっぱりキモいな」と罵る紫蘭。それが心からのものではないのはわかっているので、それに「へへ」と笑い「後任がもしかしたらルシかもしれないっす」と嬉しそうに魔道車をぶっ飛ばした。白銀の景色で飽き飽きしているところに「教会。着きましたよ」と伝える。

 アスラは駐車して、先に降りて一応紫蘭の介護をする。


「助かる……。ここはある程度落ち着いたのだな」

「そうすね。残ったルシ……第一部隊長サンがここの自警団とか騎士団たち合わせて復興とか、うまく采配してるみたいっす。

 短期の滞在っしたケド、ししょーと戦ったり……おっと、大丈夫すか?」


 紫蘭に肩を貸していると、教会の前で談笑する神父と老夫婦。そして少し離れて夜空のワンピースを着た車椅子の女性――ソフィーが花壇を見ていた。先にお辞儀をされ、アスラは空気を読んだのか紫蘭と目配せして、自身は神父たちの方に。

 紫蘭はゆっくり歩いていき、しばらく後ろでその情景を眺めてからソフィーに「ミゼーア?」と呼んでみる。

 

 が、反応がなかったので、「………………ソフィー」と呼びながら、目を細める。

 その小さな紫の華を愛でてそっと触っていたソフィー。紫蘭の呼ぶ声に「あ……」と顔を上げた。癖毛の髪が跳ね、雪が舞う。

 

 目を合わせてから気まずそうにまた花を見る。紫蘭もそれからどう切り出すか考えていなかったので、そのまま沈黙し自分の今の名前の由来のその花を。今は雪にほとんど埋もれ、ソフィーが掘り返さなければわからなかったそれを何となく眺めた。

 適当に名乗り始めたのは本名が女の子らしく嫌だったのか、それとも水を扱う事ができなくなってからかそう思い返しているとソフィーの方が蕾を開くように口を開く。

 

「あの……、すみませんでした。恩を仇で返してしまいましたね。でも本当に色々……楽しかったです。例え利用されていただけだった、変わりだったけど。あんなにも誰かと色んなところに行ったの、初めてで……」

「……気にするな。え――……服、着てくれているのだな」

「はい! お気に入りです! 今はあの義理の両親が良くしてくださって……私はもう幸せだったんだな、と」

「飢えるのも悪くないんじゃないか?」

「そ、そうですね。あ! ミゼーアさんの記憶。見てしまいまして、……えっと。紫蘭さんが解けた後、襲われたんです」

「……大丈夫だったか?」

「はい、今はもう抜けたというか、よくわかりません。起きたら帝都の病院で、検査してもらっても特に異常はないらしくって。

 これも聞いてから切除しようかなって……」


 そう言って唯一紫蘭が傷付け花を咲かせた足に手をやる。「この花のおかげでしょうか」となぞる華はあの時の乳褐色から今は黒曜石のように黒くなっていた。まるで彼女がそこにいるような、漆黒の薔薇。それを見て頭を抱えて「はぁ……」とため息をつく紫蘭。

 

「すまなかったな」

「……え?!」

 

 紫蘭は雪だるまとかは作っておらず、彼もこちらを向いており、バッチリ目が合う。それに羞恥と畏怖を感じながら、


「……あーーいや、ミゼーアではないのに、振り回して」

「謝らないでください! 私本当に楽しかったんですから。それに、足が動くようになったとはいえ、取り返しつかなくなる前に魔石を取り出してくれて……いまはゆっくりしてるのです。

 あのっ紫蘭さん。ずっと嘘を吐くのって大変じゃないですか……? 今は

 その、記憶の中の紫蘭さん、随分塩対応だった気が」

「見たのか」

「えへへ。新鮮でした! でも、その。ミゼーアさんに対しての愛。偽ってるわけじゃないですよね?」

「どうかな」


 話が一通り終わり、「ソフィー」と後ろから彼女を呼ぶ声が聞こえた。振り向き車椅子をそちらに向ける前に「待て」とその黒薔薇に手をやり、そっと摘む。

「ほら、」そのまま掌におさまる。ソフィーは「――っ」と痛がり、その白い肌に緋を一つ垂らす。

 

「俺はここで座っておくから、行きなさい。また、会おう」


 ソフィーが頷き行ってからその掌を紫蘭が開くと黒い液体となる。そして一つ目が開く。たった一つのその目からめちゃくちゃに不機嫌な感情がひしひしと伝わってきた。ふっと笑う紫蘭。

 己の力が彼女を追い出してしまうとは、と思いながらその瞼に口をつけた。


「残念だったな」


 これが偽りというかと思いながら、紫蘭も振り向き彼女(ソフィー)の後を冷たい目が追う。どうやら第一部隊長も合流したようで、賑わいながら教会へ入っていく。

 花壇の雪霜を払い座る。

 白銀の中墨を落とすように黒薔薇が落ちる。

 質量を無視して、畝り蠢く黒漆。

 紫蘭は髪から垂れる乾留液(タール)を指に絡ませる。

 成人女性を形だけ模して、座っている紫蘭を見下ろす。瞼だけでは足りなかったのか、唇に液体を押し付けた。

 矢張り不服そうに、顔を歪ませ空からふる雪櫻とともに散った。


「……はしゃぎ過ぎたな。おやすみ」



 

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