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Cocytus  作者: みらい
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第四十三話



 

 久々に星たちが黒を彩る。

 望月を侍らすクリスタル。

 心なしか昏く光っていた。

 その上に本堂を構える教会の中にある、ある一室。大ホールとなっているそこには、わいわいと第二部隊の面々が立食形式で宴会をしていた。別の会場もあるようで、その部隊の一部が通信の魔石などをふんだんに使った大きなスクリーンに映し出されていた。


 表向きは今回の港町での警備や調査の打ち上げ。実際は紫蘭が行方不明になったと報告があったから。

 予てから『水天』という席がずっと空かなかった。この部隊は水の使いが多く、また、騎士団自体半分。特に第五部隊以上は力を求めて騎士になり、半不老となり生きていた野心家が多い。そういう性分なため『水天』の空席になった可能性があり、とうとう野望が叶いそうで皆浮足立っていた。

 

 そんな自部隊の騎士たちを少し離れてゆったりと二人グラス片手にそれを眺めていた。


「して、……連絡は? 例の集会所にしていた古い教会は捨て置いたのだろうな?」


 灰の髪。

 グレーの見事な髭を持つ。

 老獪の男。オーヴェリウス・アクア。

 これまた豪華絢爛な杖を持っている。

 しかし目をぎらつかせ、身体も衣類からわかるほど逞しい。

 その杖や風貌はただの飾りではと思う程。

 その男の隣。

 アスラたちと同期のレイラがグラスを傾ける。

 少し口を潤してから、「すぐに向かいました。襲撃にあったらしく見事に凍らされておりました」と苦虫を噛み潰したような顔をするレイラ。


「うむ、……して?」と続きを促す。

「まず凍結で重症の者は療養中で、建物、証拠になるものは全て燃やしました。

 紫蘭を打ち倒した娘も奴も見当たりませんでした。

 紫蘭の衣類…恐らく相打ちか、紫蘭のみ消え失せたか。現在下にいるものが調査中です」とスクリーン越しの彼らと目を合わせた。


「……ああ、君が力を入れて魔法を教えたものだね。聖女様によく似ていると聞く。……やはり水天様は戦えなかったようだね。そこまでの者、会ってみたいものだ。


 ……そうだな、手が回るなら捜索をお願いしよう。

 例の港にて見つかってしまったものは仕方ない」

 

(言い訳などどうとでもなる。

 しあしその娘とやら話にしか聞いていなかったが、彼を惑わすくらい似ていたのか。ミゼーア様に……。

 少しお会いしたくはあったがまあ、良い。

 紫蘭がいなくなったのだから、ゆるりと上手く教皇の座も頂こうか)

 

 と、枢機卿が思惑していると「は」と、レイラはもちろん。

 周りの騎士たちも無礼講中ではあるが、ちゃんと師の話を聞いていた。下の帝都の研究施設に隣接された教会のほうにも第二部隊がいるようで彼らはスクリーンを通して交流していた。そちらにも目をくばせながら、枢機卿が、


「水を差したな。さ。また再開しようではないか。……わしのことなど気にせずに」

 

 と、飲食を止めてしまった事を詫び、宴の続きを促した。枢機卿はそう伝えてから、グラスを空にして銀の杯に新たに注いだ。そして外のバルコニーに空気を吸いに行った。それを第二部隊の面々は見届けて皆各々でまた打ち上げを楽しんだ。

 枢機卿は一人濡羽の夜を楽しんだ。手摺りまで来て、二つの内一つを幅のあるその手摺りに置いた。

 

「ただの戯れだったが、存外楽しめた。……しかし、長い長い冬も終わりかね」


 誰かに呟きながら、手に持つ杯を仰ぐ。次第に灰色が広がっていき星月夜は終りを迎え、雲に隠れた星々の代わりに細氷が降り出した。それはまるで枢機卿のそれに「まだ終わらせる気はない」と回答しているようだった。

 

「はっはっは、……また聖女様についてお話しましょうか?」


 と手摺においていた杯を誘った。

 年甲斐もないとは思いながらも嬉しそう。段々と吹雪いていく。それに答えるかのように風が嘶く。

 パキパキと音を鳴らして外のホールのガラス窓を凍らしていく。まだ中のものたちは気づいていない。

 先ほどの漆黒とは打って変わって、白となる。クリスタルの光や教会内からの光が反射して、まるで真昼間。


「しらんさま」


 その白魔と共に下から白銀の鳳凰が舞い上がってきた。その周りを粉雪が流れていき、それが全体に行く頃に人の形を形成していった。

 ただし翼はそのままに手摺に留まる紫蘭。

 見た目だけみれば天使そのもの。

 聖女様が尊いと思うのも無理はないそう思いながらも後ずさる。

 枢機卿がその手摺に置いていた杯の中身は既に凍っていて、紫蘭が傾けても中身は出てこなかった。

 それを投げ、バルコニーに降り立った。次いで枢機卿を掴み吹雪の中へ投げた。


「―――!!」

「おまえはまだ、利用価値がある」


 紫蘭はそう答えたがそれを聞くこともなく枢機卿は吹雪の彼方へと消えていった。それを姿が見えなくなるまで目で追ってから、大ホールへさもそこに招待された者の如く入っていった。

 窓辺にいたものは驚く暇もなく凍ってしまった。

 凍ったものたちの肌からは見事な白磁の蓮の花。

 ようやく異変に気づいた時には遅く、きらきら。さらさら。開け放たれたそこから猛吹雪となった外から雪が入り込む。

 その雪により音は遮断され、先程まで騒がしかったホールに静寂が訪れる。あとは雪が舞うはらはらという音と「――し、しらん……!」というレイラが怒りを乗せて叫んだ声。

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