第四十二話
「すぐ、戻るから……! 必ず助けるから待ってて……!」
そう言って走り去る後に散る灰色の玉屑。
瑠璃、琥珀。
極彩色の森の中。
ただ一人そこに倒れた男の周りの地に緋色の蓮を咲かせていく。
「行かないでくれ……。
……っ、
…………寒い……、頼む。
……共に居てくれ……」
遠く走り去っていく人影に手を伸ばそうとするも、その腕は千切れており、肘から向こうはなかった。霞む視界の中遠く前方にある気がしたが、それもまた赤に染まっていく。
走り去った者も、未だに戻って来ず。
男の瞳の光がなくなっていき、とうとう虚な氷の瞳にただ魔の木の極光を写すばかりとなった。
白銀の世界。
雪灯に浮かぶ、氷城。
その内部の地下。元は牢屋として使われていたと見られる場所。
どこも凍っているのか青白磁。
しかし所々城の灰の壁が見受けられ今の城主が氷で補強しているのが窺えた。
その一角。
奥の牢屋が開け放たれておりそこに場違いに一山の雪が積もっていた。
その頂き。
腕が突き出る。
夢の続き、助けを求める様に手で天を掻く。
しばらくすると、その雪から頭胴体の順で人間の形をした者━━紫蘭が這い出て来た。
「はぁ、はあ……」
と、肩で息をする。
肌は所々、罅割れていた。
ほぼ不死ではあるが、普段雪降る冬にしか復活できない。出来ても不完全。
そのため左目、腕が脆い状態。
加えて夢見の悪さ。
しかし、と。
「……ゆっくり寝ている暇はない、な」
頭を抱え立ち上がる。ミゼーアたちが気になり今回ばかりは無理やり自分の魔力で再生強引に蘇生。
紫蘭の膨大な魔力。
外は制御しきれず、雪となって永遠に降り続いていた。
その元を辿れば己の力。
だから、と無理に動かす。
そして、その牢屋の壁を壊す。
壁は見た目の割に脆く紫蘭が少し殴るだけですぐに崩れ落ちていった。この城がほぼ廃墟同然で紫蘭がこの城を補強していた。殆どただの氷の壁。
だから容易く壊す事ができるが蘇生後のためかそれだけでも、
「━━っ」
ときつそうに眉を寄せた。
そのように痛みはあるが内心急ぎたい気持ちとゆっくり再生したい気持ちをない混ぜるにし紫蘭はその壁の穴を潜り抜けながら姿を変えた。
不死鳥へ。
白い世界の中。灰雪を散らしていく。
白魔が羽ばたき、美しく雪に光り輝く鳳凰となる。
こちらの姿でも、羽根の痛々しい部分は見受けられた。
壁の穴を抜け、吹雪の中。
羽根を伸ばして嘶く。
(飛べん事はないからまあどうにかなるだろう。
それよりも。
ソフィーを唆した、あの鎧のエンブレム。
悲しそうな彼女の声。
オーガに魔石の粉。水。……枢機卿の魔法は利用価値がある。ただ他の者と権力争いだろう。
問題は奴だ。)
その紫蘭の怒りと共に空気も凍りキラキラと輝いた。
そして再び羽根を撒き散らし飛んでいった。
紫蘭は飛んでいる中。
どうやって仲裁を与えるか、よりもミゼーアの事しか頭になかった。
唯一の捜索手順である手鏡をソフィーにやられ解けてしまった。だから全てソフィーを苦しめた元凶のいた古い教会のあたり。
回収を、と思う反面、その元凶━━水の使いの多い第二部隊を懲らしめるつもりで向かっていた。
その間紫蘭はデジャビュ…ではなく遠い昔を思い出した。
同じような事があったな……。
***
クリスタルの木々。魔の森のずっと奥。
獣人━━主に吸血鬼や人狼の一族と人間が争った古戦場よりもっと奥。
遠くに青い炎に燃える山。
青い炎に包まれた狼が住まう山。
炎狼山脈。
それによりその周辺の魔石の木々は青く輝いていた。
その間の谷。
誰が名付けたのかいつの間にか『魔女の谷』と呼ばれていたそこ。
異質で現代的な一軒家がぽつり。
紫蘭がそのドアをノックする前に、ガチャリとドアが開き、
「良く此処が分かったわね。アリス。
元気そうでよかったわ」
と深緑の髪の女性。その家の主ミゼーアがで迎える。
歓迎と同時に聞かれたことを言わずして探知の魔石━━確認できる手鏡を見せた。
「……ああ。そういうことね。
嬉しいわあ。アタシのプレゼント。使ってくれてるなんて。
ふふ、お揃いでお互いの位置がわかるの、いいでしょう?」
と言いつつ紫蘭の指にはまっている指輪を見つつ自分の指輪を見せる。
紫蘭が口を開く前に、
「あ、そういえば紫蘭といった方がいいのかしら。君と同業者の人がいたんだけれどさよならしたわ」
と、なんともない風に言う。「俺がやると伝えたんだが……」と、呟く。
「気にしてないわ」と言いながら戦いの準備をするミゼーア。それにぽかんとする紫蘭。その表情をみて、
「アラ? 今日は戦わないの? 任務は?」
「……いい。紅茶」
「はいはい。でも、いつでも、いいのよ?」
「ホラ」と戦場とする外を覗く紫蘭。しかし今日も甘い恋という紅茶のほうを選び飲んだ。
そして、忠告を聞かなかった本部に仲裁しにいった。あの時と今と似ているなと思いながら飛んだ。




