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Cocytus  作者: みらい
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第四十一話



  

「ハァ……、ハア」

 

 紫蘭が崩れ落ち、同時にぺたんと地に座るソフィー。

 先ほどの礫が当たっていたのか、足に擦り傷がついていた。

 そこから小さな小さな小さな天色(あまいろ)の蓮が咲いていた。

 それを眺め、ソフィーは太腿の上で拳を握る。

 その開花が痛いのではなく懺悔。

 紫蘭に対しての感謝と申し訳なさから。


(申し訳ないことをした……。

 この数日間たった数日だけど楽しかったってことだけ伝えればよかったな。

 ……あの人にもっと早く会っていればまた違ったんだろうなあ。あの人は永く生きてるらしいからその間に会ったら良かったな。

 例えミゼーアさんの代わりだとしても。

 本当に、本当に。…………)


「━━……っ」

 

 と、目がかすむ。自分は泣く資格もないと、我慢するように貰ったネックレスを掴む。

 そしてまた自業自得だと、それを堪える。

 ふと前を向くとソフィーの視界がソレを捉えた。


「?」


 影のようにそこに佇むソレ。

 灰と沈香(との)の色の中。

 枯れ木と細々しい草の上。

 黒い影。

 声も表情も見ることはできないが、寂しいと伝えるようにその黒からでた触手を出す。

 そして溶け切った水をその黒から出た触手で優しく舐め撫でた。

 そうして居なくなった事を確かめ、ソフィーを見た。


「あ……、私」


 黒一色の体は、僅かに肌や目などを形成していた。

 それはみるみる内にソフィーの生き写し。

 ソフィーをもう少し成長させたような女。

 ソフィーを似たのではなく、生前を形どったものだろうと思いながら、ソフィーは未だ力の出ない足を動かそうとする。

 その間にもソレは変化していく。

 その象徴であるトンガリ帽子が満を持したかのように形作られていく。その帽子や長い黒髪から時折粘液を滴らせてい

 まるで魔女の様相。

 皆が口々に伝える『聖女様』

 紫蘭が探し求めるひと。

「ああ」と感嘆と、納得の声を漏らす。

 

 ━━「君は枢機卿たちによると、良く似ているらしいから紫蘭のいい抑止力になる」


 ━━「僕がまた紫蘭と戦える様ないい機会を作ってくれないか?」

 

 そうレイラ様は言っていた。そういうことか。


 それに回復魔法だってよく聞いてたけど、レイラ様からは敵を回復しつつ攻撃してまた回復して…っていうえげつないらしいと伝承されてたらしいけど……

 そもそも怒ってるだろうし、でもどうしてここに?

 あの人(しらんさん)はずっと探してる風、私にその影を見ていたみたいだけど灯台下暗しだったとか? それとも知った上で私と一緒にいてくれたのか……また別の理由があったのかな?

  

 と、予想外の彼女の登場に焦り、うねるタール状のソレに「う」と恐怖した。

 力が抜けたのか立ち上がれず、その場で「水よ。お願い」と水の刃を作り飛ばそうとしたが、中々言う事を聞かない上に少量しか出なかった。

「お願い……!」と言っても水は出ない。その少量の水でさえ、ドロリと黒く濁りだしていた。

 

「……ぇ?」

 

━━この人、聖女様の能力? ホントは時間を操る 巻き戻したりして回復してるようにみえる…とかかな


 そう考えていると、その隣の黒く濁ったそれは膨張し、ソフィーに絡まり始めた。

「ぐ、うぅ……」

 もがくほど絡まるそれ。

 足が地面から離れ、遠くに教会を浮かべる浮遊の魔石。クリスタルがみえた。

 目の前を見ると、ぬるりと魔女が近寄ってきていた。

 ━━しゅ、手段が…

 

『全て全てあの人に捧げた。何もかも

 あの人と会うまで地獄にいきた。あの人と会ってから、地獄が美しく見えたの。

 地獄を見た貴女はわかるでしょ?』


 と、目の前の魔女ではなく、頭の中で彼女が唄う。拘束されているのはもちろん。

 ソフィーの足は再び感覚を失う。

 声も出せず、はくはくと口を動かした。


(獣人たちは感情や歌に乗せ魔法を使う。だからとても強力だ、と。誰かから聞いたことがあるけれど……

 それかな)

 霞む頭の隅で今の状況を他人事の様に思う。そして、


『貴女とても羨ましいわ。あの人とずっと楽しんでたんでしょう?私はあの人と一緒に食事も寝ることも、できない。

喋ることもできない。触れ合うのは触手。手を繋ぐ事もできないのに』


 ソフィーの内心を置いて頭の中に声を響かせた。

 そして紫蘭の倒れた辺りに落ちていた手鏡をその帽子の先。触手を伸ばし、ソフィーの前に掲げる。


 ━━ああ、だから私の場所わかったんだ

 聖女様の代わりみたいな扱いだったけど、

 悪くなかったな


 顔を歪ませるソフィー。

 降る雪を照らしているのか、或いは陽が差したのか『彼女』に、クリスタルが呼応し黒く輝いている様に見えた。


『手、貸してくれないかしら? あの人と楽しんでた罰。ここまで心惹かせて袖にした。

 私のを貸したのだから。当然よね?』


 と、ソフィーは遠くなる意識の中。

 笑う声が聞こえた気がした。





 


 

 暗闇の中。

 視界が広がる。

 部屋は全て灰の壁紙で統一されていて無機質。

 しかし暖炉にポトフ。観葉植物などで色を付ける。

 場違いなさまざまなアンプルや医療道具も見受けられた。

 モダンな造りの家。

 

(確か私、ミゼーアさんにやられて……? ここは?  おしゃれだけど……

 これ……魔石の粉だ。ってことは━━デジャビュ? ……でも違う気がする。

 それにこの家初めて見るかも……教会でもあの街とかでもないみたいだし。

  

 血から魔石が生まれるって考えなら私がこれを経口して足動かせるようになったのは増強(バフ)かな? それとも……同じように魔石の粉を飲んだ、天人たちが亡くなって出来た魔石とか……

 嫌だなそれ)


 ソフィーは首を振った。

 が、この視界の持ち主は首を振らず、それを見つめている様子。

「一緒に行くならこれを飲んで……カモフラージュに」

 と意を決して飲み始めた。

 あの家から初めて出て世界を感じ魔石の粉を頑張って頬張っていたソフィー。

 あの時の光景が蘇った。


(ミゼーアさんの記憶……? 聖女様も魔石の粉を飲んでたってこと? でも伝承じゃあ、生まれつき回復魔法をって聞いたけど、分からないな。

 

 何の協力をすれば良いかわからないけど、罪滅ぼしにはなるかなぁ)


 そう思い眠る様にその景色から遠ざかった。

 

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