第三十七話
━━とんだ災難だった。
大体奴は、三日三晩ミゼーアの話に付き合ってくれたと言うのに。
どこで心移りしたのか。
と内心愚痴りながらも紫蘭が向かったのは、本部の中。
一番大きな建物の最上階。
最上階の彼ら四天王。
そんな塔の一室。
その円卓で留守番中の『彼女』。
彼女の力欲しさに実験して、バラバラになったその欠片。
紫蘭とアスラが使っている、その水の席にいるおねむな一頭身の一つ目の猫を撫で、「おはよう」と起こす。
「君も来てくれ。ただし、危ないから少し隠れた所で隠れてくれ」
と愛おしく、大切そうに撫でる。アルフェルドたちや第二部隊の者たちと大違いの声音で伝える。
紫蘭が帰って来たと分かると、飛び起きるそれ。
愛玩動物が飛びつく様に黒いタール状の触手を何本も使って紫蘭を囲む。
そして、撫で。
髪を弄び。
腕や足にとぐろを巻くように蠢いた。
それを優しい眼差しで見ながら、
「君ではないとはわかってはいるのだが……
多分俺は攻撃できない。というか、何もできんだろうな。叱咤してほしいがどうせ魔法も大して使えまい。
すぐ倒れるだろうから、後は頼むよ」
紫蘭の言っていることを聞いているのか。
そもそも理解しているのかはわからないが、引き続きスキンシップを楽しんでいた。
一通り挨拶が済んでから、離れた。
スキンシップで察していたのか、紫蘭が濡れているのを気にするそれ。
心なしか悲しんでいる様に見える。
その心情をなんとなく汲んだ紫蘭が、
「ん? 濡れているのは気にするな。
君のための騎士たちを用意したというのに、不甲斐ないな…」
と、適当なタオルはないので、とりあえず羽織っているマントで拭く。
猫はもしかしたら落ち込んでるかもしれない、と紫蘭を慰めるように、また覆い尽くす。「ふふ」とそれを叱るともなく、紫蘭はくすぐったそうにした。
ただ、びしょ濡れなのは不快な紫蘭は「ちょっと待ってくれ」とだけ嗜めた。
どちらにしろ聞かなかったのでしばらくそのまま好きなようにしてあげた紫蘭。
ようやく気が済んだのか、また手のひらサイズの一頭身の猫耳となり、ぬるんと紫蘭の肩に乗った。
そして、前回はアスラから止められた窓から飛び降りた。
途中白い鳳となって、羽ばたく。
外はまた雪のちらつき始めていた。
不定形のものは液状化し、紫蘭の肢体に絡ませる。
はたから見れば襲われている様に見えた。しかし当の彼らは降る粉雪を浴び、翼や触手で弄び遊んでいて、二人で楽しそうに空を滑っていった。
それに紫蘭は嘶き、嬉しさを伝える。
━━もしかしたら、奴らにバレるかもしれんな
否。奴らもミゼーアの事は気掛かりだろうし。
と、先程まで枷もあったせいか解放感を同じようにここにずっといた『彼女』と共に楽しんだ。
紫蘭は彼女といるのが嬉しく無駄にくるくる旋回。
『彼女』はそれにまとわりついている状態。
それはさながらダンスを踊っているかの様。
その彼女が黒い触手を伸ばして手鏡━━探知の魔石の反応があった場へ向かった。




