第三十六話
三人の会話を聞かずして、温室を出た紫蘭。
「早く行かねば……、ミゼーア」
と、一人呟く。彼女に渡した氷を模したネックレス。
あれは探知の魔石。
紫蘭はそれを確認するため手鏡を取り出した。
こちらはダイヤモンドの様な外観。
その手鏡の様なものが対となっていて、普通迷子防止で親が子供のために買う事が多い一品。
物によってはその人物一点がわかる物。
粗悪なものだと数時間毎にしかわからない物。
魔石の加工、採取した魔物によって変わっていた。
その中で紫蘭はどの道をどう通ったのか分かるものを利用渡していた。
紫蘭の探しているソフィーも下の帝都内から入って今はもっと外側にいることがわかった。
まだあの粉の結果は出ていないが、どういう物か、構成か……などなんとなく察しているようでそれを待つ気も無く、そのまま戻ることもなく準備して行こうと歩き出す。
枷をつけていたためかその解放感からか鼻歌。
このクリスタルの上にある本部は円状に建物が連なっているように建っている。
大きな大聖堂の前。
中庭を通り、外の通路を横切っていく。
早く辿り着ける方向に進む。
十人ほどの人集り。
紋章をチラッと見ると、天秤座。
鎧の色は、グレーや白寄りのものと様々。
入った順はバラバラでも志しは同じらしく隊長のその思想に賛同しているものが多いことが伺える。
と言っても、目標が打倒紫蘭な可能性が彼らの態度からもよくわかった。
その第二部隊の者たち。
鍛錬か魔石とは違う魔法の扱い方のレクチャー中。
水が所々宙に浮かんでいた。
――昨日のレイラという者の部隊か。
ご丁寧に給水所やら休憩所も作っているのか。
邪魔……いや、殊勝な事だな。
水の使い手ばかりを入隊させているのは本当だったか。で、ここにいるやつらは練習中か。
最近また入ったのか?
まあ、こいつらも肉壁にしかならんからどうでも良いが……。
すれ違い様紫蘭と分かるや少し睨みつける。
……こちらは忙しい。
やるならまた今度な。と言わずに目で訴える。分かるかどうかも気にせず通り過ぎていこうとした。
「おい」と呼び止めた気がしたがそれを無視して歩く。
切り付けられるか、と思ったがそれもなく。
ニヤニヤしていた。
しかし、ふと紫蘭は上に気配を感じた。
水球が紫蘭の上に浮いていた。
瞬間その水がはじけ飛び紫蘭に降りかかろうとしていた。しかし、紫蘭に降りかかる前にすべて粉雪となっていった。
肩に付いた雪をはたく。
彼らのことを気にも留めていなかった。水も生活のためのものだろうと思っていた。
しかし彼らの魔力が発動した時のそれに似ていた。誰かが悪意を持ってこの水球を作ったとすぐ感づいた。
先ほどまで機嫌が良かったが、このせいで一気に不愉快になり鼻歌が止まる紫蘭。
「ちっ」
「……」
「化け物が聖騎士団にいるなんてな」
周りに彼らと紫蘭しかいないことと紫蘭を弄ることもできず悪態をついていた。
――ほお、水を作ったのはこいつらのせいか。面倒なやつらだ。本当に子供だな。
煽るか相手をしてやっても良いがこういうのは無視が堪えるだろう。
そう思っていると「まあ、まあ」とその集団をかき分け肩を持ち宥めた。
僧綱襟のある銀の刺繍が施された法服。
周りに微笑みを浮かべながら窘める老人━━アクア枢機卿。
紫蘭も付き合いが長いとはいえ眉をひそめ「こいついるのか」と思う程度な関係。
なんやかんやミゼーアに関して三日三晩付き合ってくれる枢機卿。しかしその能力のせいで、他の枢機卿に警戒されていた。
その老人が、紫蘭に対してはにっこりとはしながらも禿鷹の鋭い目を向けながら。
「どちらに?」
「任務だ。邪魔するな。おまえには、関係……あるかもしれないな」
「任務であれば関係あるやもしれませんな」
枢機卿はゆったりと返す。
「おまえたちの手は不用。せいぜい、お人形ごっこでもしておいてくれ」適当に返す紫蘭。
「……お茶でもどうでしょうか?」と空気も読まず誘う枢機卿。
「いらん。
……。
…………。
……まあミゼーアの馴れ初めについて話す時はくれ」
「はぁ…………。ミゼーア様に関して一月ほど時間を頂くならまた後日ですかな」
「そうだ。今は時間も惜しい。邪魔をするなよ」
紫蘭が枢機卿のことをあしらっていると、
「枢機卿を侮辱しないで頂きたい」
部隊の内の金の糸の様な髪を持つ者━━副隊長が前に出て警告した。
紫蘭はもしかしたらを想像して急いでいた。だから彼らとの馴れ合いにこれ以上付き合う気もないと思った紫蘭は肩をすくめ、
「肉壁のおまえたちには興味がない」と、出かかった言葉を言わずに彼らに背を向けた。枢機卿もまた「さ、鍛練を再開しようか。皆の者」と踵を返す。
紫蘭はまだこの礼拝堂の頂にいる彼女を迎えに行こうと歩き出す。その背に再び金髪の騎士が、
「あの娘━━聖女様と似ていらっしゃる彼女と戦うのはきっと地獄を見るよりお辛いでしょうね……?」と、紫蘭を追い詰めるように言う。
また別の騎士が「レイラ様がきっと……」と続いた言葉を聞かずして歩みを進めた。




