第二十四話
明くる日。
もう雪はたまにちらつく程度で、所々陽が照り始めていた。
だから地面の雪もまばらで、溶け出していた。大通りなどはもう溶け切っており、街がいつもの情景に戻ろうとしていた。そんな中紫蘭は教会の外にいた。
昨日の事を噛み締めながら手から雪だるまを出してソフィーを待つ。
手のひらサイズの雪だるまを出しては教会の壁に放り投げ。また作っては放り投げ。たまに教会の窓辺に置いたりしていた。この前と同じ様なこの行動。紫蘭は彼なりに緊張していた。
この地域では珍しい雪、そして雪だるまを生成する男。子供たちが懐く要素は備えているが、生憎無言に無表情。
この様を遠くから子供たちがちょっと怖そうに遠くから眺めていた。
ミゼーアが消えてからというものの、紫蘭は異性とデートしたり遊郭街に行ったり……そういう事はしていなかった。
(あの頃も、デートというデートは……していなかった筈。あの城からギルドからも俺を連れ出して、同棲したり、通いつめたりしていたものだったな。旅行には行ったが、任務ありきだったからな。
いや、あれはデートといえるのか……?
この前から手を繋いだり、どこかに行ったり新鮮だ。
デートとはこういうものなのだろう。
まあ、ミゼーアはちゃんと患者を見ているから、俺がそう思っているだけなんだが……。
しかし……━━)
と、久しく触れなかったこの感情。
そして戦闘とは違う高揚感。
「……良い」と、呟き更に量産していった。
「この癖も、やめないとな……」
意外にも手遊び癖があり、ミゼーアに昔指摘されたことを思い出す。何の時に言われたか……と、考える。その間、手に雪を出現させて丸めていく。
雪だるまたちを量産しすぎて、山を作る。紫蘭のことを大丈夫な人、怖くない人、雪だるまの人と思った子供たちがきゃっきゃと周りで遊び始めた。
「お、お待たせしました」と、紫蘭の身長程にまでいる手のひらサイズの雪だるまたちに驚きながらソフィーが出てきた。
今日はまだ肌寒い為もこもこコート。ただし昨日買った分で可愛らしい。「これ、ありがとうございます……」と更にコートを前だけ開けたソフィー。今日は修道服と掛け合わせられるような物。ブーツや手袋、カーディガンなどをつけていた。
「!! っっ……、ああ!」と、紫蘭。
「今日もお願いします」
とソフィーが紫蘭のマントを掴む。
「あ、そうだった。……これも」
と、取り出したそれはネックレス。
氷のダイヤモンド。
美しい宝石。
普段修道服のためか、あまり目立たないものを選んだのだろうか。それ一つのみが、付けられたシンプルなものだが、
きっとめちゃくちゃ高いと思いながら受け取る。
と、恐る恐る貰う。「ありがとうございます」とソフィーが伝えるとにこにことした。
触ると手を繋いだ時の紫蘭の手、体温の様に冷たかったが、その気持ちが暖かくソフィーもまた自然と笑みが溢れた。
「……似合い、ますか?」
と、早速つけてくれ、「━━っ!! ……ああ! もちろんだ」と、嬉しそうに眩しいものを見る様に紫蘭が伝える。
「えへへ、大切にします」
と、着ける所を見せる。
そして、落とす可能性を踏まえて、コートの中にしまう。
一瞬二人して照れだし、ソフィーは頭を撫で、紫蘭は子供たちの方向を向き頬を掻く。
その空気に耐えられなかったソフィーが先に、
「さ、さあ行きますか!」と、言った。
そこから更に一週間程任務そっちのけでソフィーに付き従ったりちょっとした物を運んだり。ソフィーとお食事したり手伝いをしていた紫蘭。
今日も内陸の方の街へ行き、終わってからある食堂に入った二人。海鮮も良いが飽きたと紫蘭が伝えたところ、ここへ行く事にした。
途中森を経て街まで行くがそこまでは定期的に来る魔道車が来ていた。中は数人。二人並んで乗り込んだ。紫蘭はしっかり酔い止めもソフィーから貰っていた。
この辺りも大して強い魔物はいないらしくそういうものが通っている。窓の向こうからその雪景色を見る。「もう止みましたかね?」や「もう、すぐ着くと思いますが、大丈夫ですか?」と尋ねてくるソフィー。
「大丈夫だ。……早いな」
「普通の定食でいいならここが美味しくて安いし、都心部も近いからここに泊まる旅人の方とか港町に用はあるけど節約したい冒険者の方向けって感じだと思いますよ」
「…………ほう」
この街も港町と同様。中央は賑わっているが、他は頑丈な平屋の民家や冒険者用の宿泊施設が多め。舗装はされていないが親しみやすいそこに到着した。
幸い飲んでいた薬のお陰で前のように酔うことはなく「ここです!」と案内された飯屋に入っていった。
四角いテーブルに壁にぶら下がった広告やメニューの多さに驚いたが「故郷の味が恋しい冒険者が多いからという配慮だそうです」とソフィーが伝えた。
ややあって店員が「ご注文は?」と聞いてきた。
「わからないから、君と同じものを頼んでくれ」
「わ、わかりました」
「お。オムライスを……二つ」
恥ずかしそうに頼む彼女にきゅんとしながら待っていた。その間出来上がりが早いのも冒険者たちが常連になるのと、どうやら経営者自身が元冒険者ということもあって経験からこういう店になったらしい。とソフィーが説明していた。そうしていると出来上がり、ハートマークのオムライスが運ばれてきた。
「ごゆっくり〰」という店員の言葉にソフィーは赤くなりながらもぐもぐした。紫蘭は「おいしいな。……どうした?」とソフィーのそれに困惑しながら楽しんだ。
帰り際。紫蘭はご飯に誘ってくれた礼を伝えて再び添い寝をお願いしたが、上手くソフィーに流されてしまった。そして、
「あ、明日は診療所を少し片付けたいですっ。では!」
と、施設へと帰っていった。