第二十三話
雪自体はやんでいたが、太陽が寒さのせいで雲という布団から出たり入ったり。未だ残雪のある草木が寒さを伝え、鳥たちが彼の嬉しさを共有する様に囀る。
そんな中紫蘭は孤児院側の建物からソフィーが出るのを待っていた。雪だるまを二、三個その窓辺においていく。
「お待たせしました」
もこもこフードとコートを着込んだソフィーが出てきた。前回海に行ったとはいえ、寒かったらしい。今回はしっかり着込んでいた。
「━━っっ……!!!? 今日も美しい……、それに可愛らしいとまで来たか。ミゼーア」
「えへへ、ありがとうございます」
嬉しそうに自分の頭をなでる。着込みすぎたのか、少し動き辛そうにするがそれもまた紫蘭の庇護欲などなどを誘う。そんなソフィーをまじまじと観て紫蘭は「否」と言う。
「? ど、どうされましたか?」
何が変だったかと、ソフィーは身なりを気にする素振りをみせるが、それを本人を置いてけぼりに説明し始めた。
「その愛い桃の毛皮のコートに似合う今日のミゼーアは可愛いの言葉の方が良いな。
それを脱ぐと修道服か……? ……黒に桃。慎ましさと愛らしさの融合か。流石のチョイスだ。シスター服が黒なのは仕方ないとして、昔と打って変わって明るい色を好んで着ているのは良い傾向だ。
俺が選ぶ事がなくなったのが、寂しいくらいだが……これはまた今日終わってからか、後日にでもここの街なり隣街なりに行って買いに行こう!!
君の髪色と喧嘩しないとは本当に素晴らしい……!
それに……」
つらつらと紫蘭の口から出る賛美に驚く、ソフィー。
それをかき消す様に「あわわ……えっと、その!!! 今日は内陸の村にっ! 行きますっ」と切り出す。
「ああ、すまない。わかった」と、にっこり笑う。そして「今日終わってからどうだ?」と早速誘い始めた。
「じ、時間があれば……ありがとうございます」
と、恥ずかしくなって下を向いて歩くソフィー。
教会のある丘を下り、アスラと鍛錬した広場を横切っていく。随分アスラがはっちゃけたせいか、ここの周りの雪はなくなっており、心なしか温かい気がした。
また、あの日とは打って変わって今日は、様々な行商人がシートを広げ道具を商品としたり、飯屋の出店が多く出ていた。
また、小屋の方も多くの旅人や冒険者などがゆっくりしていた。その光景を横切りながら、意外とここを利用するものもその為の出店も多いのだな。
魔物も出ないか、出ても弱いものだからか……?と紫蘭が思う。
「内側の街へ行く道は……ちょっと魔物多くなるかもですが、この魔石持ってるのである程度の魔物避けにはなると思います。」
と、黄緑の宝石━━魔除の魔石をソフィーが取り出した。
「まあ、もし出たならば俺がやろう」
と紫蘭が意気込む。
門を抜けると、陰鬱な印象は受けなかった教会裏の道から急に景色や雰囲気が変わった。今は雪が灯りの役割を担い、視界は良好。恐らく普段は蔦の生え、道はまだしも森の中は数十歩先も真っ暗な影となっていて冒険者でさえ勇気の入りそうだと思うくらいの森であった。
紫蘭が意気込んでいたものの、特に何も出ないまま。とりあえず不安そうなソフィーと手を繋いで、道中ミゼーアに関しての話をしていたくらいだった。
内側の街は港側より簡素な壁と門。
しかし貧困は感じず、どの家も一家建てのシンプルな造りであった。
恐らく働きへは隣街、漁業やギルド。
だから日中である今は人の少ない閑静な村に着いた。
「この村です。何もない所ですが、私は好きですね」
と、衛兵にお辞儀して入った。
「特に身分証とかは必要ないのだな」
「まあ、小さな村ですし……」
とソフィーが小声で伝えた。
それから前日と同じ様に、数軒寄っては薬等を与えていった。それに、
(例え覚えていなくともミゼーアらしいな……。記憶なんぞはまた新たに作れば良いのだ。そう、今からでも)
と、紫蘭は昔を思い出しながらついて回った。
ある程度して「終わりました!」とソフィーから声がかかった。まだ日暮れまでは時間があった。
だから「服かアクセサリーか、何か買おうか?」と、とうとう貢ぎ始める事にした紫蘭。
「え?! ほ、本当にそのつもりだったんですね……」
「ああ……、そうだが?」
「あ、ありがとうございます……」
「気になるならば、ご褒美と考えたらいい。
しかし、昔はドレスを買い込んだが……、今の君はまだ昔と比べると幼い。港町まで行かずともいいか……?
質素で素朴で清純な感じが欲しいのだ。今の君に似合うと思うのだがな。もちろん、君が望むなら豪華で煌びやかな物も買うが……いや、いっそ全部買うか!」
ぽかんとしていると、「冰渢よ、運べ」と指を鳴らす。すると、細冰が舞い、二人を運ぶ。割とスピードがあり「わわ!」と、振り落とされないように紫蘭にしがみつく。
ちゃんと抱き抱えてくれたこと、冷気を感じながら握る手に力が入る。ややあって、「……到着したぞ」と、足が再び地に着くのがわかったソフィー。どうやら、噴水広場付近の商店街の服屋の前に到着していた。
紫蘭が街を覚えているようでソフィーは嬉しくなるが、
「あら、ソフィーちゃん。彼氏さん?」
「え?!」
その言葉に驚いた。
紫蘭の着ているローブから離れるのが遅かったのか、勘違いをした店の人が出てから挨拶をしてきた。
「ああ……、彼女の服を買いに来た」
「あわわ! ち、違いますよ?!」
「あらあら、どうぞ」と、自分のことの様に喜び店に招き入れた。小さいブティックながら、品揃えは豊富で「この他にも裏にありますのでごゆっくりどうぞ」と伝えカウンターに戻った。
「何がいい? ミゼーア。値段は気にするな」
と、伝え選ばせた。紫蘭は邪魔をしないようにか、店の前のアクセサリーを見ることにしたらしく、そちらに移動した。
いつもソフィーは教会の支給品か里親の方で既に揃えられていた服。自分で選んで購入した物はないし、シンプルな物を着ていた。飾りっけがなかったり興味がなかったわけではない。店の奥さんがソフィーの事を知っていたようにちょくちょく眺めに来ていた。
「…………」
普段着からアクセサリー、夜会服まで一揃い揃えられる品揃え。しかしいざ購入となると迷うらしく、店内をうろうろしていた。
隙間から彼女のそれを見つつ、紫蘭は店主に「どれをよく見ていた……?」や「流行は?」などなど聞きまくった。店主も店主で知り合いでありたまに手伝ってくれるから一着とあげようとしたのに断るソフィーが男を連れて買いに来たとあらばそれはもうニヤニヤして張り切って紹介していった。
「こちらとこちらがよく売れていて、あの子がよくみていたのがあのあたりの可愛らしい服とあちらのドレスです」
と指を指す。
可愛らしい服は桃色や水色などパステル色が多く、フリルがあしらわれたもの。ドレスの方は藍色に控えめなシースカートにところどころラメが散りばめられていた。まるで夜空のようで美しいもの。ソフィーも店内をうろうろしてはこのブースに戻っているのも確認していて気に入っているのは確か、と納得する。
「あのラメ、魔石をあしらったものです。バリア機能があってプレゼントにはぴったりかと!!」
「全部頼む。請求は帝国へ、これは後ほどこの街の協会にこっそりおくってくれ」
紫蘭はすべて購入して更に自分好みの服も購入。
隣の街と提携していると聞き、そのカタログも丸をつけているとソフィーが見ていたドレスと同じタイプのスカートとブレスレットを持ってきた。
「それは?」
「スカートとブレスレットです」
「それだけでいいのか……?」
「は、はい! ありがとうございます」
笑う彼女にもっと欲を出したらいいのにとも思ったが、記憶がないなら仕方ないとそれらを買った。紫蘭は自分が買ったことを告げずに教会まで一緒に帰っていった。
今日の夜。
夕食後。プレゼントがいつの間にか自分の部屋の中。山のように積み上げられているのを見て卒倒したという。




