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Cocytus  作者: みらい
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第二十二話



 

 ちょうど周りが噴水広場付近の商店街だったのもあり、紫蘭は品物を見るふりをして、ソフィーがバレないように注意する。幸い雪はまだ隅っこは積もっていたので紫蘭はマントも使って上手く隠した。


「昨日はありがとうねぇ」

 

 と、金髪で短髪、黒めのフード付きの軽装備の防具。スタイルが意外にも良く生まれが異なれば王子やモデルもできそうな男が少し嫌味を含ませ近寄り話す。

 昨日は彼女に会った衝撃も相まってわからなかったが、どうやら彼らは自警団らしい。教会の騎士団はさて置き。帝国にも一応騎士団があり、その中に憲兵という警察官を担う機関はあるにはあった。

 しかし、隣の都市に要人などが来訪するため、そちら中心。この街は駐在が二、三人しかいなかった。そのため独自に自警団を置いているらしく、紫蘭は頭、頭と聞いたのでてっきり盗賊とばかり思っていた。


「……えっと、この件知ってる?」と、ボソリ呟く。


「……は?」と、紫蘭。「そもそも盗賊ではなかったのだな?」と逆に聞かれた男。

 

「自警団よ。詳しくは他に聞けばいい」と言い、紫蘭の反応にため息をついて、


「はぁ……とにかくあの女を見たらよろしくよ? 昨日みたいなのはやめなさいよ」


 と、慌てているのかそれとも素がそれなのか語尾をおかしくしながらその男は紫蘭に注意喚起した。その間も、「ど、どう言う事だ」と、紫蘭が詮索する。


しかし男は「いいから!」と、紙を取り出し何か書いて、「後で見といて!」と紙を渡されて何事も無かったように去って行った。


「━━??」

(まあ、凍らせたりしたからな、流石にやりすぎたか。

 ……しかし見覚えがあるのだが、まあこの辺金髪なんぞ良く見るし、飯屋に居たのを俺がたまたま覚えているだけ、とかか?)


 と紫蘭が首を傾ける。

 そしてその紙を特に内容を見ないまま懐に入れた。

 男たちが角を曲がったのを確認してから、「もう大丈夫だ」

 と、ソフィーに伝えた。


「よかった…! あなたがいなきゃ危なかったかも」とほっとするソフィー。まだ警戒はしながらも後ろから恐る恐る出た。

 

「事情は分からんが、……まあ役に立てたのなら良い」

特に何もしてないがなと紫蘭が呟く。ソフィーは


(言わなきゃ……。色々……でもっ、言えないな。ミゼーアさんの事も違いますって言えないし……)


 ともやもやしながらも、歯切れが悪そうに、

「えっと、スラムでのことを糸引いて今追われている感じです。

 と言っても生前母が残した借金返済のことだと思いますけど……」

 とソフィーが伝える。


「それは面倒だな。神父には?」


 頭を振り、「まだです。言いにくくて……」


「じゃあ俺からでいいなら、伝えておこう。そうすれば、些か話しやすいだろう?」


「!! まだ会って間もないのに……何から何までありがとうございます」

 ぺこり頭を下げる。


「やめてくれ。君だからするのだ」と紫蘭が伝えた。


「俺は昔から周知してはいるから大丈夫だ。昔からトラブルと一緒だったからなミゼーアは」

 と、ソフィーは覚えていない。思い出していない過去、前世を伝えた。


 それから「色々、昔の事も話したい。……だから気にするな」と紫蘭。お互いの事。過去。どちらも互いに分からない。

 ましてや、ソフィーは容姿は同じだが前世など知らない。

 

(なんだか説得力あるし、落ち着くし何より天人さまだしもしかしたらある程度高い身分のかたなのかも……?

 で、でもミゼーアさんじゃないんだけどな。多分転生ってわけじゃないだろうし。ちょっと天然さんなのかなあ…。

 いつか伝えなきゃ。きっと受け止めてくれそうだし……)


 と、依然ミゼーアと己を呼ぶ男を見る。

 思っていたことが顔に出ていたせいか、

「どうした?」と聞いてきた。呆れていたことを顔をぶんぶんして、切り替える。そして、

「えっと、明日は隣町…に行くんです。海岸沿いではなく内陸の方なのですが……よかったら」と護衛をお願いした。


「もちろん」という元気な返事ががえってきて、急に「昼寝するから一緒しないか? 昨日ねていないのだ! きっと君となら安眠できそうだから……!!」

 というソフィーにしてみればよくわからない紫蘭からの誘いを丁重に断った。しょんぼりする紫蘭。


「な、ならば、隣街の海水浴場とやら散歩しないか? 昔、通ったことがあるのだ」


「そ、それなら……」


 と、街まで行くならもっとかかるが、砂浜自体はここから歩きですぐ行ける距離。その海水浴場へ向かうことになった。降雪のため恐らくは人は少ない筈。それならゆっくり過ごせると紫蘭はうきうきで彼女とそこまで歩いていった。

 

 そこは海の底にある都市の竜が亡んでその竜の魔石が流れてきていた。雪と白い砂浜。そして翡翠色の魔石がまだ天気の優れない中でも輝いてみえた。

 翡翠の魔石がシーグラスのように粉々になっていて、緑の部分も多く、海自体もその魔石に浄化作用があるのか透明で、ただただ底に沈む宝石で深碧(しんぺき)に染まっていた。


 やはり、人はおらず貸切状態。

 それを良いことに、波打ち際。冷たいのでギリギリまで行っては波が来ると逃げる。また寄せては返す波と戯れ、きゃっきゃとはしゃぐソフィー。

 時折、落ちる日の光に魔石が反射し、さらにソフィーの髪を翠に輝かせる。

 いつぞや見た夢の様。


「緑に変わったところを除けばやはり変わらないな……」

「そうなんですか?」と振り向くソフィー。

「ああ。この緑の魔石は多分魔石を運んでいた船が難破したからだろう。この辺に海底都市はなかったからな」

「そういう研究者の方々に伝えないのですか?」

「ま、奴等は己の力で見つければいい。それに歴史はいくらでも改竄出来るしな。

 

 ああ……、ここまで来てもらって、すまないな……。

 抑えきれんのだ。昔はミゼーアの方が俺に執心していたんだが……今は俺の方が恋焦がれている」

 と、愛されていた事をしっかり自負していたらしい紫蘭に苦笑しながら聞く彼女。

 

「君が転生……であると嬉しいが、そうでなくとも付き合ってくれて感謝してるぞ」


 その浜辺をまた戻り、教会の帰路に着いた。


 

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