9.綺麗な世界と血まみれの世界と
殺し足りない・・・
それが、私の一日の感想だった。何で一人しか殺させてくれないの?
チョコを一粒食べただけで満足いかないように、私は殺し足りなかった。
一度その快楽味わうとやめられないように、私は殺しを求めてしまった。しかし、今はその体の内側から沸き上がるような感情を抑え込む。今ここで何かをすることは危うい。この世界をよく知らない私がこの世界の人間にかなうわけはない。ひとまず殺しは自重すべきだろう。
来葉は与えられた部屋のベッドに寝ころんで、いろいろ考えていた。彼女にとっての一番の関心事はつーちゃんのことであり、その次に殺しのことであった。
つーちゃんは今頃どこにいて何をしているのだろう。私が殺したのは確かだ。そのことについてはとても後悔している。しかし、なぜか彼はこの世界に転生したようだ。ううーん、わからない。なぜ彼があの状態で転生できたのか。
私が考えてもどうにもならないか・・・それよりも、これはチャンスだ。天が確実に地獄行の私に与えてくれた千載一遇のチャンスだ。もう一度きちんと私の望む殺し方ができる。もし、彼が生きていなければ、私は生きている意味はないだろう。それだけ私は彼のことを愛している。
よし、っと私は体を奮い立たせる。彼を探して、以前の関係にもどる。それが私の今のやるべきことだ。
そう、決心して私は眠りについたのだった。
懐かしい夢を見た。
そのころの私はまだ何もない。ただの女の子だった。私が初めて彼に出会ったのは、そう、あの秋晴れの大きなクスノキの元だった。
「君、どうしたの?」
「・・・」
私は無視した。私はたぶんかまってほしかったのだろう。しかし、昔から天邪鬼だったため、いつも逆の行動をとってしまう。悪い癖だなと自分でも思う。最近は自分の感情がコントロールできるようになったが、本質は変わっていないような気がする。
「どうしたの?」
「どうもしてない。」
私は顔をも上げずに怒鳴りつける。本当にどうもしてなかったのも事実だ。私はただ拗ねて勢いで家を飛び出して近くの公園でうずくまって泣いていただけだ。
「ほら。」
彼は昔から優しかった。私が狂わなかったら私たちはお似合いだったかもしれない。まあ、それは仮定の話だ。現実は違う。彼は綺麗な世界を生きており、私は血にまみれた世界を生きている。
私は彼が差し出したハンカチを払い落とす。彼は一瞬驚いたような顔をした。
「泣いてないから。」
私は小さい声でそう言った。
「なんて言ったの?」
彼には私の声が聞こえなかったのだろう。
「泣いてないから。」
私はまた彼に怒鳴りつけてしまう。
「だって・・・」
彼はどうしていいかわからないようだった。そもそも、小学生がハンカチを差し出す時点で大人びた紳士な対応なのだ。これ以上求めても仕方がない。
私はその後のことはあまり覚えていない。ただ、私は傲慢にも駄々をこねて彼に家まで送ってもらったことは覚えている。私は昔から面倒くさい女だったのだろう。
それからというもの私と彼は仲良くなって、家が近いのもあり、小学生、中学生はずっと一緒だった。高校は一緒にいるために同じ高校を受験した。もちろん、彼の試験結果を改ざんしたりなどはしていない。心配になって合格発表の前に見てみたが、ちゃんと合格はしていた。そして、ついでに私と彼が一緒のクラスになるように入学予定者の名簿を少しいじったりはしたが、たいしたことではないだろう。中学でも同じようなことをしていた。
私はずっと普通の女子を演じてきた。成績も身体能力も平均くらいを取って勉強ができる彼に教えてもらったりしていた。本当は父の教育の賜物で全部わかるのだが、彼との時間をつくるためにあえて普通を演じた。
彼の普通の世界、彼の綺麗な世界を守るために。彼の邪魔になりそうなものは彼が気が付かないうちにすべて排除してきた。それほど、私は彼を愛している。しかし、これは叶わぬ恋、叶った瞬間に私が終わらせてしまうだろう。だから、私は以前の関係を維持したい。ただ、それだけだ。
いつも読んでいただきありがとうございます。




