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20 覚醒

 まるで時間が止まったような感じになって意識を暗転させてしまったのだが……どことなく落ち着いてしまいそうになる暖かさというものを感じてしまっていた。


 「……ここは……どこだ……?」


 恐る恐る目を開けてみると、そこは見たこともない空間になっていた。

 色んなところが歪み、うねり、曲がり、歪み、うねり、曲がり、そんな風な空間になっている。

 そういえば、意識が暗転みたいになった時は必ずシルテと会っていると思ったのだが……今回の意識暗転ではシルテはいないみたいだ。

 なら、どうしてあの瞬間時間が止まって意識が暗転をしてしまったのだろうか。


 不思議に思いながら辺りを見渡していると、視線の先にここ最近ずっと見てきた人物が突然現れたのである。


 「……リーナ……?」


 なんでこんなところにいるんだ? リーナは今、シルルテ村で俺の帰りを待っているはず……なのに、なんでここにいるんだ……。

 目の前で起こるはずもないことが起こっているせいか、正確な判断ができなくなってしまっていた。

 そう、ここが、()俺のいる()()が、『森の怪物』のいる森の中ではないということを。


 突然姿を現したリーナはゆっくりと俺のところへやって来る。

 そんなリーナを俺は腕で優しく包む。


 「パパ……絶対、絶対に帰って来るよね?」


 すると、リーナはそんなことを言ってきたのである。

 

 「――っ」


 しかし、俺はどう返すべきか言葉を悩んだ。

 今、俺が置かれている立場は、『森の怪物』の大きな爪によって攻撃をくらいそうになっているという非常にまずいタイミング。

 正直言って、勝てる見込みゼロの相手と戦って、リーナのところに絶対・・帰れるかなんてものはわからない。

 帰れる可能性があるのならたったの一%で、帰れない可能性は九十九%だろう。

 もしかすると、百%リーナのところには帰れないかもしれない。

 否、もしかするとではなく、もしかしなくても、かもしれないな。


 「……パパ?」


 うつむいてどうすればいいのかわからなくなっていた俺に対して、リーナが俺に抱きついて顔を覗いてくる。

 なんていうか……出会った時よりずいぶんしゃべるようになったよな……リーナ。


 「……パパ……!」


 そんな時、リーナが強く俺に呼びかけてきたのだ。

 今までとはなにかが違う、そんなことが少しだけ分かる。


 「どうしたの、リーナ?」


 本当にどうしたのだろうか。今まで強く呼びかけてきたことはなかったのに、なんで強く呼びかけてきたんだ?

 疑問に思っていると――突然、体全体が暖かい何かに包み込まれてしまうのを感じてしまった。

 そこからだんだんと眠気が襲ってくるが、俺はその眠気に抗おうとはせずに意識を眠気へと畔蹴ることにしたのだった。

 どうしてこんなことをしてしまったのかはわからないがあえて言葉にするのなら、こうした方が良いよという気持ちと、リーナがそうして欲しいという気持ちが伝わってきたからだ。


 ◇


 暖かい何かに包み込まれて眠気に襲われてからしばらく、俺の意識は覚醒を果たした。

 しかし、今目の前に映っている光景は、今起こっているものではなく映像的な何かだ。

 これは……?

 疑問になりながらもその映像を見ていると、リーナのような少女が姿を現したのである。


 そこからしばらくしてから、リーナの頭を触れて、家から出ていったリーナの両親。

 どうやら、リーナは家でお留守番のようだ。

 ……ん? どうして、あの両親がリーナの両親なのかって思ったのかって? それは……どうしてなんだろう。

 ただ、分かっているのは、脳がそう言っているからである。


 それから家で一人でお留守番をしていたリーナだったが、予定の時間になっても両親は帰ってこなかった。

 そこから、一時間、二時間、三時間、四時間――そんな長い時間が経ってしまいながらも家でお留守番をしていたリーナだったが、その日両親が家に帰ってくることはなかった。


 次の日、リーナは早朝に目を覚ますと、両親を見つけるために家を飛び出していった。

 だが、家の外は戦争があったのかと思わせるほどの荒れた地に変わり果てており――だけれど、リーナはそんな荒れた地の中を独りで歩いて行った。

 両親がいるかもしれないという思いを胸に……。


 だけれど、リーナは両親に出会うことはできなかった。

 そして、家からずいぶん離れてしまった場所にやって来てしまっていたリーナは、体力の限界も来てしまったせいか、その場に倒れるようにして眠ってしまったのであった。


 そんな感じで、この映像が目の前から消えてしまったのであった。




 その後、俺の中にリーナに関する色々な情報が入ってきた。


 まず、両親の記憶がないということ。

 これは記憶喪失的な何かだろうな。


 次に、リーナはもう二度と両親と離れ離れになりたくないということ。

 俺がパパになってしまったことで、帰って来てくれることをリーナは心から待ち望んでいる。


 最後に、俺のことを本当にパパだと、リーナは心から思っているということ。

 これには、本当に驚いてしまった。


 正直、俺はまだ高校生だから、父になるということを受け入れることができていなかった。

 だけれど、リーナは思ってくれている。俺のことをパパだと思ってくれている。

 ならば、俺はリーナのパパになるという決意をしなくてはいけないのだ!


 そして、リーナに二度と悲しい思いをさせてはいけない。


 絶対に、絶対に、絶対に、リーナのところへ戻って見せなくてはならないのだ!


 俺は二度と諦めたりしない!! リーナが俺のことをパパだと思ってていてくれるのならば、俺はリーナのパパであるだけだ!!!!


 そう強い決意をした瞬間――俺の意識は現実へと戻されてしまうのであった。


 ◇


 戻ってきたと同時に、俺は『森の怪物』の大きな爪の攻撃を避けた。

 そして瞬時に、『森の怪物』を後方へと移動をする。


 「――ン?」


 手ごたえを感じれなかった『森の怪物』は、今まで言葉を発していなかったはずなのだが人間が話す言葉を口に出した。

 内心驚いてしまったが、これが異世界なのだろうと、今は自分の中にそう言い聞かせる。


 「おイ、小僧。どうやッテ避ケた?」


 さすがに今までの動きとは全く違う動きをしていたからか、『森の怪物』は疑問に思ってしまったみたいだ。


 「さっきよりも的確な判断をしてから、避けましたよ」


 どんな口調でしゃべればいいんだろう……とりあえず、こんな感じで良いかな。

 それとなんというか、俺の中にある何かがもの凄いスピードで変わっている気がしている。


 「そうナのカ。ナラ改めて自己紹介をサせてモラウトしよう。オレは、ウルフという魔物から超進化を果たした、《エルテファ・ウルフ》。世界にどレクらい存在してイルかわからんガ、この森にはオレ一体だけしか存在シテいなイ」


 俺が立っている方を向くと、丁寧に自己紹介をしてくれた『森の怪物』改め《エルテファ・ウルフ》。

 ラノベで表してみるならば、特別になにか強いものを持っている可能性のある魔物なのだろうな。


 「えっと、俺はナギル・ナツナギ。なんというか、この世界の住人じゃない人間だ」


 間違ったことは口にしていない。

 ただ、なんて自己紹介をすればいいのかわからなくなってしまい、そう口にしてしまった。

 ……たぶん、どうにかなるはずだ……! たぶん!


 「……この世界の住人ジャナイのカ。それは楽しミだナ」


 ニヤリと笑って見せる《エルテファ・ウルフ》だったが、次の瞬間にはその場所から姿を消して、俺に向かって突っ込んできてしまっていた。

 だけれど、さっきまでの俺の動きとは違い、驚くことなく正確に動くことが出来る。なので、どこに避ければいいのかなど、一瞬にして分かってしまうである。


 今までギリギリで避けていた俺だが、今は安心感を持って避けることが出来てしまう。


 「さすがノ動きダ! だが、本気を出しテイルオレに勝てルかな」


 《エルテファ・ウルフ》はそう口にすると同時に今までの動きではないような速さになって、俺に攻撃をしてくる。

 まじか、本気を出しているのか《エルテファ・ウルフ》。

 ――だったら……。

 さすがの俺も、避けてばかりではだめだと思ったのでスキルを使って攻撃をすることにした。


 「ファイアボール」

 「同じヨウナ手を」


 そう唱えると同時に右手から魔法陣が出現した。

 攻撃を避けた俺を《エルテファ・ウルフ》は目で追ってきながら、よけようともせずにそう言ってくる。


 「――ッナ」


 しかし魔法陣から放たれたのは、今までよりもはるかに大きな火の塊だった。

 さすがの《エルテファ・ウルフ》も予想外の事態に驚いて、俺から一定の距離を置こうとする。だが、それよりも早く。


 「ボカァァァァァァァァン!!!!!」


 そんな爆発音が辺り一面に流れるようにして聞こえていった。

 結果、俺が放ったファイアボールは《エルテファ・ウルフ》にもろ直撃。爆炎が起こり、辺り一面が凄く熱くなってしまっている。

 あ……木に火が移ってしまった。

 さすがにこのまま放置しておくのはいけないよな。


 「ウォーターボール」


 火が燃え広がる前に、火が起こっている木に向かってウォーターボールを放つ。

 その結果、消火することが出来た。ただ、辺り一面が水浸しである。


 煙が起こっていたのだが、ウォーターボールの影響で一気になくなってしまった。

 そこから現れる《エルテファ・ウルフ》だが……なんか死にかけている気がしなくもない。


 「あのー、《エルテファ・ウルフ》さん……?」


 本当に死んだのか確認したくなり、近寄って行って声を掛けてみる。


 「……」


 返事がない。


 「生きてますー?」


 もう一度。


 「…………」


 あれ?


 「あのー、どうなんですか……!」


 もしかして?


 「………………」


 ただのしかばねのようだった。


 「まじか、死んでしまったのか……」


 まあ、ここまで毛皮がチリチリになっていれば死んでしまうのも当たり前か。

 これで死んでなかったら、逆に怖い。ゾンビだな。うん、絶対ゾンビだ!

 そんなことを思っていた俺だったが、


 「……オレはまだ……死んデねェぞ……」


 どうにか口を動かして《エルテファ・ウルフ》が生きてるアピールをしてきたのだ。


 「なんだ、生きてるじゃないか」


 正直、生きてるのは良かった気がする。

 いや、《エルテファ・ウルフ》って見た目は大きな狼だけれど、狼って実質犬って言われているじゃないか。だから、殺してしまうのはさすがにアレだなぁーってね。


 「まだ戦う……?」


 だから俺は実質犬である《エルテファ・ウルフ》に対して、そう尋ねてみたのであった。


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