転生死神、ヤケになる
(やっべええええ! 今めっちゃピンチになってんじゃん! 何やってくれてんのあの野郎ども!?)
俺は茂みの中に隠れながらさっき声がした方向を見ている。今の俺ならどんなに頑張っても出せない「コソコソ」っていう擬音も出せそうだ。
まあ何があったかを簡単に言うと、蛍光色たちが俺に「助けてやってくれ」って言ってたサリエットっちゅー娘らしき人物が少なくとも50は下る盗賊たちに追い詰められていたのだ。
そのサリエットっぽい娘の格好はもうまさに満身創痍。着ている神官服はボロボロで穴もズボズボ開いている。ところどころ血が滲んでいる箇所もある。それに対して盗賊たちはいつでも準備OKって感じだ。着ている革鎧はツヤツヤしているし、持っている長剣なり短刀なりは研ぎたてホヤホヤってなもんだ。
やがて、盗賊たちを睨むように見ていたサリエットっぽい娘は、どういう訳だか顔に笑みを浮かべた。その笑みは、盗賊たちには理解できなかったのだろう。盗賊たちは侮辱されたと勘違いしてか顔がさらに険しくなる。だが、俺にはその笑顔に見覚えがあった。それは、就活を諦めようと決めた時の俺の笑顔と同じ。ニートになろうと決めた時の俺の笑顔と同じ。つまり、覚悟を決めた者だけに許される笑みだ。
(こいつ、死ぬつもりだぞ!)
そう気付いた俺は猛烈に慌てだした。このままではあの娘を死なせてしまうだろう。そうすれば超後味が悪くなるし、可愛い娘と仲良くなくなろう大作戦も失敗に終わってしまう。
(よし、どうする俺。ゆっくり考えてる時間はないぞ? まず、どうやってあの娘を助けるかだ。あの子を助けるためには、まず『その①。全員を蹴散らす』。...無理だコレ。なんつー脳筋理論だよ。じゃあ『その②。あの娘を連れて逃げる』。...どこぞのヒーロー悪党かよ。そんな筋力俺には無いぞ。そんじゃあ『その④。適当に決め言葉を言って俺の強面で相手をビビらせる』。...あれ? 行けそうだぞコレ。認めたくはないが行けそうだぞコレ。そんじゃあその次どうする? ああ! 時間がねえ! もういい、こうなりゃアドリブだアドリブ! そういうのはやらかしてから考えるんだよこのクソ野郎!)
俺はそう作戦のようで作戦じゃないよくわからないやつを決めて、後は決め言葉を考えるだけになる。そして、その決め言葉も一瞬で思いつく。やっぱり伊達にネッ友たちに「中二病康弘様」だなんて言われていた訳ではない。
そうと決めた俺は口の中でその決め言葉を何度も唱えながら茂みから飛び出る。そして、そのサリエットっぽい娘の後ろに立って精一杯の強面を作った。
そして、一瞬で思いついた決め言葉を盗賊たちに放った。
「おいおい。こんなかわいい姉ちゃんに何やってくれとんじゃいお前ら。」
俺はそこで区切る。決め言葉というものは、区切りも重要だ。ちゃんと区切って言わないと「台本を丸暗記してきただけの三流演劇部」みたいになってしまう。
俺のそんな決め言葉が効いているのか盗賊たちの群れの一番前にいた奴がうろたえながらも叫んだ。
「な、なんだ貴様ッ!」
そんなテンプレすぎる問いに俺は鼻で笑いながら答える。決め言葉の武器は口だけではない。口以外も使っていかなければただの「親とカラオケ行った時の反抗期の高校生」みたいになってしまう。
「はぁ? 女の子に大人数で切りかかるような奴らに名乗る名前なんてないっつうの。」
そこで俺は声色を不快気なトーンに変える。こういうことも重要だ。っていうか俺アドリブの才能ありすぎじゃないか? もしかしたら演劇目指せばまともな仕事につけたんじゃないのか?
「だが、まあそんなお前らにはもったいない大切なプレゼントが俺からあるんだわ。」
俺がそう続けると前にいたサリエットらしき娘が後ろを振り向く。茂みの中から眺めていても分かったが、やはりこいつは可愛い女の子だ。性格までは分からないが、まあそこまで歪んでいることはないだろう。これは結構期待できるぞ。
そんな邪なことを考えながらも俺は続ける。
「それは、死だ。」
(決まったああ! やったぞ、俺はやったぞ!)
俺はそう心の中で発狂しながらもガッツポーズをしながらヘッドスピンをする。もちろんそれも心の中だ。
俺の強面大作戦は一応成功しているらしく、盗賊たちの中にはズボンの股の部分を濡らしている奴もいた。もちろん何をして濡らしたかは考えない。
(こりゃあやったんじゃね!? あー、やっぱ俺天才だわ。俺は天才らんらんらーん!)
心の中でそんなフラグじみたことを言いながら宴の準備を始める俺は、やがて今の状況が作戦とは少し違うことに気付く。
盗賊たちが逃げ出してないのだ。俺の作戦通りならここで盗賊たちが逃げ出して俺はサリエット(仮)に「大丈夫だったかいお嬢さん」って言っているはずなのだが。
俺は恐る恐る盗賊たちに聞いてみる。
「あ、あれ? お前ら逃げないのか?」
「も、もちろんだ。確かに貴様は恐ろしい。ちびってる奴もいるくらいだ。だがな、この人数全員にそのプレゼントを渡すことができるかな?」
頭っぽい奴は話しているうちに自信がついてきたのかだんだんとハキハキした話し方になってくる。そして、頭っぽい奴は自分の後方を指した。そこには、500は行きそうなくらいの量の盗賊たちがいた。
「お前ら増えてね?」
「そりゃそうだろう。俺たちは手分けしてそこの女を探していたんだ。全部集まればこれくらいの量になるのは当たり前だろう。まあこれでも減った方だがな。」
頭はそんなことを言いながら剣の柄に手を掛ける。
「ま、待て、待ってくれ。別に恐れをなしたわけではないが、話し合ってみないか? ほら、一騎打ちとか? 別に怖いわけはじゃないぞ?」
俺は内心めっちゃ焦りながらそんなことを聞いてみた。それに対して頭は鼻で笑いながら答える。
「お前みたいな手練れのような奴に一騎打ちを挑むような馬鹿がどこにいる。俺たちはゴブリンじゃないんだぞ? まあその女をこちらに渡すのであれば話は別だがな。」
そう聞いた俺は目の前が真っ青になった。
(あ、こりゃ終わったわ)
もうそうとなれば後はヤケだ。こうなれば後は必殺自家製鎌ブンブンだ。
「ちっくしょおおおおおお! お前らかかってきやがれこのクソ野郎どもおおおおおおお!」
どうも、ドスパラリンチョです。
喉が痛い。マジで喉が痛い。何があったかって、本日数少ない友達をカラオケに誘ったのですが誰も来なくて一人で半泣きでずっと歌ってました。
それはそうと、昨日投降した後に1話と2話に修正を入れました。多少は読みやすくなっていると思うのでぜひ読み直してもらってはいかがでしょうか。
さあ、内容の解説に入ろう!
今回は前回宣言した通りサリエットと康弘が会いました。と言っても康弘は助けた女の子がまだサリエットだということは確実には分かっていないので「サリエットっぽい娘」と表現しますた。
それでは、今日はここらへんで終わります。
読んでくれた方、ありがとうございました!




