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誰にも見えない僕を、残念美少女探偵だけが「ワトソン」と呼んで逃がさない  作者: 香取仄


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2/2

来栖クリスは誘惑したい

バニーガーデン2をプレイしてたら遅れました。おっぱいには勝てなかったよ……。



季節は夏真っ盛り。本日もお天道様てんとうさまは元気いっぱいに紫外線を振り撒いており、気温は38度を記録している。

放課後、ここは都内某所高校の2階のミステリー同好会に与えられた一室。うず高く机に積まれた本の山で雑然としており、相も変わらずうんともすんともいわない冷房が恨めしい。


「……もう、辛抱(しんぼう)(たま)らないよ……来栖さん」

「お、落ち着きたまえっ……!こういうモノは、えっと……その……と、時と場合、という物があるだろう……!」



僕と彼女の他に誰もいない、2人っきりのミステリー同好会の部室。いつも涼しい顔している部長の"来栖(くるす)クリス"さんが、珍しく狼狽(うろた)えている様を見やる。


今日も真夏の室内だというのにトレードマークのハンチング帽を頭に乗せ、キッチリと着こなした制服の上にケープを羽織ったご機嫌な探偵ファッションだ。

顔を見つめると整った顔立ちは紅潮(こうちょう)しており、襟から覗く首筋は(なまめ)かしく、印象的な青みがかった瞳は不安そうに揺れている。


普段あまり見ることのない来栖さんの様子に嗜虐心(しぎゃくしん)(くすぐ)られ、僕は言う。


「……いいや、待てないよ。……僕も、もう我慢の限界なんだっ……!」

「ま、待ってくれ、や、やぁっ……!」



嫌がる来栖さんに強引に迫って、僕は彼女に自らの欲望を叩きつけた。


「そこらじゅう本だらけのこの部室、いい加減に整理しようよ!」



そういうことである。僕の腕の中に収まったのは、可憐な美少女……ではなく、埃を被った厚手のミステリー小説の束だった。


「この部室を整理するだって!?お断りだね、私は梃子(てこ)でも動かないぞ!!」

「わかったわかった、わかったから掃除と整理を手伝ってよ」



興奮して捲し立てる来栖さんを横目に、置きっぱなしになったままの本を元の棚に戻しながら作者順に並べていく。部室は見渡す限りの本、本、本、もはや本の山に占拠されていると言っても過言ではない。中々に骨が折れる重労働になりそうだ。


「いいや、わかってないね!いいかね、ワトソンくん。この部室の物の配置は、ただ雑然としているのではない!部長である私が使いやすいように全て意味のある配置になっているのだよ!?」

「掃除ができない人の言い訳だよ、それ」


それと僕はワトソンじゃない。


「それに今日、生徒会の人が来る予定なんでしょ?部室がこんな有様じゃ廃部にされたって文句言えないよ」

「ぐぬぬ……痛いところを突いてくるじゃあないかっ……!」



そう吐き捨てると、来栖さんは「いや、でも……くぅ……!背に腹は変えられまい……!」と忌々しげにしていたが、ため息を一つ吐くと仕方なくというように部室の整理を始めた。最初から手伝ってくれたら良かったのに……。


「しかし、不思議なものだね」



僕を尻目に本の整理に手を動かし始めた来栖さんがふと呟いた。


「何が?」

「君の"存在"そのものが、だよ」


「君は今のところ、私以外の誰にも認識することができないにも関わらず、現実世界の物に触れ、この世界に干渉することが出来ている」


部室の整理に腐心する僕を見て、指を顎に当てて思案顔の来栖さん。そんなことはいいから、せかせか手を動かしてくれないかなぁ。


「いったい、どういう仕組みなのだろうね?」

「うーん、僕にもいまいち分かってないからね」



来栖さんが好奇心に満ちた目を僕に向けてくる。僕は手に取った本を1冊ずつ本棚に戻しながら、「そうだなぁ」と自身の仕組みについて知っていることを語る。


「来栖さんも知っての通りだけど、物に触って干渉することはできるね」


「例えば、僕はよく本を読んでいるけど、側からみたら本だけが浮いてひとりでにページが捲られてるように見えるんじゃないかな。」


「でも、本を読む僕を認識したその人は本が浮いてようがひとりでにページが(めく)られていようが、その現象に違和感を感じることはできないみたいだね」


おもむろに乱雑に置かれた本を1冊手に取ってページをパラパラと捲ってみせる。


「ふむ、私にとってはワトソンくんが本のページを捲っているようにしか見えないが」

「僕からすれば、僕のことを認識できる来栖さんの方が不思議なんだけどね」



語る僕に、にまにまと楽しげに来栖さんは質問を投げかけてくる。


「人間には三大欲求という生理的欲求があるが、君にもあるのかい?」

「ないね」


三大欲求とは、よく挙げられる説は食欲、睡眠欲、性欲の3つだけど、食欲、睡眠欲、排泄欲を三大欲求とする説もあるらしい。


「物を食べることもできるし、食べ物を食べて美味しいとも感じる。眠ることもできるけど、眠らなくとも特に活動に支障はないね」

「聞けば聞くほど不思議な生態だな、君は。それで?」



「それで、って?」と聞き返す僕に、来栖さんは決まっているだろう?と言わんばかりの顔でくねくねと摩訶不思議(まかふしぎ)なポーズを取ると──


「うっふーん♡」



──バチコーン⭐︎とウインクをする来栖さん。


そんな、馬鹿な……!この令和の時代に、そんなテンプレ的なお約束をする人間がこの世に存在するなんて!あり得るのか!?この令和に

……!?


「私の悩殺セクシーポーズも効果なし──と」

「そんな、馬鹿な」


思わず口をついて出てしまったことを許していただきたい。アレが悩殺セクシーポーズ、だと?僕にはMPが下がるふしぎなおどりにしか見えなかったよ。


「む、馬鹿とは失礼だな!これでも人並み以上の容姿であると自負しているのだがね!」

「僕のために身体を張ってくれたギャグをありがとう。悪い夢に出てきそうだよ……」



プンスカ怒る来栖さん、こころなしか、帽子の隙間からちょこんと覗くアホ毛もプンプンとご立腹のようだ。

普通にしてればプラチナブロンドが目を惹く美少女と言えるのに、口を開くと何故こんなにも残念感が漂うのか。


「まあ、いいさ。君のことを知るのは、今はこれくらいにしておくとしよう」



そう言って来栖さんは本を1冊手に取って、意味深に数秒眺めると本棚に戻した。チラとそれを横目に確認すると、本の題名は『非実在青少年』。



──なんだかなぁ。





「さて、こんなものだろう」



2人で部室の整理に(はげ)むこと小一時間、ようやく他人様にお見せできるくらいには綺麗に整頓できたか、というところ。


「もう部室をめちゃくちゃにしないでよ」

「それは約束できかねるね。ミステリー同好会の主は私なのだから」

「部室は来栖さんの物じゃなくて学校の物でしょ」

「それはそれ、これはこれ、というやつさ」



なんとジャイアニズム溢れる考えの持ち主であろうか。前世は悪辣(あくらつ)な王様かなにかに違いない。


などとたわいもないやり取りをしていると──


「来栖はいるか」



部室の建て付けの悪いドアをピシャリと開けると同時に来栖さんを呼ぶ声。その声の主を見やると、来栖さんは鞄からスマホを手に取り「時間通りだね、几帳面なことだ」と呟く。


「ご機嫌よう、"九重 飛鳥(ここのえ あすか)"生徒会長。そしてようこそ、ミステリー同好会へ。お忙しい生徒会長殿が自らお越しとはね……用件はなんだい、あまり長居はして欲しくないが」

「そう邪険(じゃけん)に扱われるのも心外だな」



仏頂面でミステリー同好会の入り口に立つのは、長い黒髪をポニーテールに纏めた、凛とした佇まいに神経質そうな吊り目が特徴的な女子生徒。胸元のリボンの色は青色、2年生らしい。


「早く部員を集めろと、ことあるごとにせっつかれれば邪険にしたくもなるさ」

「部員が1人しかいない同好会の存続を許してるのだから、大目に見てほしいものだがな」


「まあいい、雑談をしに態々足を運んだのではない。少し長話になる、掛けさせてもらうぞ」



九重さんが椅子に座るのを見て、来栖さんも不服そうに椅子に腰掛ける。


「単刀直入に言う。依頼だ、来栖。探偵ごっこをしているお前に、私からの」

「──ほう?珍しいこともあるものだね、今日は槍でも降るのかい」

「生憎と今日1日中は晴れ模様だ」



この2人……皮肉を言い合わないと会話できないのだろうか?なんとも因縁(いんねん)を感じずにはいられない会話劇である。


コホンと九重さんが咳払いをすると、本題を語り出す。


「"白百合 悠(しらゆり ゆう)"という生徒を知っているか?」

「知らないね。誰だい、それは」

「そうか、私も知らん」

「はぁ?君は私をバカにしているのかい」



呆れと怒りをない混ぜにしたような表情を浮かべる来栖さんに対し、対面に座る九重さんはなんとも言えない渋面で腕を組んでいる。


「まあ、聞け。この白百合という生徒だが──私が調べた限りにおいて、我が校にはそのような名前の生徒は在学していない」

「ふーん?」



来栖さんは頷きつつ、僕に視線を寄越す。また存在していない学生の話か。この学校、ポコポコと変な存在がポップしすぎじゃないだろうか?例えば僕とか。


「それで?その白百合某とやらが何処の誰かを調べればいいのかい?」

「相変わらず、せっかちだなお前は。人の話は最後まで聞けと習わなかったのか」


九重さんは腕を組み替えて「ここからは、お前好みの話だ」と語る。


「件の白百合 悠、同時期に複数人の生徒、教師からも目撃証言が上がっている。だが、どの目撃証言を聞いても誰1人として容姿の情報が一致しないんだ」


「金髪のギャルだと言うやつもいれば、清楚な眼鏡をかけた黒髪という証言もあった。かと思えば、トンチキなピンク髪のオタクという証言も上がっている。その他色々な証言があるが……どれも似たり寄ったりだな」


「ただ、全ての証言で共通していることは、我が校の制服を着て"白百合 悠"と名乗ること。今のところ生徒が何がしかの被害を受けたという話は聞かないが、これから被害が出ないという保証もない。……それに、この白百合 悠……不気味な違和感を感じる」


「そこで、だ。私からの依頼は、この白百合 悠という者の正体と目的を調べて貰いたい。──どうだ、お前が好きそうな話だろ?」



話を締め括る九重さんに「なるほどね」と興味深そうに来栖さんは相槌を打つ。


「生徒会長として、そのような得体の知れんヤツが我が校の敷地を彷徨(うろつ)くことは看過できん……が、先生方に説明して警察に頼ろうかとも思ったが、実害がないからかどうにも腰が重いようでな……」

「それで私のところまでお鉢が回ってきた、ということかい」



九重さんが白百合 悠の目撃場所などの情報を語る中、来栖さんはしばし、顎に指を当てるお決まりのポーズで思考海を漂っていたようだが──


「よし、引き受けようじゃあないか」



そういうことになった。


「見返りはもちろんあるんだろうね」

「またしばらくは、部員が1人しかいない同好会に口出ししないし、させないと約束するさ」



「いつも通りじゃないか」とブツクサと不満そうに呟やいている。この同好会、そうやって生きながらえてきたんだ……。


「さて、私は次の予定がある。そろそろお暇させて貰うが……いいかげん部員を増やさないと、いつか廃部になっても知らんぞ」

「余計なお世話だよ」



シッシと追い払うように手を払う来栖さん。その様子を見て九重さんは首を(すく)めて椅子から立ち上がると、さっさと部室から出て行くとドアを閉めて別れの言葉を告げる。


「またな」

「しばらく来るんじゃあないよ」



──ピシャリ、と生徒会長"九重 飛鳥(ここのえ あすか)"さんはミステリー同好会を後にした。


「ずいぶん仲が良さそうだったね」

「腐れ縁というやつだよ、く、さ、れ、え、ん!」



来栖さんは不機嫌そうにふんと鼻を鳴らす。


「昔から何かと張り合ってきてね。向こうは真面目一辺倒、私はこの通り自由奔放。まあ、水と油のような関係さ」



九重 飛鳥生徒会長。彼女と話す来栖さんは無愛想な雰囲気ではあったが、決して彼女のことが嫌いという感じではなかった。むしろ──


「友達、いたんだね来栖さん」

「──んなっ!?」


「なんて失礼なことを言うんだ君は!わ、私にだって友達の1人や2人……ふ、2人くらいはいるに決まってるだろう!失礼しちゃうよ、全く!!」



椅子から立ち上がって早口で鼻息を荒くして言い募る。この反応、九重さん以外に友達いなさそうだよなぁ。いないんだろうなぁ。変人だし……。


「そんなことよりもさ」

「そ、そんなこと!?」



愕然(がくぜん)としている来栖さんに、九重さんからの依頼の件についての話を振る。


「九重さんからの依頼、どうするの?」

「あ、あぁ。そのことか……」



納得いかなそうな表情で、僕のことをジト目で何か言いたげに睨んでくるが、ため息をつくと「まぁ、いいさ」と依頼の話に切り替わる。


「もちろん、引き受けたからには解決してみせるとも。その白百合某とやら、話を聞く限りでは年若い女性のようだ。目的が不明瞭にせよ、危険もそう無さそうだしね」


驚いた。危険がどうとかって考えあったんだ……。


「また失礼なことを考えていないかね、ワトソンくん」



そう言って僕にジト目をもう一度向けてくるけど、失礼なのはお互い様なのでご容赦いただきたい。だって僕はワトソンじゃないからね。


「とにかく、まずは情報整理から始めようか」



来栖さんは椅子に座り直すと、胸ポケットから取り出したメモ帳をパタリと開いた。


「依頼の標的は白百合 悠。本校に在学していないにも関わらず、複数の生徒から目撃証言がある。だが、全て同時期の目撃証言でありながら、目撃者がそれぞれ違う容姿の情報を上げており、チグハグな印象を受ける。目撃証言の共通点は本校の制服を着用しており、白百合 悠と名乗ること」



サラサラとメモ帳にペンを走らせながら、独り言のように続ける。


「いいね、実にミステリアスだ。楽しくなってきた」



にまにまと笑顔を浮かべ、メモ帳を片手に僕に向けて問う。


「君の──お仲間の(たぐい)だったりするのかい?」

「どうだか。僕は僕以外に来栖さんのいう、非実在の存在ってやつを知らないしね。わからないな」

「そうかい。ま、部屋に引き篭もっていては、解るモノも解るまい」



バチン、とメモ帳閉じ、来栖さんは椅子から立ち上がる。


現場百遍(げんばひゃっぺん)、というやつだ」

「それ、使いかた微妙に違くない?」

「君は、存外細かいヤツだな。ふふん、探偵は言葉の定義ではなく、事象の真実を追うものだよ」



呆れたような目で見てくるけれど、来栖さんが適当すぎるだけではないだろうか。本を適当なところに置くし、本当に効いているか怪しい冷房を放っておいてるし。


「さっそく、白百合(なにがし)とやらの目撃証言がある場所を片っ端から回ってみようか」

「探偵は足で稼ぐのさ、って?」



来栖さんの言葉を引用をすると「わかってきたじゃあないか」と笑顔で続けて僕に言う。


「付いてきたまえ、ワトソンくん!」

「はいはい、仰せのままに探偵様」





「あ、暑っつい」



時刻は夕暮れ時、といっても今の季節は夏。まだまだ日は高く、眩い太陽が(うら)めしい。僕らが校舎を揃って歩いていると、来栖さんが不思議そうに聞いてくる。


「君、3大欲求はないという割に、暑さは感じるのかい?」

「暑いモノは暑いよ。クーラーが効いてない部室とか、特にね」

「つくづくよく分からん生態だな、君は」



僕だって、自分のことながらよくわからんもので困っているのだ。夏の暑さとかシャットアウトできるなら、是非ともさせていただきたい。


などとしばしどうでもいい雑談をすること数分。


「まず、ここだ」



やってきたのは2年A組の教室前、来栖さんの所属するクラスである。目撃証言の1つがこの辺りらしい。


「私はそこいらの生徒に聞き込みをしてくる。君は……まあ、適当にしていたまえ」

「雑な扱いだなぁ。新入社員に仕事を振らないタイプ?教育担当者の育成放棄で労基に駆け込みたいね」



労基が僕みたいな存在を相手にしてくれるかは知らないが。とはいえ、来栖さん以外の他の生徒には僕が認識されない以上、聞き込みで役立たずなのも事実。悲しいね。


来栖さんは教室に顔を出すと、放課後だというのに談笑している2人の生徒を捕まえて話しかける。友達もいないのに、こういう時のコミュニケーション能力があるあたり謎が深まるばかりだ。


しばらくして戻ってきた来栖さんは、腕を組んで「むむむ」と(うな)っている。


「白百合悠とやら、生徒の間でも噂になってるようだが……やはり証言がバラバラだ」

「どんな感じだったの?」

「そこで話を聞いた生徒の1人が言うには、金髪の派手なギャル。だけど、もう1人が聞いた噂では品行方正で礼儀正しい、らしい」


九重さんから聞いた話の通りではある、けど──


「君は、どう思う?」

「うーん、変装……とか?」

「違うだろうね」



即答である。


「複数人が同時期に違う容姿を目撃している。変装で説明するには少し無理がある」

「双子とか、三つ子、てこともあるかもよ?」

「何つ子ちゃんなのかね、それは」



言ってる僕も無理があると思う。だから出来の悪い子を見るような目で僕を見るのはやめてほしい。そんな来栖さん本人が僕よりも突拍子(とっぴょうし)もないことを言い出した。


「となると、だ。──"観測する者に応じて姿が変わる"、という考えはどうだろうか?」

「それ、双子、三つ子よりあり得ないことを言ってる自覚ある?」

「君のような存在がいるんだ、あり得ない話でもあるまい」



チッチッチと芝居掛かった風に指を左右に振り「ナンセンスだよ、ワトソンくん」と僕に言う。


「それっぽい推理ではある、のかな」

「それっぽいとは失礼だね!私は常にそれっぽいだろうに!」



いや、来栖さんが"それっぽい"雰囲気なのは認めるけどさ。来栖さんはコホンと咳払いを1つして、話の続きを語る。


「つまり、認識に"干渉する存在"……よかったじゃないかワトソンくん。お仲間が見つかるかも知れないよ?」





その後も、僕たちは目撃証言のあった校内を回っていくつかの証言を集めた。


図書室では『黒髪ロングで眼鏡の文学少女』中庭では『やたらテンションの高いピンク髪』購買前では『妙に色気のあるお姉さん』……もう、なんでもありだなぁ。


「ずいぶんとバラエティに富んだ人なんだね。白百合さんはさ」

「そう、つまり件の彼女は、だ。オタクに優しいギャルであり、文学少女であり、えっちなお姉さんである……最強の存在だ。そんな存在とどう向き合って行けばいいものか……。」


確かに属性で言えば、最強そうに見えるけどさ。


「まあ、冗談は置いておいてだ。共通しているのは制服を着て白百合 悠と名乗ること。そして──」


来栖さんは人差し指を立てて考えを話す。


「"違和感を覚えない"こと、だ」

「違和感を覚えない?」


鸚鵡返(おうむがえ)しのように来栖さんの言葉を反芻(はんすう)する。


「その通り。普通ならね、証言がこれだけバラバラなら“おかしい”と感じる人間がいてもおかしくないはずだ。だが、誰一人としてそれを気にしていない」

「僕と同じように認識そのものにフィルターが掛かっている、ってこと?」

「ご名答だ、ワトソンくん。誰にも見えないが、実体はある君に対し、誰にでも見えるが、固定された容姿がなく実体があやふやな白百合 悠」


来栖さんは上機嫌そうにくるくると回り、「面白くなってきたじゃあないか、そうは思わないかい?」とにんまり笑顔。


「白百合さんが僕と似たような存在であると仮定して、次はどうするのさ、名探偵さん?」

「決まってるだろう?」



ピタリ、と足を止めて来栖さんはゆっくり僕に視線を送り言う。


「会いに行くんだよ、"本人"に」


「これだけ目撃情報があるんだ。逆に言えば、会いに行けば必ず会えるはずだ」

「そんな都合よく会えるかな」

「会えるさ」



来栖さんは自信満々に、僕を指さしてドヤ顔で告げる。


「幽霊しかり、妖怪しかり、こういう存在は、誰かに"見つけてほしい"ものであると相場が決まっているからね」


「だってそうだろ?私が見つけた、私から離れたがらない寂しがり屋のワトソンくん?」



うーん、来栖さんには敵わないなぁ。なんて考えながらも僕は「どうだろうね」とはぐらかした。


そんなやりとりを繰り広げていた僕と来栖さんだが──そこに思いもよらない闖入者(ちんにゅうしゃ)が現れた。


まるで、あまりの暑さに空間が陽炎のように歪んだかのように。最初からそこにいたとでもいうように。


「こんにちはぁ」



普段なら校舎に響く運動部が練習する声も、生徒たちの喧騒も、耳障りな蝉の鳴き声さえも、その一瞬は聞こえなくなった気がした。


「私のことを探してる人がいるって聞いたんですけどぉ、あなたたちですかぁ?」



僕らはその声の主の方へ振り返ると──


「初めましてぇ、白百合 悠で〜す」



いぇい、いぇい、ぴーす、と緩い雰囲気の少女が、へらへら笑ってそこに立っていた。




続きました。次話からは努力目標として週に1回投稿予定です。

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